MARVEL SNAPは欲しいカードを簡単に入手できるようにすべきなのか?

公開される映画とタイアップした新シーズンが始まり、ますます盛り上がってほしいMARVEL SNAPであるが、twitterやブログ記事などを見ていると不満の声も散見されるようになってきた。理由は明確で、それなりにプレイしてきた人のほとんどがプール3と呼ばれるカテゴリーに入ったからだ。MARVEL SNAPはいくら課金しても、いくらプレイしても現状カード入手の速度は一定以上にはできない。さらに入手できるカードは基本ランダムで欲しいカードを選んで入手することもできない。入手カードはプール1、プール2、プール3と分けられており、前のプールのカードを全て入手すると次のプールに移行する。
プール1とプール2はプール3と比べて、カード入手速度がかなり早く、また基本的に同一プール内でマッチングする仕様のため、未入手の強いカードにボコボコにされたり、欲しいカードが入手できないという不満が募りにくい。しかし、プール3はカードの数自体も多く入手速度も遅いため、運が悪ければずっと先まで欲しいカードが入手できない可能性がある。さらに、対戦相手から未所持の強いカードをプレイされて負ける機会も増える。結果として不満の声も出てきたわけだ。
不満の声は理解できる。ただちょっと待って欲しい。本当に欲しいカードが簡単に入手できるようになることが、良いことなのだろうか?僕たちはこれまでのデジタルカードゲーム(DCG)の経験から、その先の未来を知っているんじゃないのか?本稿で論じたいのはその先の未来だ。

私自身が長くハースストーンを遊んできたこともあり、ここからはハースストーンを中心に他のDCGが今どのような状況にあるのかを見てみたい。

既存DCGにおけるカードの入手

ハースストーンでは、新しいカードの入手は実物のカードパックを買うようにゲーム内でカードパックを購入し、開封するというのが最も基本的な入手方法だ。カードパックの購入は、ゲームをプレイすることで入手可能なゲーム内通貨でも、リアルマネーでも可能。入手カードはランダムだし、レアカードの入手確率はもちろん低いが、1つ特徴的なシステムがある。それは、ダブってしまった不要なカードや、使わないカードを魔素と呼ばれるゲーム内資源に変換でき、魔素を使って好きなカードを入手することができるシステムだ(本稿ではクラフトシステムと呼ぶ)。

クラフトシステムはユーザーにとってメリットの大きなシステムであった。1つ目のメリットはある程度課金しているユーザーであれば、比較的容易にカードコレクションを揃えることができ、様々なデッキを組んで遊ぶことができるという点。2つ目は、無課金や微課金のユーザーであっても、強いカードや、遊びたいデッキのパーツとなるようなカードを厳選してクラフトし、不要なカードを魔素に変換することで、1~2デッキ程度であれば好きなデッキを組むことが出来る点だ。
さらにハースストーンは、長くサービスが続いているため、カード強さのインフレや新鮮な環境の維持のため、過去2年程度にリリースされたカードを中心とした「スタンダード」と呼ばれるフォーマットがあり、これが主流となっている。もしスタンダードフォーマットのみを遊ぶプレイヤーであれば、古いカードをどんどん魔素に変換し新規のカードをクラフトしていけば、限られた課金でスタンダードフォーマットを自由に遊ぶことができる。

ここまで書くと良いことづくめで何が問題かと感じられるだろう。実際、このクラフトシステムは、ハースストーン以外のDCGでも多少形こそ違えど、多くの場合採用されており、カードパックからのランダム入手+クラフトによる好きなカード入手で遊びたいデッキを作って遊ぶのが、現在のDCGの主流だ。しかし、これほどのプレイヤーにとってのメリットにも関わらず、クラフトシステムを含めた容易な新カード入手は、DCGを悩ませる病の要因にもなっている。次項で詳細を述べる。

新コンテンツの追加と消費速度

DCGでは、広いカードプールの中からデッキに採用するカードを決めてデッキ構築をしてゲームを遊ぶわけだが、どうしても強いカード、弱いカードというのはあり、強いカードを使った強いデッキが出てくる。そうすると、次第にみんなが強いデッキを使って遊ぶようになり、環境がマンネリ化してくる。サービスの運営側はこの状況は望ましくないため、主に強いカードを弱体化するナーフと呼ばれる調整を行ったり、新しいカードセットをリリースすることで、ユーザーを飽きさせないように運営している。問題は新しいコンテンツの追加と消費の速度だ。

ハースストーンの場合、新しいカードセットの追加は年3回(春・夏・冬)というサイクルで運営されている。以前はそれで十分だった。ナーフも頻繁には行われていなかった。しかし、ユーザーがコンテンツを消費する速度がどんどん加速し、それでは不十分となってきた。ナーフは頻繁に行われ、通常のカードセットの間に、ミニセットと呼ばれる小規模なカード追加が行われることが定番となった。さらにそれでも足りないので、古いカードセットが一時的にリバイバルして使用可能となるイベントが2022/11現在行われている。なぜそのような状況になってしまったのか?大きな要因は2つあると考えている。

