カレイドメッセージ

太陽から3番目の石ころから失礼します。
あなたが今これを読んでいるということは、僕はもうこの世にいないのかもしれません。
人類の寿命が脱出限界を超えていることを願う他ありません。
僕は今、宇宙記号論を学んでいます。だから、あなたがどんな記号体系を有しているかを想像するだけの知識がぼくには備わっていますし、それがなくたって知的生命体には集合的共通意識があるのではないかなんて夢想している次第ですから、あなたと会話することが何よりの楽しみです。
エッジワース・カイパーベルトの向こうから、数万AUの距離を超えて、僕を拐いにきてくださいますことを心より希求しております。
この文章は0と1にエンコードし、UTF8に則っておりますので、そちらの対応表も同封させていただきますーー

と。
僕は筆を置き、積み上げられた自分の書いた紙の束に目を向ける。もし自分が宇宙人であったらこの文面からわざわざ何万光年先にいるであろう差出人に会いに行くだろうかと考えると、雀の涙ほどの自信がみるみるうちに蒸発していく。
待つこと自体は苦手ではない。むしろ、今までの人生は常にパッシブだった。しかし、このメッセージを受けて、僕がカーマンラインを超える日は一体いつやってくるのだろうか。
そんないつくるかも分からない日を待ちながら、僕はこれからの人生を過ごしていくのだろうか。


グオォォオオン
すると、外で耳をつんざく轟音がなる。
慌てて外に出ると、湾曲した淵黒の楕円形が地面に突き刺さっていた。
地面と接した部分から円形に幾重にも発光すると、楕円形の頂点に人が立っていた。
「拐いにきたぜ、兄弟」
僕はその日、宇宙人に誘拐された。

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