パン屋を襲う

村上春樹による『パン屋襲撃』の改題が『パン屋を襲う』だ。絵本めいたそれなりに立派な装丁をしていて、ドイツ人イラストレーターである、カット・メンシックによるイラストがふんだんに挟まれている。絵本めいたと書いたが実際に絵本。表紙はどこかで見たことのある不気味な道化師の顔が描かれている。金色と深緑と白の配色。

81年の『パン屋襲撃』85年の『パン屋再襲撃』が改題の上で収録されている。お腹ぺこぺこだが天衣無縫の一文無しのふたりの男がパン屋を襲撃する(パン屋を襲う)。それから何年かして足を洗い、真面目な仕事に就き結婚した男がある日の深夜、妻にパン屋襲撃の記憶を語り始める(再びパン屋を襲う)。

夫婦の会話のあと、テーブルの上の灰皿の中には缶ビールから切り離された6つのプルタブが残る。初出の年を知らなくてもこの辺りからむかしむかし(昭和)のお話だと分かる。しかし『再びパン屋を襲う』の中でソニーのブルーレイ・レコーダーの広告が登場して「あれっ?」となる。

ブルーレイレコーダーが初めて発売されたのはググって調べると2003年。あとがきからも分かるように加筆したとあり、もとの『パン屋襲撃』を読んでないので定かではないがブルーレイのくだりは間違いなく加筆なんだろう。

それにしてもプルタブが切り離される缶ビール、ブルーレイの時代にまだ存在してるの?というのが気になってしまった。

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