額賀 澪 NUKAGA Mio

小説家。青春小説やスポーツ小説をよく書きます。2015年松本清張賞・小学館文庫小説賞受…

額賀 澪 NUKAGA Mio

小説家。青春小説やスポーツ小説をよく書きます。2015年松本清張賞・小学館文庫小説賞受賞。『タスキメシ』『拝啓、本が売れません』『風に恋う』『競歩王』など。詳しくは公式サイトへ▶http://nukaga-mio.work/

最近の記事

仕事依頼について(額賀澪)

最近、出版社経由ではなくSNSを通して仕事のお問い合わせをいただくことが増えてきたので、noteにも自己紹介を兼ねて仕事依頼について書いておこうと思います。 プロフィール額賀澪(ぬかが・みお) 小説家。1990年生まれ。茨城県行方市出身。東京都在住。 青春小説やスポーツ小説をよく書きます。2015年松本清張賞・小学館文庫小説賞受賞。主な著書は『タスキメシ』『拝啓、本が売れません』『風に恋う』『競歩王』など。 詳しくは公式サイトの作品紹介をご覧ください。 小説を書くこ

    • 再生

      『風に恋う』PV②

      『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ)で話題を呼んだ松本清張賞作家が挑む、デビュー作以来の吹奏楽×青春小説。 ぶつかり合いから、音楽は輝くんだ――。 『風に恋う』額賀澪 http://nukaga-mio.work/windgazer

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        『風に恋う』PV①

        吹奏楽に賭けた青春 憧れの先輩が指導する吹奏楽部で全日本コンクールを目指す少年-- 「やりたいこと」と「現実」のギャップ 「俺は、ブラック部活に洗脳された馬鹿な高校生のなれの果てですか」 『風に恋う』額賀澪 http://nukaga-mio.work/windgazer

        • 風に恋う|第1章|13

          ---  練習に集中しているうちに、気がついたら五時半近くになっていた。そろそろ合奏が始まる時間だ。楽器を抱えて第一音楽室に戻ると、瑛太郎がすでに指揮台の上に置かれたパイプ椅子に腰掛けていた。膝に頰杖をついて、ぼんやりとスコアを眺めている。  すべてのパートが集まったタイミングで、普段だったら玲於奈が号令をかける。ところが、それより早く瑛太郎が立ち上がった。 「ちょっと教えてくれないか」 「一音入魂! 目指せ! 全日本吹奏楽コンクール」という部の目標を、指さす。 「

        仕事依頼について(額賀澪)

          風に恋う|第1章|12

          --- 「瑛太郎先生に、吹奏楽部のことどう思うかって聞かれたんですけど」 「池辺もか。それ俺も聞かれたわ」  基と同じアルトサックスを吹く二年の池辺豊先輩と三年の越谷和彦先輩がそんな話をし出し たのは、パートごとのチューニングと基礎練習を終えて、個人練習に移ろうとしたときだった。 「先輩達もですかっ?」  パート練習で使っている二年一組の教室に、自分の声が予想以上に大きく響いた。 「もしかして、茶園も聞かれた?」 サックスパートのパートリーダーも務める越谷先輩が、

          風に恋う|第1章|12

          風に恋う|第1章|11

          ---  二人を呼びにきた瑛太郎が連れて行ったのは、普段練習をしている第一音楽室ではなく、その隣の音楽準備室だった。 「昼休みに悪かったな」  音楽準備室は実質吹奏楽部の顧問の部屋だ。さほど広くない部屋の中には長机が置かれ、本棚からは楽譜が雪崩れ落ちそうだった。  瑛太郎が、部屋の隅の冷蔵庫から取り出したペットボトルの麦茶をグラスに注いで、基達の前に置く。 「君達に聞きたいことがある」  自分の分の麦茶を手に、瑛太郎は窓ガラスに寄りかかってこちらを流し見た。麦茶に

          風に恋う|第1章|11

          風に恋う|第1章|10

          --- 「いくらなんでも酷すぎるだろ、あの朝練」  弁当を広げる基の前の席に座って、コンビニのメンチカツサンドを囓りながら、堂林は同じことばかりを繰り返していた。 「瑛太郎先生も、昔みたいにガツンとビシッとやればいいんだよ。正直、それを期待してたのにさ」  不破先生ではなく瑛太郎先生という呼び方を広めたのは、三好先生だ。 「コーチになったばかりだから、いきなりってわけにもいかないんじゃないかな……」  自分の言葉尻がどんどん弱々しくなっていくのは、堂林と同じことを

          風に恋う|第1章|10

          風に恋う|第1章|09

          2激流の先へ 「もう早起きからは解放されると思ってたのになあ……」  トーストを囓ろうと大口を開けた瞬間にそんなことを言われ、基はそのまま固まった。台所に立って基の弁当を作っている母の背中を見つめる。 「五時起きの生活ももう終わりだと期待してたのに」 「す、すみませんでした……」  中学三年間、母は毎朝五時に起き、朝練のために六時半に家を出る基の朝食の準備をした。土日も朝から夕方まで練習があって、弁当を作ってもらった。それが中学三年間、お盆と年末年始の数日を除いて、ほ

