NanoVNA(S-A-A-2) と LiteVNAのこと

この記事が目に止まった人はVNA(ベクトルネットワークアナライザ)が何であるかご存知の方でそういう高周波系の方なんだろうと思う。だけど今回書く内容はオープンソースとオープンハードウェアについての話になる。


NanoVNAの経緯

この段落はほとんどCQ出版社の雑誌RFワールド No.53 「NanoVNAで広がるRF測定の世界」からの引用なのでそちらの内容をご存知の方は読まなくて結構です。
西暦2000年よりも前の話、自分が学生の頃に電子工学・電子回路の研究室に所属していたころはベクトルネットワークアナライザは高価な(概ね100万円ぐらいのイメージ)測定器で個人の所有するような機器ではなかった。
これを最近のIC化された高周波素子と安価に簡単に使えるようになったSoCを使って1万円以下の価格で、色々制限はあったものの気軽に入手できるようにしたもの。これは基本構成はドイツ応用科学大学のThomas Baier教授が開発したVNWAが元になっていて、日本の技術者、高橋知宏(edy555)氏がポータブル機器として実装してキットとして頒布したものがオリジナルのNanoVNA(2016年頃)。これのファームウエアや回路図をGithubで公開したところ、NanoVNAのクローンが2019年頃に中国で製造され流通するようになったとか。
その後単なるクローンではなくて回路構成を変更してオリジナルよりも広い周波数範囲(オリジナルの0.1~300MHz→上限3GHz以上)で使えるようになったnanoVNA S-A-A-2と呼ばれるものとそれの変種が流通している。
これはNanoVNA V2と呼ばれる事もあって、高橋氏の意向としては高橋氏自身の改良と区別するために「NanoVNA V2」いう名前は変更は変更して欲しいと申し入れされているようだが現状は「協力が得られていない」状況。

NanoVNA S-A-A-2とそのクローン

S-A-A-2は中国南京市の2つのグループHCXQSとOwOcommによる開発とされている。少々危なっかしいけどトップのページは日本語にもなっている。

こちらを読むといきなり「性能の低いクローンが出ているがそちらは買わないように」的な内容がある。私は先にRFワールドの記事を読んでいた事もあり、「ふーん」的に読み流していてうっかりここで槍玉にあげられている質の低いクローンを買ってしまった。
S-A-A-2の開発グループはオリジナルNanoVNAとは互換性のないハードウェア構成、ファームウェアを開発し、ファームウェアについてはGPL、回路図、基板レイアウト等についてはCC-BY-SA-NAライセンス(クリエイティブコモンズ・ライセンス:表示-非営利-継承ライセンス)で公開している。

つまり公開されている情報を使えば誰でも動作するNanoVNA S-A-A-2の基板を作成できる。非営利であればライセンス的には全く問題ない。

だけどまあ中国だからAliExpressあたりで流通している物はありていに言えばコピー品がある。それを止めることが難しいのは開発している人たちも十分わかっているはず。
それを何でわざわざ名指ししてまで文句を言っているのか。それは以下のページに書いてあった。

It is a sad day for open source hardware


多分こんな内容だと思う。何か間違いがあったら指摘してくれると嬉しい。

  1. クローン品を作って売る事は問題ないと考えている

  2. S-A-A-2のような数GHzの高周波を扱う製品は回路図の通りに作っても同じ性能にはならない。よい性能を出すためには色々な技術、ノウハウが必要

  3. あるクローン販売業者は低品質の製品を水増したスペックで販売し、さらにアンフェアな方法を使ってS-A-A-2開発チームの製品販売を妨害した

  4. このような行為をされては改良した製品を作っても今までのように情報を公開することはできない

名指しされていたのがZeenkoのLiteVNAだった。
これはノイズフロアがかなり高く初期ロットのものはUSB-Cケーブルをつなぐとさらにノイズが増えるというものだったようだ。一応USBケーブルの件については対策が行われた様子。内部的には部分的にシールドはされているが、ケースはプラスチック成型になっている。
これに対してS-A-A-2開発チーム本家の改良版(V2 Plus4/Plus4 Pro)はいかにもな無骨なアルミのシールドケースに収められていて価格もそれなりに高い。高周波のノイズ対策にはコストがかかると明言している。

この件、個人的にはもう20年も前に通った道だった。
製造のノウハウや品質保証の必要な世界とオープンソースは相性がとても悪い

だから必要に応じて仕様は隠す。裁判沙汰になった時のために特許、意匠、ブービートラップ的な設計要素の導入で守る。

最後に
白状してしまうがLiteVNAに対して簡単にできる高周波ノイズ対策を一つ試してみたところ意外に大きな効果があった。
これは公開するつもりはない。


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