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月の見える場所(短編)

僕は砂浜で月を見ていた
隣で君がつぶやく
今日も月がキレイね

今にも届きそうなほどに月が近い
僕は砂浜から水面へと泳ぎ始める
もう少しで届く、あの子が求める月がもう少しで届きそう

世界は終わりを迎える
僕は水面から出られない

下には君が見える
ああ、今にも届きそうな水面の月

仮初の月すら僕には遠いのか

声が聞こえる
「ねーねーお魚さん水槽の上の方まで来てるよ」
途端に月が消え、ソレは僕に顔を近づける
「ライトに当たってまぶしくないのかな」
「そのお魚さんね、いつもそのライト見てるのよ多分光っていて気になるんでしょうね…」
「ふぅーん、そうなんだ」
声が遠ざかると同時にまた、水面に月が戻る

僕が見ているのは虚空の月、偽りの世界で君にはこの世界が本物だと信じさせるための
君がつぶやく
次こそ頑張ってねと
君がいる限り何度でも頑張ろう今日も僕は偽りの世界を泳ぎ出す

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