見出し画像

2023年9月22日 短歌研究四賞授賞式スピーチ内容

時:2023年9月22日 17:00開催
於:講談社26階ホール

補足
短歌研究社は主催している賞について例年合同の授賞式を開催しています。本年はコロナ禍による集会制限のため開催されていなかった2020年度から本年23年度までの受賞者が集められ、2時間半にわたって選考委員による講評と受賞者スピーチがありました。
私は昨年2022年度の第40回現代短歌評論賞受賞者です。
なお昨年度まで評論賞の選考委員を務められていた篠弘さんは、22年末に逝去されました。会場の皆さんはそれをご存知であるため、それを前提としてお話ししています。
トップ画像は竹柏会の諸先輩方から頂いたお花です。

********以下本文********

こんにち短歌史を読みはじめると、まず篠弘の名前を知ることになります。評論賞には4回応募して、4回目に受賞しましたが、応募に当たっては、短歌史的な観点から篠弘を目標にしてきました。今日のこの場に篠さんはいらっしゃいません。

評論賞と篠弘には切っても切り離せない縁があります。評論賞41回のうち、初回から第40回までは篠さんが選考委員を務められていました。ここまでの41回で受賞者は37人。受賞者なしの年もあります。癖で数えたのですが、うち女性は9人、1/4でした。ジェンダーの話は時間がありませんので割愛します。

さて、篠さんは、短歌史を滅亡論との緊張関係において描き出します。
私はその視座を継承したいと考えています。
代表的な滅亡論争では、常に抒情からの離陸が語られてきました。代表的なものを三つ挙げます。

明治末の滅亡論、尾上柴舟の「短歌滅亡私論」に対しては、石川啄木の作品があります。啄木の盟友であった土岐善麿は、啄木の短歌について、自分自身の社会生活と革命意識を信用するための「悲しき玩具」であったと指摘しています。

大正末の滅亡論、釈迢空の「歌の円寂する時」に対しては、迢空自身が叙事詩の導入を試みて、第二歌集『春のことぶれ』を出しています。

そして戦後の滅亡論、臼井吉見「短歌との訣別」および小野十三郎「奴隷の韻律」に対しては、近藤芳美が「今日有用の歌」を語り、塚本はと詠嘆調からの離脱を試みていました。その成果が近藤芳美の『埃吹く街』であり、塚本邦雄の『日本人靈歌』です。

つまり、作品によってそれぞれの滅亡論に応えた人々は、社会詠の方向を向いていたのではないでしょうか。しかし、彼らの作品を社会詠と呼ぶ人は多くありません。かつて私は「よい社会詠とは社会詠に見えないものだ」と語ったことがあります。

篠さんにお手数を出したところ、お葉書が返ってきて、その末尾は「立論とともに、作歌をさらに大事にして下さい」と結ばれていました。
なるほど。これからの私の課題は、短歌史を背負って立論をすることではないか。そして自分自身の論を、作品によって立証していくことではないか。

「作品と理論は相互に共鳴し、進化する。」とは現代短歌評論賞の理念です。

この理念をともしびとして、歌人としての歩みを進めていきたいと思います。
以上のことを、私は、今日、この場において、未来に向けて誓います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?