旅ごときでは人生は変わらない

明後日から、世界放浪の旅に出る。日本を出る上で友人や家族、同僚から一番言われた言葉が"いい経験をしてきな"、だ。この言葉は一見、何の悪意のない、むしろ最良とさえ云える門出の言葉のように聞こえるが、いい経験とは何なのだろうか、と考え煮詰めると、何か特別なことをしないといけないのではないだろうかという気にさせられる文言である、ように感ぜられる。そこで僕が思うのは、旅ごときでは人生はさして変わらないのではないだろうか、ということだ。普段の暮らしと大差ない、精々毎日の食住に頭を悩ませる煩わしさがあったり、ひったっくりや置き引きに合うリスクが日本より高いという程度で、日本に暮らしているときよりもむしろ、考えたり振り返ったりする暇などないほどエネルギィを搾り取られるだろう。そうすると、経験が経験として昇華されずに、ただ事象として眼の前を気づかぬうちに通りすぎていく。そうならないように具に観察する習慣はそれなりについてきたのだが、それは日本での手慣れた生活の中での話だ。旅に慣れるまでそうはなかなかいかないだろう。旅はさして人生を変えるだけの力を持ち得ない、それでも少なからず希望の欠片のようなものを持っていることも事実だ。気張らずに頑張らず、それでも何か一つでも土産話にできるくらいには楽しんでこよう、と思っている自分を傍に見て、努めて冷静になろうとしている。そんな経験を人と共有したいなあ、なんて考えも去来している。


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