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NHK エデュケーショナル「えいごであそぼ」のプロデューサー吉田秀樹さんに聞く(その1-2)...NHK「えいごであそぼ」の現場を見る!


[NHK エデュケーショナル「えいごであそぼ」のプロデューサー吉田秀樹さんに聞く](その1-1)の続きです。本インタビュー記事は2009年9月に『TOEFLメールマガジン』の筆者のコラムFor Lifelong Englishに掲載されたものです。以下掲載時そのままお届けします。



制作の工夫

鈴木: テレビですから、対象が誰であろうとエンターテインメントは非常に重要 な要素ですものね。基本的には、教えるのではなく、楽しみながら自然に 英語を理解する内容としているということですね。昔僕らが中学で英語を 習ったときは、英語というと状況設定は日常からかけ離れた外国だったん ですよ。でも今は違いますね。

吉田:この番組では子どもたちの生活に近いものを設定しています。それで英語 を発語するチャンスを増やしたい。英語は自分達から遠いものではないん だということを理解するために、商店街で見つけたものの話をするなどし て、そこでも英語をしゃべるチャンスはあるんだと気付いてもらいたい。 遊んでいる最中でも、子どもたちは意外とたくさん英語に触れています。

鈴木:そういったものも英語だったのかと気付いてもらえたらいいですね。 生活の中に英語が入っているという現状がありますね。例えばウォーター とか。子どもが普通に使っているものを町で見せて、自然に英語を理解す る。それでロケをやっていらっしゃるんですね。

吉田:そうです。子どもたちがテレビと同じようなシチュエーションになった時 に、あの時に言っていた○○だなと、思い出してくれればと思います。 でも自然にというのは実は結構大変なんですよね。例えば、金曜日にエリ ックさんがロケ先で子どもたちと一緒に歌うコーナーがありますが、自然 に遊んでいるように見えますけれど大変でしょう。

一緒に歌おう!エリックさん(吉田氏提供)

鈴木:やはり普段遊んでいるのとはわけが違います。大人が7、8人押しかけて きて、カメラが回っていますから。カメラが入った時点で普段のように遊 ぶというのはちょっと難しいでしょう。エリックさんもテレビで見ている 人がうちに来たという感覚でしょうか。

吉田:それでも何回か歌ううちに、みん なが楽しく出来るようになっていきます。その時集まった子どもたちにも よりますが、1回でスッとできる場合もありますし、ある場合は2回、逆 に何回もやると、新鮮さが失われたり、子どもたちの喜びや驚きが伝わり にくくなったり、ということもあります。エリックさんがやっているの は、日本の子どもたちはこういう風に英語を学んでいくのかもしれないと いう一つの形です。そしてテレビで見たあのような感じで英語と接するこ とが出来たらいいなと子どもたちに思ってもらえればと思います。それか らケボやモッチは、日本語を一切しゃべらないので、そんな彼らと会話を したいなと思って英語を身につけようとがんばってくれたりしても嬉し い。実際、寄せられるイラストに一生懸命英語を書いてくれたりとかして いますね。それも視聴者との大切なコミュニケーションで嬉しいもので す。番組内では基本的には英語を使っていて、日本語を使っているのは、 タイトルと「えいごふだ」のコーナーくらいです。英語のセリフは、モッ チが今なんと言ったかということまでは理解できないかもしれませんが、 映像や音も含めたトータルで大意は理解してもらえるように気をつけてい ます。やはり未就学児の場合、特に音楽は耳に残るし、楽しいものとして 上手く機能するのではないかと思います。


人気キャラクター ケボ&モッチ(吉田氏提供)

鈴木:音楽と同時に音もですよね。言葉の音というか。子どもはそれにすごく興 味を持つ。そういう時期だと思いますね。ですから何のことだかわからな くても、音が入ってくるというのは大きい。僕が小さいときはこんな番組 はなかったから、中学からいきなり英語を勉強しました。そうすると、中 学高校になってから、余計な時間を発音に費やしてしまう。番組を見てい てもわかるけど、エリックさんと英語の歌を歌うコーナーなんて、だんだ ん歌っているうちに、子どもたちがエリックさんに近い音になっていくん ですね。耳で聞いてそれを言わせるという方法は、なかなか重要です。

吉田:大人が聞いたらそうは言わないだろうという音を子どもは出しますね。よ りネイティブの発音に近い感じなのだと思います。でも子どもたちが何人 かいる中で一人ひとりが違ったように発音しているのも面白いです。例え ば”Splash”という言葉を聞いて、それを知らない場合、大人はなんとか 自分の知っている音に置き換えようとしてしまいますが、子どもたちには それがありません。

