オニゴッコ

鬼ごっこ、というゲームが分からない。いや、ゲーム自体は知っているのだが、はてどうなったら勝利になるかという条件が分からない、という理由でそぶっていたら、いつの間にかクラスの中であぶれてしまった。休み時間の今、僕は荒木と共に屋上に続く階段の踊り場で将棋を打っていた。マグネット式の、だ。
「なあ、おまえ」
荒木がお前という時は大抵、ぐうの音も出ない論理を備えた講義をはじめるときだ。
「人には生来、陰も陽も備わっている。明るいやつも暗い一面をもつし、その逆も然りだ。だが人にはそれぞれ傾向がある。そしてお前はどう考えてもこんな校舎内の僻地で地味なゲームに興じるようなタイプじゃない。悪いとは思うが、お前は陰キャ、、こちらの世界の住人じゃないからでていってくれ。じゃあな」
俺は慌てて訂正する。
「いや俺だって、グラウンドに出て人を地の果てまでも追い立てそうな形相の陽キャから漏れてこっちに来てんだって。」
荒木はふうむという。
「ということはお前は陽キャからも陰キャからも見放されたかわいそう子羊なんだな、いや、この場合は狼と呼んだほうが慰みになるのか。とにかく、そんなお前のようなやつが進む道は一つしかない。自分で新しい道をつくるんだ。太陽でもなく月でもない、地上で高く切り立つ山に。陰でも陽でもない、危険で険しく切り立つ山。それがおまえらのつくる道、険キャラ。さあ、どうだ」
「なんか、すまん」
「なぜ、謝る?」
「可愛そうになって」
「存外しっかりしているのだぞ。陽と陰は同じこざとへんで読みが二文字になるようにし、陰陽が太陽や月と関わりがあるように、険という漢字は山がたかくきりたつ様子を表すとされている、どうだ完璧だろ」
「そうか、わかったよ。俺はこれから、俺を待ち受ける危険や険難に立ち向かい、つらく険しい道も邪険にせず、危急存亡をかけて戦い抜いてみせるぜ」
「おう、いってこい」
「ところで、こんな中二病全開な設定と会話についていけるなんてまるで陰キャだな」
「……」
「……」
「おかえり」
「ただいま」


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