190709_紅茶のふくろ

外には出られる、手抜きな化粧を施して。

朝起きたら、なんだか肌がさらっとしていた。
「ああ、何も塗りたくないな」
そう思って、そうすることを決める。

顔を洗って、化粧水を肌に押し込む。ぎゅっぎゅっ。わたしの肌よ~ちゃんとこの水分を吸うんだぞ~。
それがまた蒸発しないうちに乳液、保湿クリームを塗る。肌に入りつつ、しっかりマクとなれよう~。つやつやぷくぷくになれよ~。
鏡の中のわたしに向かって唱える。

いつもならこの上に下地やら何やらを塗りたくるところだけれど、今日はなし。
ちいさなシミやクマが目視できるけど、構わない。
まぶた二重幅部分に、目尻から目頭へ向かって、カーキのアイシャドウをチョッチョッ。
それからアイホール全体にキラキラ度の低いゴールドのアイシャドウを、中指の腹をつかってまあるく塗る。
二重幅部分はさっきとは逆で目頭から目尻へ塗ることで、ゴールド~カーキの簡単グラデーションの完成だ。色の境目は、指の角度を細かに変えたり震わせたりしてなじませる。

アイラインは目尻だけ。目尻がシュッとしているだけで
「こいつ化粧している」
感がでるんだから、ちょろい。ちょろさがありがたい。

案外大切なのは眉。
この間ちょっとミスって削ってしまったところに、毛並みに逆らうようにしてアイブロウを入れる。それから周りの自眉と毛並みを揃える。

眉と言えば。

小学生の頃、クラスのしょーもない男子に「まゆげ太しさん」とあだ名を付けられた。
わたしは生まれつき眉が太かった。それまで、それによって得することも損することも特段なかった。だけど、その言葉が「おまえのまゆげ、ダサいな。汚らしいな。」を意図していることはさすがに分かった。

ほかの友達に比べてオシャレや美容にほぼ興味がなかったとはいえ、なかなかのショックを受けて帰宅した。帰宅からしばらくして、玄関のドアが開く音がした。
ストライプのブラウスにフレアのスカートをきれいに着て、朝学校へ行くわたしを見送ってくれたときと変わらず整った、細くシュッとした眉のついた顔をニコっとさせて
「ただいま。おかえり。」
と、不動産ショップでの事務のパートから母が帰ってきた。

わたしはこの母のことが大好きで、そしてこの母の趣味も好きである。
だから、そのエッセンスをもらっているわたしが「ダサい」と思われたことがショックだったのだ。

でもよくみたらその母親だって細い眉だった。
わたしの太い眉は完全に父方系の遺伝であった。父を恨んだって仕方ないけれどずっと恨んできた。
なぜ、まゆげのところは父のDNAを遺伝してしまったんだろう、そんなところはしゃしゃらんでよかったのに。
(父からしてみれば、いや、母からしてみても「そんなもん知らんがな」である)

そして今日、ここで高らかに言いたい。

いいか、あのときのお前。わたしに「まゆげ太しさん」と言ったお前。
十数年後、太眉ブームが来るんだからな。
「細眉ブームにのっかって眉を抜いたことが悔やまれる」
と知らぬだれかがインスタで言っている時代だぞ。わたしの時代なんだ。
ばーーかーー!

そういえばわたしを罵ったきみは、当時授業で「将来何になりたいですか」という質問された際に「警察犬」と答えていましたね。そっちのほうが、ダサいんだからね!
ダサいけど、かっこいいぞ。わたしは、当時もいまも、その答えが大好きだ。

非常に手抜きな、よくいえばナチュラルな、わたしの顔ができた。
(あ、マスカラ忘れてた。これも化粧した感がでるから大事。忘れずに)
マスカラして、紅茶を飲んだら、家を出よう。

この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。