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2023年12月17日 現代短歌社三賞授賞式 髙良のスピーチ内容

於:京都市内 2023年12/17(日)17:30-

2023年に第4回BR賞をいただきました。BR賞とは書評に対して与えられる賞です。3200字、原稿用紙8枚の分量で、昨年刊行された歌集を対象とする書評を書き、応募します。私は伊舎堂仁の第二歌集『感電しかけた話』(書肆侃侃房, 2022)の書評を書きました。
選考過程と受賞の書評は『現代短歌』2023年11月号に掲載されています。ちなみに第2回BR賞受賞作で書評の対象となった北山あさひと、第3回BR賞受賞作で書評の対象になった平岡直子は今年2023年から現代短歌社賞の選考委員になっています。伊舎堂さんもあるいは……。

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いよいよクリスマスまで一週間となりました。そこかしこでクリスマスキャロルが流れているのを耳にします。
キリスト教の教会では、四本の蝋燭を用意して、クリスマスの四週間前から、一本ずつロウソクに火をつける風習があります。四本目のロウソクに火を灯すとキリストが降誕するというイメージです。
今朝は知り合いの牧師を訪ねて大阪の阿倍野教会に行ってきたのですが、礼拝では三本目の蝋燭が灯されました。
聖霊の導きによって、今日この場に来られたことを感謝いたします。

昨年の7月に現代短歌編集長の真野さんにお会いしたとき、「もっと評論らしい評論を書いた方がいい」と言われました。
しばらく悩んだあと、家に帰ると『菱川善夫歌論集』がありました。国文社の現代歌人文庫シリーズの一つです。そこに収録されている歌人論を読み返してみると、論じられている歌人が以前よりおもしろく感じられるようになりました。
次のような歌があります。

はなわビル2Fの気功教室は気功が人をたしかに変える

五島諭『緑の祠』(2013)

批評が人をたしかに変える……ことがあります。
思い返せば、初読では『赤光』の良さが全くわかりませんでした。『桐の花』は冗長に思えました。『みだれ髪』は10首目くらいで食傷しました。
おもしろく読めるようになったのは、様々な批評や書評のおかげです。

短歌を続けていく中で、批評や書評が人をたしかに変えることを、私は何度も体験しています。批評をやっている人間として、私はこの体験を何度でも語らなければなりません。
『現代短歌』本誌掲載の受賞のことばの題として用いた「職業としての書評」とは、この体験を誰かに提供できるよう努めることだと考えています。

もちろん「職業として」は、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』や『職業としての政治』を意識して用いました。もう一つ、「職業」はドイツ語でBeruf(ベルーフ)、その原義は召命であることを、付け加えておきます。
召命とは、あるミッションを果たすように神から呼びかけられることです。その意味で、批評や書評を書く上での私の使命は、短歌を読むことの楽しみや喜びを、読者に述べ伝えることだと思っています。

礼拝の終わりには牧師が「派遣の言葉」という短い祈祷を捧げます。今朝の派遣の言葉は、

平和のうちにこの世へと出てゆきなさい。
主なる神に仕え、隣人を愛し、
主なる神を愛し、隣人に仕えなさい

でした。
批評の書き手は権威を帯びます。しかし本来、書き手は読者に仕える存在でなければならりません。その道を誤らないようにしたいと願います。

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世界が神の愛で満たされますように。

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