〘ルールを守るためにどうしたらよいか。動機、コスト、報酬、自己観察、ロジック、ルールの関係性から考察する〙

 例えば、デモトレードやトレード訓練用ツールでは何時間作業しても損益が生まれないが、チャート観測とリハーサルエントリーを通じて学習体験という報酬を得られる。

 しかし、訓練によって新規に学習する情報が何もないだろうと想定する場合、論理的には報酬として成立せず、ただの時間消費というコストだけを支払う事になってしまう。

 トレードスキルの獲得を目的とした予備学習体験に消費する時間に対しても、1週間必要という考え、1ヶ月間必要という考え、1年間必要という考え、固定期間ではなく絶対的な自信とノウハウを獲得するまで必要とする考えなど、学習メソッドの根幹にある考え方によって目安となるコストと報酬の設定が変わる。

 訓練段階では時間をコスト、学習体験を報酬と設定するのだが、本番の段階ではコストにも報酬にもリアルマネー=資金が加わる。

 そして、本番においても時間のコストや学習体験の報酬が除外されるわけではないのだが、資金という概念は脳の報酬に関わる領域において支配力が強すぎるため、観測活動を続ける脳はたちまち資金の増減=損益=勝敗=成功と失敗の行方が最重要だと捉え始めてしまう。

 脳が資金という報酬に完全に囚われてしまうと、チャート観測は資金増加チャンスをひたすら追い求めるだけの作業となり、時間や体力を忘れて没頭したり、疲労や苦痛を感じても張り付いたり、コストとして減少した資金を回収してまたプラスに転じさせるまで執着する状態に陥る。

 実際、長くチャート観測をすればするほど多くのチャンスタイムに遭遇することが可能ではある。しかし、観測時間の長さに応じて脳の情報処理パフォーマンス低下、変遷する相場環境への適応不足、そして何よりも危険な心理状態の変化=興奮状態への移行、または感情的な行為を頻発する状態に移行しやすくなる。

 まとめると、資金という報酬の変化に焦がされた脳は、コストとしての資金減少リスクの増加よりも、報酬として資金増加チャンスの増加だけに目先を向け、体力が続く限り自己管理や自己抑制を放棄した蛮行に励もうとしてしまう。

 そこで資金の変化に脳が焼き尽くされないために必要となるのが、トレード本番に挑む前に自己観察能力を高めておく日々の積み重ねであり、瞑想を代表とする自己観察のメソッドと実施ルーティーンとなる。

 チャート観測をしている最中はチャート上から読み取られる市場の反応と運動の分析に意識が集中し、情報処理に脳の機能が圧迫されてしまうため、自己観察能力を発揮しにくい状態である。

 反応と運動の分析のみに意識が集中している間は良いものの、脳の仕組み上、エントリーした瞬間から損益の方に意識の注目優先度が移行しやすくなる。

 そうして時間経過と共に複数回エントリーを繰り返す内に、リスクと報酬の度重なる交錯によって脳が焼かれていってしまい、感情的な行動を取りやすくなり、破滅しやすくなる仕組みになっている。

 そこで時間制限や入金制限のルールを機能させて、延々と時間を掛けて観測する行動や、残高がなくなるたびに延々と入金する行為を予防せねばならない。

 しかし、人間がルールをきちんと守るにはルールを管理する力が必要になる。競技スポーツでいえば競技者当人、審判、監督、観衆による監視の目、何よりも明確かつ洗練されたルールが元々存在するからこそルールは正しく機能する。

 しかしトレードを一人で行う場合、まずルールを制定せねばならない。そして一人という環境下において完全に自分の力のみでルールに基づいた自己管理をせねばならない。

 ルールを必ず守るという行為は、一口に言っても実際のところ容易ではない。人の脳は常に自由であり、自己都合の良いように個人を取り巻く状況や事情を再解釈し、直ちにペナルティを被らないルールは簡単に破ってしまうし、誰からもお咎めのない行為は平然と行ってしまう。

 だからルールを守るというのは、放っておくと自由にする脳の活動を制限することに他ならない。他人がいれば、声を掛けたり肩を叩いたりしてルールを守りましょうと働き掛けられるが、それを一人で自分に行わなければならない。

 そして、時間制限ルールでは1時間で観測をやめるように指示しているけれど、1時間経過する頃に強いチャンスの予兆が見えてきたとしたら観測は打ち切るべきなのか、続けるべきなのか。続けるとしたらどこまで延長するのか。

 あるいは、エントリーが連続失敗して残高がなくなってもその後のタイミングでナンピンすれば回収できる見込みが大きい、という状況下において、チャンスを放棄して入金制限ルールに従うべきなのか。これらの問題まで追及し、厳密に制定しておく必要がある。

 また、ルールを文章化した付箋を目に入りやすく配置したとしても、落ち着いている間は交互に見渡すことができるけれど、チャートの情報処理に脳が集中している間は観測とルールを交互に意識し続けるのは難しい。記述の内容やレイアウトも、脳に再入力しやすく洗練する必要がある。

 アイデアとして、トレード中の自分を録画する、配信する、など客観的かつ俯瞰的に自身を観測する(させる)という方法もある。私の場合はあまり効果がなく、撮影していてもブチ切れたりしていたし、繰り返しても改善できていなかった。それぐらいメンタルにレジリエンスがないのだというフィードバックは得られた。

 私のようにレジリエンスに乏しい人間は、瞑想の繰り返しによる自己観察はもちろん、チャート観測時間制限によって脳を守るのが何よりも重要だと考察している。

 私は普段からドーパミンレベルが高い体質だと思われるが、ドーパミン大量分泌に伴って知性の働きは更に活発になるものの、興奮傾向を強めてしまう。普段の平静な状態がベストであり、少しでも興奮すると過興奮となってしまう。

 だからなるべく少ない時間、理想は15分程度で観測を終えられれば1日のメンタルリスクは最小となる。また、脳のパフォーマンスが持続する2時間以内に得られた利益を1日の最大報酬と考えるのが最適である。

 1時間を超えて2時間以内まで観測する場合は必ず10分間以上の休憩が必要。前述のように、チャンスタイムの到来が近そうな場合にも観測を打ち切るべきかという問題があるが、休憩が必要であればどんな状況下でも必ず打ち切って離席した方が最終的にコストが小さくなり報酬が大きくなる、というロジックに身を任せるべきだと結論付けた。

 入金制限ルールに関しても、設定金額を2回入金して2回ともボコボコにされるようであれば1日全ての相場状況と自分が噛み合っていないのだからそれ以上コンティニューせず打ち切った方が最終的にコストが小さくなる、というロジックに身を任せるべきだと結論付けた。

 このように、自分にとってコストを小さくして報酬を大きくするロジックを発見し、学習したのであれば必ずそのロジックを信じるようにする。

 ルールを守るということは、そのルールに含まれたロジックを状況や事情に応じて再解釈または再編集することなく、そのまま素直に従うということだ。過去の自分が見出したロジックに対して、完全に身を委ねなければルールを守れない。

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