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私たちは無知に殺されようとしてるの。

ほんとうの花を見せにきた 桜庭一樹 感想

笹の擦れる音とあったかい朝ご飯の匂いと、何かが少し焦げた香りが私を苦しくさせた物語だった。
桜庭一樹さん、昔に読んだゴシックを途中離脱した記憶がただただあって、大学の読書好きの友人がある日唐突に渡してきたのがこの本でした。ちなみに図南の翼をその場で買って返した。
心の凹凸にあり得ないくらい嵌る物語で、読んでて気持ちよかった。電車の中で読んでたけど、途中で喉が詰まって、嗚咽が漏れそうになるくらい号泣したけど、でも読むのを止めることもできなくて、世界はただただ温かくて、バンブーが、人間が、その生き様が、愛おしくなった。自分が、昨日よりも少しだけ好きになれそうな物語だった。
桜庭一樹さんの文章が凄く好きだった。森の中の木漏れ日を拾って文字にしたみたいな文章を書く作家さんで、読んでてあったかい気持ちになるのはそのせいかもしれない。
ムスタァも、洋治も、梗ちゃんも、その優しさに裸で抱きしめたくなる愛おしさが凄かった。
早々から多分この家族で『住む』という行為はバンブー的には良くないんだろうなとは思ってた。思ってたけど、その生活があまりに普通で、普通だからこそあまりに幸せで、どうしても目を背けたかったから見ないふりをしてた。最悪のタイミングでそれを知って、そして散った洋治を見て、それでも彼の生き様は綺麗で、幸せそうで、それがただ悔しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。
生きている私たちが美しいと洋治とムスタァが言ってくれたように、そんな人間を愛おしいと言う2人の心こそが美しくて、そんな風に生きられない己がまた悔しくて。
そんなお化けを忘れた梗ちゃんを私は少し恨めしく思ったけど でも多分それが大人になるってことで それがどうしても、歯の奥が痛くなるくらい苦しくて、悔しくて、 多分これはドラえもんだったと思うんだけど「大人になるってことはたくさん忘れることなんだよ」ってそれだけがただ嫌で仕方なくて、お菓子を買ってもらえない子供がスーパーでただをこねるように子供のままでいたいと思ってしまった。
いろんなことを忘れて、どんどん世界が固くなって歪むことのないものになっていくのだと思うと本当に、本当に。 自分だけのユートピアに浸っていられる時間ってあとどれくらいなんだろう。ユートピアの住人が気づかないうちにどんどんいなくなっているのだと思うと、ただひたすらに寂しい。この刹那に忘れたくないことがどんどん抜けてるのだと思うと、寂しい。

子供の頃、高速道路に乗って隣を走ってくれた忍者とか、本を読み終わった後に心の中で話しかけてたピグレットとか、雨の日に何故かいつも思い出してた妖精とかそういうものが日常からどんどん消えていくのは確かに寂しい。もう話しかけることも隣を走ることもなくなったお化けたちが、多分今後どんどん周りから消えて、信じられなくなる日がくるのかもしれないって、ものすごく、物悲しさがある。

言葉にした途端、その言葉よりな大きな感情の波が全てをもっていくような物語だったからここになんて書けばいいのかわからない。
孤独で苦しい夜に読みたい本。自分が大切に出来ない時に読みたい本。
全体的に人間讃歌の本だったから読んでてとても軽い気持ちになった。話は重いけど。
私は最初から最後までずっと洋治が大好きだったんだけど、だから『あなたが未来の国に行く』がめちゃくちゃ辛かった。
「私たちは無知に殺されようとしてるの。」
すごく好き。暴力的争いはいつだってどんな時だって無知から生まれるものだと私も思うから。暴力に委ねることしかできないなんてことあるはずがないと若さゆえにまだ思えてるから。
無知でいることが罪というよりも無知に無自覚で知ろうとしないことが争いを生むと思ってて、洋治はそれを自覚してて 類類は愛情と後悔ゆえにそれが見えてなくてただの独裁を敷いていて 最初の争いが全てを始めてしまったと考えると誰を恨んだらいいかわからないくらいに 
学ぶことって真似ぶことだというけど そうだよなーって思った。 まねぶことで相手のことが初めて分かるものだよなと。
お姉ちゃんが「みんなと相談しながら変えていこう」って法律の草案をただ誰の意見も取りあげずに執行する類類が100悪いと私には言えないのがまた辛い。
未来に行こうと、お姉ちゃんにその提案を最初に持ちかけてしまったのが洋治なのがまた辛い。そしてここまで人間のことを真似ぼうとしてくれた彼が、最後に受け入れようと死んだのがどうしても信じがたくて、喉に突っかかった魚の骨みたいに思い出しては痛む。
『ほんとうの花を見せにきた』は犬の話がキツすぎて泣いてしまった。許してるよ、その一言だけで救われる人がいるのを忘れちゃだめだよなって 確か文ストで「人は誰かに生きてていいよって言われなきゃ生きていけないんだ」ってセリフがあったけど 生きてていいってただそれだけの許しすら必要とする人間はおそらく身近に沢山いて、それを拾える人間でありたいなとおもった。
この物語に出会えてよかった。わたしの本棚に残り続ける作品だなと思った。

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