1つ目が、本稿のメイントピックであるカード入手の容易さだ。ある程度ゲームをプレイしており、スタンダードフォーマットしか遊ばない私のようなプレイヤーは、過去のカードを魔素に変換してクラフトを行うため、スタンダードフォーマットの全てのカードを入手するのは、それほど難しくない。新カードセットのリリース初日に、欲しいカードは全て入手し、組みたいデッキを自由に組んで遊ぶことができる。これは幸せなことである反面、不幸なことでもある。何が起きたのか?カードゲームで楽しい瞬間の一つであるはずのカードパックの開封が完全な作業になった。クラフトで欲しいもの・必要なものは全部作るので、欲しいカードが当たったとかレアカードが当たったという感動はない。また、環境の中で強いデッキが明確になってきたとき、みんなが簡単に真似できる。これがコンテンツの消費を加速させている。

もう1つの要因は、情報伝達の高速化だ。twitterのような情報伝達に使われるアプリの普及や進化もあったし、情報のキュレーションや発信を行う人達が洗練されてきたのもある。いずれにしても、トッププレイヤーが強いデッキの情報を発信し、それをキュレーションする人が効率的に集めて広め、みんなが真似をするという流れが非常に効率化された。この情報伝達の高速化と1つ目で述べたカード入手の容易さが組み合わさった結果、コンテンツの消費速度は著しく速くなったのだ。

一例として新カードセット追加前後のハースストーンの様子を見てみよう。

リリース直前
競技プレイヤーやストリーマーが新カードをいち早く使う様子を配信するセオリークラフト配信や新カード評価配信で、強いカード・強いデッキの情報がリリース前から広まる。
リリース当日
競技プレイヤーやストリーマーが、ぶっ続けでプレイし、結果を出したデッキの情報をtwitterなどで発信、キュレーターがそれらの情報を集めて、まとめた情報などを広める。半日もすると、それらのコピーデッキが環境の大部分を占めてくる
リリース後1週間程度
概ね環境の中で強いいくつかのデッキが明確になり、環境の多様性がほとんどなくなる。一部のデッキビルダーが新しいアーキタイプを生み出す。
リリース後2週間程度
環境が固定化し、特に強いカードをナーフしろという声が強まる
リリース後3週間程度
ナーフが告知・実施されるが、ナーフ後環境で強いデッキの情報がすぐに出回り、環境に多様性は生まれない
リリース後1カ月程度
環境が完全に煮詰まり、「新しいカードセットまだー?」状態となる

どうだろうか、若干誇張があるかもしれないが、概ねこんな感じだろう。さて、ではMARVEL SNAPはどんな道を歩むのか?

MARVEL SNAPの歩む道

MARVEL SNAPでも、結果を出した人や他のゲームの著名プレイヤーが、強いデッキの情報を発信し、環境が少しずつ固まって行っている。しかし、ハースストーンと決定的に違うのは、強いデッキの情報が得られても必要なカードが簡単に入手できない点だ。他のDCGのシステムに慣れた人からすれば、この点が不満なのだと思うが、そのおかげで環境の多様性が維持され、コンテンツの消費速度を遅らせることができていると思う。

プレイヤーにとってストレスとなる面もあるのは承知だが、私はこの方向性をもう少し継続してみるべきではないかと思う。先行組がすべてのカードを入手し、先行メリットをある程度享受したあとくらいに、後から始めたプレイヤーが追い付ける仕組みを導入し、その後また新カードセットを追加して、少しずつカードをランダムにアンロックさせる。このやり方なら、環境の多様性を長く維持することもできるし、既存のDCGで失ってしまった新しいカードを入手する喜びを感じられる。

よくアニメや漫画で、暴食の悪魔のような存在が出てくる。自分の食欲が次第に抑えられなくなり、最終的には自分の存在する世界まで壊してしまうような奴だ。DCGのプレイヤーもこれに似たようなものだなと思う。欲しいカードを全て入手した先に満足などないのに、求めてしまう。

まずは、好きなカードを入手させろと主張し
次は、このカードが強すぎるからナーフしろの大合唱、
すぐに、環境に飽きたから新カードセット追加しろとなる。

そんなこれまで通ってきた道を、また歩むのだろうか?開発者によると、好きなカードを選んで入手するクラフトシステムのようなものは準備中のようだ。サービスとして運営する以上、ユーザーが過剰なストレスでゲームを辞めてしまわないように、上手く折り合いをつける必要もあるのだろう。
だがMARVEL SNAPには、今までのDCGが歩んできた道とは別の未来を期待したくなる。




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