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おやすみプンプンはただの雰囲気漫画なのか/好きなものを好きということ


自分の人生において大きな影響を与えた漫画なので多少真面目に書いてみようと思う。



七夕に合わせて浅野いにお氏による漫画「おやすみプンプン」が期間限定無料公開された。生粋の「おやプナー」(プンプンファンのことですよーだ!)である鵺野は当然全巻持っているので別にいつでも読めるんだけど、Twitter界隈ではちょっとした祭りになってた。まぁ賛否両論ある漫画だからね。


俺は好きな漫画は?って聞かれたら少し迷ってから「んー…おやすみプンプン」って答える典型的なサブカルクソ野郎なんだが、へーそれどんな漫画?って聞かれると答えるのがかなり難しい。「鬱漫画の金字塔」とか言われているが、ジャンルは何?って言われるとかなり悩む。恋愛…でもないし青春でもない…ギャグシーンはあれど内容が内容だし…かといってシリアス…?いやいや…


ワンピースのような「海賊王になる!」とか、デスノートみたいに「新世界の神になる!」みたいな明確なゴールがない。ただプンプン(主人公)が小学生から大人へと成長していく様が13巻にわたって展開されていくだけ。鬱漫画といえどわりとポップな面もあるし、鬱漫画特有の大切な誰かが死んだりグロシーンが出てきたりって言うこともない。それでもある一部の人、具体的にいうと感受性の鋭い人や鬱っぽい人にとっては読後3日間は何もできなくなるくらい精神的にクる漫画だ。実際俺も読んでしばらく動く気になれなかった。


一方で刺さらない人にはほんと刺さらないんですよ。よくまとめスレとか感想サイトに「読んだけど何が面白いの?」、「サブカル臭すぎ」とか書いてあるけど、俺は別にそれは否定しないし、むしろそっちの方がよっぽど健全だと思う。嫌味じゃなくて純粋にね。むしろそれに対して「はいはい逆張りガイジ○ねよ」、「お前の方がつまんねぇよ笑」とか言っちゃう激イタ野郎の方がキモい。そういう奴は「大衆ウケしない作品の良さを分かってる俺カッケー!」をしたいだけで作品の良し悪しなんか見ちゃいないからガン無視していい。


ただね、否定する側の意見で「雰囲気だけの中身スカスカ漫画」っていうのをよく見るんだけど、それだけははっきりと否定したい。「おやすみプンプン」を読んで内容スカスカだと思うんだとしたら感受性以前に読解力が不足しているのでおとなしくボボボーボ・ボーボボでも読んでなさい。


「おやすみプンプン」の構成、ストーリー、台詞回しはこの上なく緻密に作られている。これだけははっきり言える。鵺野は冗談抜きで10周以上この作品を読み返しているが、未だに「あぁこのセリフはこういう意味だったのか」とか、「これがここに繋がってくるのか」といった発見がある。


具体的な内容考察については既にたくさんの良質な考察がネット上にあるのでそっちを読んでいただけたらと思う。参考までに浅野いにお氏本人がTwitterで反応した最も的確かつ分かりやすい考察記事を貼っておく。(ネタバレ注意)




鵺野は音楽でいうと銀杏BOYZというバンドが好きなのだが、ボーカルの峯田が過去にこんなことを言っている。

「銀杏BOYZ聴いてるつってよ、そのよ、会社の中でそんなのがバレてしまったらよ、「うぇ、アイツ銀杏BOYZ聴いてんの?」なんて差別されるような音楽を俺は作っていきたいワケ。」

峯田和伸


そういう「差別されるような音楽」に鵺野の高校時代は救われた。もし俺が高校生の頃、銀杏BOYZに出会ってなければ、鵺野は今ここにいなかったかもしれない。それくらい、峯田和伸は本気で自分みたいなゴミに何かを伝えようとしてくれた。(余談だが、銀杏BOYZと浅野いにおは以前コラボTを出していて、「おやプン」の次作の長編「デデデデ」では銀杏BOYZとプリントされたTシャツを主人公が着ているシーンがある)


おやすみプンプンも一緒なんですよ。浅野いにおは漫画を通じて本気で何かを伝えようとしている。いかんせんプンプンのビジュアルがコミカルなので一見してふざけてるように見えがちだが、浅野いにおはこの漫画を通じて本気で世界をぶっ壊そうとしている。それは間接的に作中でも描かれているしね。だからこそ、自分みたいなゴミに響くんです。


浅野いにおが好きとか言うと「あ~好きそう笑」とか「絶対メンヘラでしょ?」とか「ヴィレヴァンに入り浸ってそう」とか色々揶揄されることが多いんすよ。でもねぇ。知るかと。そういう「差別されるような漫画」に救われる人間もいるんすよ。あなたがそういう変な漫画が好きじゃないのは分かったから、あなたの嫌いを俺に押し付けないでくれ。俺も俺の好きをあなたに押し付けないから。


SNSで気軽に何かを発信することが出来るいま、なんだか自分の好き嫌いまでが他人の目によって歪まされている気がする。たとえ糾弾されようと俺は自分の好きなものに自信をもって好きと言いたいな。


俺のかつての後輩(女)は殺人鬼マニアで某有名猟奇殺人事件の犯人と結婚したいと言っていた。彼女は別にサイコパスに憧れているわけでもなく、純粋に殺人鬼が好きで、シリアルキラーの話をするとき、彼女は本当に少女のような屈託のない目で話していた。そしてそれを平然とSNSとかに書き込むんだよな。当然陰で色々言われて避けられたりもしたようだけど、俺はそんな彼女を心底かっこいいと思ったんだよ。「なんで自分の好きなものを偽らなきゃいけないの?」って言われてる気がして。


なんか話がだいぶ逸れたが、自分の好みまで人に合わせて生きているとマジで辛くなります。だからね、たとえ誰に否定されても好きなことは好きって胸張って言っていこうね。それは決して自分勝手なんかじゃない。



最後に鵺野が他に高校時代に救われたバンド、amazarashiの曲を載せておきます。この曲のMVを書く阿部共実も心がざわつく漫画を得意としているので気になったら読んでみてください。あと、浅野いにおだと「うみべの女の子」も傑作だし2巻完結で読みやすいのでおすすめしておきます。






「好きなこと好きって言うの こんなに難しかったっけ」
「嫌なこと嫌って言うの そんなに自分勝手かな」

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