『LEFTOVERS/残された世界』
『LEFTOVERS/残された世界』は2014年からHBOで始まり、2017年のシーズン3を以て完結したドラマだ。2015年のS2終了時点では続行が決まっていなかったが、ファンの要望もあってS3が製作された。日本では2017年の夏からスターチャンネルでS2まで放送され、続くS3も北米からさほど遅れずに観ることができた。
なお、このエントリはネタバレ無しで書いている。というより、物語を説明するのが難しい。
"leftovers"は「残りもの」という意味だ。全人類の2%が忽然と消えてしまった世界で、残された人々が決して拭えない喪失感と不安に向き合う物語である。『LOST』のデイモン・リンデロフがショウランナーであることから些か誤解されるようだが、このドラマは"旅立ち"と名付けられた10月14日の消失を謎解く物語ではない。結果から言ってしまえば、最後まで理由など明かされないからだ。
喪失を考える物語ならディズニー・ピクサーが優れた作品を数多く創っている。大事なおもちゃを渡すことで区切りをつける『トイ・ストーリー3』やこどもの思い出を忘れて成長する『インサイド・ヘッド』など、私も大好きな作品ばかりだ。これらが優れているのは、登場人物の選ぶ別れと成長を、観客が理解できるよう誘導しているからだ。しかし出来事が日にちで記憶されるような、私たちは2011年に、アメリカは2001年に体験したようなことに対して、残されたものの心を導く確かな「処方」などあるのだろうか。
ある者は前に進もうとする。"旅立ち"で夫とふたりのこどもを失ったノラは、"旅立ち"を調査するDSDで働いて立ち直っているようにみえるが、コールガールを家に呼んでは自分に銃を向けてもらう衝動を抑えきれない。そもそも旅立ったものたちは「死」んだかどうかすらわからないのに。
またある者は記憶しようとする。セラピストのローリは病院で胎児をカメラでみていたのに、忽然と旅立たれてしまう。まだ夫に妊娠を伝えていなかった彼女は、家族を捨ててGuilty Remnantと名乗るカルトに入信していく。"Living Reminder"を自称する彼らは、「いつ訪れるかわからない別れを体験したことで愛情や愛着は絶滅した」と言い、忘れようとする人々に襲いかかる。
宗教に詳しい方ならお気づきかと思うが、『LEFTOVERS』は患難前携挙説を採る物語だ。ドラマのなかでも聖書を携えるものたちは"旅立ち"を携挙になぞらえて語り、7年めに終末が訪れると説いている。この作品が厄介なのは過剰なまでにキリスト教的シンボリズムが出てくるところで、信仰の薄い私にはさっぱりわからないし、数多く使用される歌曲のリファレンスもほぼ聞き逃している。ここまで読んでいただいて申し訳ないのだが、物語を理解してこのエントリを書いているわけではない。
正直に言ってしまえば、全28話のうち第27話まではこの「わからない」が頭を悩ませた。キャラクターたちにどう生きればいいか教えることはできないし、物語が何を伝えようとしているかもわからない。キャラクターたちと視聴者は、出口のみえない戸惑いのなかで何を「信じる」かが常に問われ続ける。
それでも最後まで観続けてこの感想を書いているのは、最終話が驚くほど素晴らしかったからだ。先述した通り物語の謎が明かされるわけでもないのに、今までの時間はこの最終話のためにあったのかと感激して号泣だったのである。『LEFTOVERS』が批評家から絶賛されながらも各賞から無視されているのは、題材がメル・ギブソンの『パッション』のようなものだからだと思うでさほど気にしていないとはいえ、この最終話におけるキャリー・クーンとジャスティン・セローの演技は永遠に心に残るものだった。
解説でも推奨でもない駄文の最後に、モチベーションが「ちょっと観てみるか」程度では最後まで視聴を継続できないだろうと伝えておきたい。最終的に私は観てよかったとおもったけれども、シーズン2の中盤辺りまでは脱落しそうだった。今のところスターチャンネルでの再放送は予定されてないため、VODやHuluにくるとしてもだいぶ先になりそうなのもお薦めし難いところか。
かえすがえすも、最終話だけは至高だと断言できる。存続すら怪しかった難儀な長篇を完璧に纏めあげた歪さは本当に称賛したい。これが映画なら最後の10分だけは良かったと褒めたりしないのに、毎週配信されるドラマの形態でそれが可能なのか考えてしまっているくらいだ。
そして私は、『LEFTOVERS』の終わりにみた光景が意味あるものだったと信じている。
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