          風に恋う|第1章|09

          風に恋う|あらすじ+目次

          あらすじ吹奏楽に打ち込むも全日本コンクール出場を果たすことなく中学を卒業した茶園基。ドキュメンタリー番組で取り上げられているのを見て以降、ずっと憧れていた吹奏楽の強豪校・千間学院高校に進学したものの、幼馴染の玲於奈が部長を務める今の吹奏楽部にはかつての栄光など見る影もなかった。 しかし、そんな基の前に、黄金時代のOB・不破瑛太郎が吹奏楽部のコーチとして現れる。あろうことか彼は、一年生の基を部長に指名した―― 「茶園、俺と一緒に、全日本吹奏楽コンクールに行く部を作ろうか」

          風に恋う|あらすじ+目次

          風に恋う|第1章|08

          ---  徳村が夕食を食べ終え、「あと三本、原稿が残ってるから……」と言って自室に引っ込み、瑛太郎も風呂に入って自分の部屋に戻った。  瑛太郎が契約社員として勤めていた学習塾を辞めたのが去年の年末。大学卒業後に広告制作会社へ入社した徳村が、「こんなブラック企業にいたら殺される!」と退社してフリーライターになったのが今年の一月。ちょうどアパートの更新時期が近づいていたから、一緒に住むことになった。月の家賃を三万円に抑えられるのはありがたい。  フリーター状態なんだから、と

          風に恋う|第1章|08

          風に恋う|第1章|07

          ---  玄関を開けたらダイニングは真っ暗だった。瑛太郎が使っている洋室ももちろん暗いが、その隣にある和室の戸からは、うっすら明かりがこぼれている。  帰りがけに持たされた肉じゃがの入った紙袋を抱えたまま、瑛太郎は和室の戸をノックした。返事は聞こえないが、「入るぞ」と言って引き戸を開ける。  煌々と明かりが灯った六畳の和室で、徳村尚紀はノートパソコンと睨めっこしていた。大きなヘッドホンで音楽か何かを聴きながら、一心不乱にキーボードを叩いている。ノックしても気づかないわけ

          風に恋う|第1章|07

          風に恋う|第1章|06

           ◆ 「お父さんもねえ、せめて学校を出るときに一言連絡をくれればいいのよ。瑛太郎君を連れてくるんなら、もっと若い子が喜ぶもの作ったのに」  愛子さんはそんなことを言いながら、鍋から肉じゃがをお椀に盛る。瑛太郎はそれを受け取り、居間へと運んだ。三好先生は、座椅子に腰掛けてテレビを見ていた。 「三好先生、愛子さんがご立腹ですよ」  卓袱台に肉じゃがを置くと、千学吹奏楽部顧問の三好先生は、「だいじょーぶ」と笑った。昔はふっくらとした体型だったのに、現在は肉がそげ落ちたように

          風に恋う|第1章|06

          風に恋う|第1章|05

          --- 「わー! 一年生来た!」  基達が音楽室に足を踏み入れた瞬間、そんな声が飛んできた。「二人も来た!」「男子来たー!」「やったー!」という、まさしく黄色い声が。  パイプ椅子や楽器で雑然とした音楽室で、玲於奈の姿はすぐに目に入った。オーボエパートの彼女は、指揮台の近くからこちらを見ていた。その口が、にいっと半月状に吊り上がる。  でも、基は一瞬、ここに来た目的を忘れた。  そこにあったのは、九歳のときに見たあの音楽室だったから。くすんだクリーム色の壁も、雨漏り

          風に恋う|第1章|05

          風に恋う|第1章|04

           ---  吹奏楽部の練習場所は、一般教室棟から渡り廊下を抜けた特別棟の四階の奥にある。古びた建物独特の埃っぽい匂いと茶渋のような薄暗さが積み重なった先の、第一音楽室だ。 「当たり前だけど、テレビで見てた通りだな」 「堂林君も見てたの? 『熱奏 吹部物語』」 「近くにある高校があれだけ取り上げられてたら、そりゃあ見るだろ」  全国ネットのテレビ局がドキュメンタリー番組で吹奏楽部を大々的に取り上げたのは、基が小学三年生の頃だ。あれがきっかけで吹奏楽の世界そのものが盛り上が

          風に恋う|第1章|04

          風に恋う|第1章|03

          ---  堂林のスマホを引っ摑んで、基は教室を飛び出した。階段を三年生のフロアがある四階まで駆け上がる。まだ担任が来ていないのを確認して、三年二組の扉を開けた。 「玲於奈っ!」  鳴神玲於奈はすぐに見つかった。ドアの近くの席で、友達とお喋りしていたから。 「これ、玲於奈だろっ」  詰め寄って、堂林から奪ったスマホを見せる。とっくに再生は終わっていたけれど、玲於奈はそれが何の動画なのかすぐに理解したようだった。口元がにやついている。 「えー? 知らない」 「知らない

          風に恋う|第1章|03

          風に恋う|第1章|02

          ---  一年五組にはすでに多くの新入生が集まっていた。同じ中学の生徒とはクラスが離れてしまったし、果たして、この教室で一年間上手く立ち回れるだろうか。 「――ああっ!」  突然、近くでそんな声が上がった。 「大迫一中の《歌うお茶メガネ》!」  知らない人ばかりのはずの教室で、自分を指さす人がいた。その人物の顔を見て、基も「あー!」と大口を開ける。 彼の茶色がかった明るい髪が、ステージの照明の下では金髪のように見えると基は知っている。色素の薄い目はガラス玉みたいで、

          風に恋う|第1章|02