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くるまに守られている

大喜る人たちに出ている。

普通の収録だと思って会場に行ったらよくわからない大喜利で、なんか白いダンボールで作った大きなニセ車の中で大喜利をやらされることになった。

ダンボールの中は暗くて、ちょうどホワイトボード大の穴が二つ空いている。どうやらここから回答を出すということらしい。

番が回ってきて、僕と令和ロマンの高比良さんがニセ車に乗り込む。

大喜利が始まって、高比良さんが秒速で回答を書く。

ニセ車の中は狭いので、すでに長年連れ添った夫婦みたいな絆が俺たちの中にはある。

「ちょっと行ってくるわ」

高比良さんがそう言ってホワイトボード大の窓から回答を出し、すぐに窓からお客さんの様子を見はじめた。

固唾を呑みながら見守っていると、高比良さんが小刻みに震え出した。

「今日の客、誰一人笑わねぇ・・・」

嘘みたいに青い顔で振り返った高比良さんが一言。

「お笑いとか、知らないんすかねぇ?笑」

ヘラヘラ言ってみたけど、内心は気が気じゃない。

「窓が小さいからかな・・・」

確かに。こんな小さい窓でどうやって笑いを取るっていうんだ。

次は俺の番だと高比良さんとハイタッチして窓に向かう。

恐る恐る回答を出して窓を覗いてみると、体験したことないぐらいウケてる!!

窓関係ねえじゃん!!

「いや〜マジ客殺したいっすねぇ〜笑」

でも言えない。ウケたなんて口が裂けても。

「森森くんの回答めちゃ面白いのになぁ〜」

面白い。面白いからウケちゃった。このウソを許してほしい。

再び高比良さんが窓に向かう。

「次は大丈夫だと思う。」

そうだ、この人は面白い。二度外すなんてことはない。

「絶対大丈夫ですよ!ウケなかったらマジ俺が客殺しときます!笑」

「頼むわ笑」

つまんねー先輩後輩のやりとりをしてから高比良さんが回答を出す。

どうだ・・・?

「うぅ・・・・・・」

唸っている・・・。

刹那、高比良さんの背中が破れ始めた!!

真っ赤に肥大化した背中の筋肉が露わになる。

「こんなものがあるから!!!!」

「高比良さん!!!やめてください!!!!!!」

肥大化した筋肉をこれでもかと見せつけながらニセ車を壊し始めた!!!!

「ダメです!!!!僕たちはこの車の中で大喜利をするんです!!!!!」

「大喜利に車なんて必要ねえんだよ!!!!」

「必要です!!!!大喜利に車は!!!!!必要です!!!!!!」

高比良さんはウソみたいな筋肉で破壊の限りを尽くし、僕らは白日の下に晒された。

客の目が痛い。

失ってから初めて気づく。車は僕たちを衆目から守ってくれていたんだ。

「高比良さん・・・」

高比良さんの筋肉はまだ止まらない。

ホワイトボードに物凄い速さで何かを書き込んでいる。

そして、回答を、出した。

「大喜利!!!!!!!!!!!!!!!!」

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めちゃくちゃウケている。

さっき体験したことないぐらいウケたけど、その10倍はウケている。

体がよじれすぎて変な方向になっちゃってる人もいる。

人ってこんなにウケるのか。怖い。

「森森!!!!やったぞ!!!!!!!!」

おまんじゅうみたいな力こぶが眩しい。

この人ってこんなに黒かったっけ。

「あと書いてる人いたら出すぐらいでお願いします〜」

マズい。高比良さんがこんなにウケて、俺もこのままでは終われない。

でもまだ何も書いてない。どうする。

「もう大丈夫ですか〜??次行きま・・・」

「ちょっと待ってください!!!!!!」

声を振り絞った。まだ何も書いてないのに。

「じゃあ森森さんいきましょう!」

待って・・・今書く・・・

「森森さん??」

今書いてるから・・・!

「まだ書いてないんですか??」

「すみません!まだです・・・!」

涙が出そう。

「ちょっとそういうの困るんですよね、進行に迷惑なんで今後やめてもらえますか??」

「すみません・・・泣」

冷や汗が止まらない。でもペンは動かさないと・・・

「まだですか???」

「はい、今出します!!!」

こんな回答じゃ、人を笑わせることはできない・・・

「では森森さん、どうぞ!」

でも、出すしかないんだ・・・!!!!

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「『あなたは703号室で、わたしは710号室だから、わたしの方が強いよ!!!!!!!!!』と叫んでしまった!!!!!!!!!!!」

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

「ごめんなさい、森森さん。迷惑なので今後の出演は無しでお願いします。」

出禁になった。

大喜る人たちを、出禁に。

あんなに楽しくワイワイ大喜利する場所が、どうしてこんなことに・・・

嗚咽が止まらない。

さっき食べたメロンの味がする。

客の目線が背中に刺さる。

こんなことになるならずっと車に守られて大喜利やってるんだった。

車が恋しい。

すぐに外に出て並木道を歩いていると、すっかり小さくなった高比良さんがいる。

「おう、森森!どうだっ・・・」

「高比良さん!!!!!!!!!!泣」

「お〜どうしたどうした!」

マッチョだった頃の凶暴さがウソみたいに優しい。

「高比良さん、、俺、、出禁になりました、、、!!!!!泣泣」

「そっか、お前もか・・・」

「お前も・・・?」

「俺も、出禁になったからさ・・・!」

「高比良さぁん!!!!!!!!!!泣泣」

帰り道にガリガリ君をおごってもらって、河川敷で食べた。

(おわり)



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