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2018年上半期ドラマベスト10

1. グッド・プレイス S2
2. ペーパー・ハウス
3. ワンデイ 家族のうた S2
4. GLOW S2
5. レギオン S2
6. Counterpart
7. Atlanta: Robbin'
8. ザ・テラー
9. 世にも不幸なできごと S2
10. ブラックライトニング

 これまでのドラマ視聴はシリアスな作品が大半だったので、昨年に続きコメディーやアメリカ以外の作品、ドキュメンタリーを交えながらの上半期になった。新作以外にもCBSの長寿番組『ビッグバン・セオリー』やHBO『VEEP』をマラソンして気付いたのは、伝統的なシットコムとは別種の斬新なコメディーが多く生まれていることである。
 そのなかでもトップに選んだNBC『グッド・プレイス』シーズン2は多いに感心した。ネットワークの移行で話題になった『ブルックリン・ナイン-ナイン』で知られるマイケル・ショアーがショウランナーの『グッド・プレイス』は、「悪いところ=地獄」に行くはずだったエレノアが間違えて「良いところ=天国」に送られるところから始まる。哲学者でソウルメイトのチディの助けを借りて良い人になろうとするが、シーズン1の終盤で最初から「悪いところ」にいたと気付く。この衝撃的なラストから続くシーズン2は、死後の世界を大胆に暴れまわるアドベンチャーであると同時に、4人併せてやっと+1の自称チームゴキブリが、「良い人ってなんだろう?」という世界の理を解く奥深い内容になっている。シーズン3の開始が9/27に決定しており、下半期で最も楽しみなドラマのひとつだ。
 日本では観賞できる状況に無いため話し難いものの、ドナルド・グローバーの「Atlanta: Robbin'」はシーズン1よりはるかに強力な出来栄えだ。ドナルド・グローバーと長く組むヒロ・ムライに加えて『ガールフレンド・エクスペリエンス』のエイミー・サイメッツが監督で参画し、アーンたちの日常を絶妙のギャグと痛烈なレイシズム批判で描いている。とりわけヒロ・ムライが監督したEP7‘Teddy Parkins’は傑出したエピソードで、サミー・ソーサやシーズン1の‘B.A.N.’で言及されるアフリカ系アメリカ人のアイデンティティーと「白塗り」問題を取り上げつつ、マイケル・ジャクソンやマーヴィン・ゲイのように歪んだ親子関係にあったミュージシャンを連想させるキャラクター創りで、直近に「This is America」をリリースしたドナルド・グローバー=チャイルデッシュ・ガンビーノの真骨頂と言えよう。
 いっぽうで『ワンデイ 家族のうた』は伝統的なシットコムだが、こちらも笑いのネタは実に多彩で豊かだ。キューバ系移民であるアルバレス家三世代を主人公にした物語は、現在のアメリカ共和党政権の外交政策を風刺するだけでなく、男女の雇用格差から中東戦争帰還兵のPTSDまで扱い、視聴者にわかりやすく諭しながら笑って泣ける作品だ。

 スペイン発のケイパードラマ『ペーパー・ハウス』は2018年最大のサプライズだった。ひとりの教授と8人のワケあり強盗が狙うのは、ただの金ではない。国立造幣局を占拠し、人質を盾に立てこもり続ける限り紙幣を印刷するという斬新な設定が素晴らしい。あらかじめ言っておくと、この作品は全てのエピソードがひとつの事件を描いている。あの手この手で時間を稼ぐ「時は金なり」作戦の大胆さに驚き、警察との攻防戦に手に汗を握り、強盗と人質の過去と未来が交錯するドラマに熱くなる、疾走感のある傑作だ。

 アメコミドラマからは『レギオン』と『ブラックライトニング』を選んだ。『レギオン』シーズン2は前章を上回るサイケデリックでシュールレアリスムの映像表現と、ノア・ホーリー作品に共通する善悪の境界を論考する脚本が抜きん出ている。作曲のジェフ・ルッソや撮影のダナ・ゴンザレスといったお馴染みの面子の活躍はもちろん、アナ・リリー・アミルプールやサラ・アディナ・スミスといった若手監督を知る機会にもなった。
 『ブラックライトニング』は『ALLOW』や『スーパーガール』などの親しみやすいCW作品ながら、『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』『ブラックパンサー』と連なるアフリカ系アメリカ人の歴史を巧みに取り入れている。即ち、1960年代の人権運動や1980年代のクラック・パンデミック、司法の機能不全とオバマ政権でアメリカは変わったのか?という問いだ。この提起は加害者への訴えであり、被差別者への警鐘でもある。

 さて、視聴中なので年間ベストまでおあずけになりそうなのは『侍女の物語』シーズン2と『ウエストワールド』シーズン2だろうか。『侍女の物語』のほうは年間ベストどころかオールタイム・ベストシーズンに推したい勢いで、8月の日本配信を待ちわびている人はその圧巻の出来栄えを期待してほしい。フィービー・ウォーラー・ブリッジのBBCドラマ「Killing Eve」は日本に輸入されなさそうなので北米版を購入済み。死体が積み上がっていくものの軽快なスパイコメディーである。
下半期は『アンという名の少女』『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』『ベター・コール・ソウル』と夏本番の期待作が目白押し。『ゲーム・オブ・スローンズ』が不在でも熱いシーズンになりそうだ。

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