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ボクの背中には

 今朝、私はとてもイライラしていた。理由はない。あるのかもしれないけどいまのところ思い当たらない。ただとにかくイライラして、雨でいつもより人が多い通勤電車にも、満員電車で背中に触れるもの(たぶんスマホ。文字を打ったりして小刻みに揺れるスマホが肩甲骨の間あたりに触れるあのなんとも言えない感触は何度経験してもおぞましい)にも、誰彼構わずぐいぐい押しながら階段をのぼっていく人たちにも、誰一人として避けようとしない駅構内の雑踏にも、駅の大きな鏡に映る自分の肩幅にも、誰より早く出勤してるのにかたくなにゴミ捨てをしようとしない社員にも、中途半端に降る雨にも、そんな些細なことが気になって仕方ない自分自身にもいらつきまくっていた。
 書き出してみて思ったけれど、いらだちとはなんと不快なものだろう。いらだっているときも不快だけど書き出して読み返してみても不快だ。不快が不快を呼ぶ負の連鎖。これをエンタメ化する力でもあればまた違うのだろうけど、残念ながら私はただいらだちを羅列することしかできない。そもそもどのいらだちの種も機嫌がいい日には気にも留めない出来事なのだ(スマホの肩甲骨フェザータッチ地獄だけは本当にいやだけど止められるものでもないし)。これは完全に私の精神状態の問題だ。私がただあちこちにとげとげしていただけ。ハリセンボン状態で勝手にあっちにちくちく、こっちにちくちくしていたのだ(もちろん自分のなかだけで人にはぶつけていない、つもり)。マスクのなかで歯ぎしりして、誰にも聞こえないくらいの声で文字にするのも憚られるような悪態をつきまくった。シンプルに人として最低だった。最低すぎてたとえに使ってしまったハリセンボンにも申し訳ない。ごめんねハリセンボン。そういえば「嘘ついたらハリセンボン飲ます」ってハリセンボンの意思めっちゃ無視してるじゃんと思ったけどあれはハリセンボンじゃなくて針千本か。角野卓造じゃねぇのか。いやハリセンボンの意思ってなに~。
 ハリセンボンみたいなとげがある動物で、近づきすぎるとお互いのとげが刺さるからどうのみたいなのあったよな~と思ってずっとアルマジロしか浮かばなかったんだけどヤマアラシだった。ん? ハリネズミだっけ。その前にハリセンボンって言いながら口から水をぶしゃーってする光景思い浮かべてたけどそれはフグだ。ハリセンボンは針でフグは種類によって棘があるのか。まずい、何の確信もないまま適当なことを言いまくっている。そもそもハリセンボンである必要はあったのだろうか。バラとかでよかったのではないか。いや、たとえる必要すらなかったのかもしれない。
 とにもかくにもハリセンボンのように、あるいはハリネズミのようにとげとげしていた今朝から数時間経って、いらだちはずいぶん落ち着いてきた。ハリセンボンだって針をたたむときはあるしハリネズミだって撫でられるくらい針が寝ているときもある。とげとげした気持ちも、ずっと続くわけではないのだ。とげとげしないのが一番だけどそうもいかなそうだから、とりあえずは引き続き、とげとげを周りに当てないよう気を付けていこう。

 それにしても、ハリセンボンやハリネズミのように針をバキバキに立てていた私の肩甲骨によくもフェザータッチしてくれやがったな。私の肩甲骨から生えているのはフェザーじゃなくてニードルだぞ。次はそのスマホ串刺しだかんな!!