鈴木:聞いていると思っているままに発音して近づけていく。エリックさんの口 元とか良く見ているもの。音の次に、文字はどのように考えていますか。

吉田:英語の文字はそれほど理解していなくても、内容は理解できるようにと思 って作っています。歌のときもテロップは出しますが、子どもたちは耳だ けで聞いて歌っているようです。また、キーワードの部分では、例えば Up/Downというキーワードをここで言っているんだ、ということの合図 くらいのつもりで文字を出しています。

鈴木:カラフルだったりして、視覚的にもエンターテイメント性がある。

吉田:番組全体のアートディレクターが佐藤可士和さんなので、キャラクターの ケボとモッチをはじめ、番組タイトル、文字フォントなども作っていただ いたのですが、子どもが親しみやすい、かっこいい、惹かれるようなもの になっています。

鈴木:目と耳、ビジュアルと音で非常にうまく訴えていますね。あとはアニメー ションの部分、えいごふだのコーナーですよね。あれはどういった効果を 狙っているのでしょうか。

吉田:子どもたちはアニメーションが好きですし、それから人間では表現できな い部分をアニメーションでやったり、シチュエーションの設定などがより ストレートでわかりやすくなるという効果があります。例えば危険な状況 で発する”Help!”という言葉は、知っていたほうがいい大事な言葉です が、それを使う状況を説明する場面などは、実際の映像でつくるのは非常 に難しいことです。また、キャラクターとして札を使っているのは、英語 だから西洋文化にありそうなものをというよりも、あえて和っぽいイメー ジでギャップを作り、子どもたちに親しみを持ってもらえるようにと制作 しています。自分で作って家で遊んでくれている子どもたちもいるよ う です。


アニメーション「えいごふだ」のキャラクターたち(吉田氏提供)

キーワード方式

鈴木:キーワード方式 毎回キーワードを紹介していく方法をとっていますが、あれは作るのが大 変だったよね。今、いくつくらいありますか。

吉田:現在40ペアあります。1年間でこの40ペアを繰り返し手法を変えて紹介 しています。「GO/STOP」というような対比の言葉を組み合わせたもの が多いですが、「1.2.3・・・」といったものもあります。ただ、1年 で、というのは番組の気持ちであって、これらを全部覚えなければいけな いというものではありません。例えば、「PUSH/PULL」を最初の月曜日 にやったから、木曜日には「PUSH/PULL」はもうわかったよね、という ような番組作りはしていません。毎日放送しているからと言って毎日見て いるとは限らないので、その日だけ見ても理解してもらえるように作ろう と思っています。

鈴木:このキーワード40ペアに入っている言葉は、実はネイティブ社会でも重 要な言葉なんですね。イギリスの出版社が出している、小学校に入るまで に習っておきたい基本語1000の中にすっぽり入る言葉たちです。もう一 つは、英語のありとあらゆる発音、母音、子音をカバーしています。そう いうものを習っていると意識させないで、繰り返し出てくるようになって いる。恐らく日本の子どもたちが日本語を学ぶときも、よくわからない言 葉を聞きながらもいつの間にかなんとなく覚えて理解していく、というこ とを、英語でも同じ手法でやられていますね。

吉田:そうですね、ネイティブの家庭でも、赤ちゃんに英語を教えるときにこう いう風にやっているようです。ケボとモッチのやり取りでは、設定ではモ ッチが年下なので、例えば”Bird!”と単語だけで言うんですが、ケボがそ の後に”Yes, it’s a bird!”と言ったりするのは、一般のネイティブの家庭 でもやっていることを参考にしています。

鈴木の感想

「えいごであそぼ」は1990年に始まった長寿番組の一つです。私は 2001年から英語監修という立場で参加しています。私も時々番組制作の 会議や収録に立ち合わせていただきますが、10分程の番組を作るのに 色々な分野のプロが集まり話し合い協力しながら番組を作ります。英語 を勉強するのではなく英語で遊ぶという発想を番組に定着させるのは簡 単ではありません。時間を掛けて関係者の意見を聞き番組制作の責任者 として決断しながら滞りなく番組を作らなければなりません。私が始 て参加した当時こども幼児部部長の中澤俊哉氏が、その後エグゼグティ ブ・プロデューサー松村浩志氏が、そして現在チーフ・プロデューサー の吉田秀樹氏がそうした責任を負ってきましたが、一緒に制作会議に参 加しながら私自身「じっくり手間と時間を掛ける」ということの大切さ を改めて実感し授業に活かしております。吉田さんの言葉の節々には幼 児が親しめる番組の制作の為に日夜時間と労を惜しまずに励んでいるこ とが滲み出ています。


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