【詩】春


恋人たちが桜の木の下で笑っている
家族連れがお菓子を広げてピクニックをしている
老夫婦が二人並んでベンチに座り居眠りをしている

現実なのに映画をずっと見続けているような感覚

あたたかい陽気に誘われて
春は幸せばかりが目立ってしまう
夕方なのにまぶしくて、目を伏せて歩いた

春はみじめだ
ひとりでいるのは寂しくないけど、だれかといるのが恋しくなる
だれかといる幸せが幸せなんだよって言ってくる
そんなことはないはずなのに

家に帰って、白いワンピースのしわをアイロンでのばした
アイロンの熱でほんのりあたたかくなったワンピースに袖を通す

お気に入りの白いワンピース

裾を揺らして、さっき歩いていた道をひとりで歩く
私は幸せ
夕日はとっくに沈んだけれど、この白いワンピースが辺りをほんのり明るくするの
私は幸せ
ゆらゆら揺れて、ほらほら綺麗
私は幸せ
お気に入りの服を着て、春の季節をひとりで歩くの

ひとりでも
だれかといても
幸せを幸せだと感じられることが幸せ

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