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核酸化学講座 #3 アミダイトの合成法

こんにちは、カモシカです。
前回の記事ではホスホロアミダイトの化学構造について説明しました。
今回の記事ではDNAのホスホロアミダイトの中でも、最も簡単なチミジンのホスホロアミダイトの合成法について紹介したいと思います。

チミジンのホスホロアミダイト

ホスホロアミダイトとひとくちに言っても核酸塩基の種類によってその合成経路は異なります。なぜなら塩基保護が必要なものとそうでないものがあるからです。今回は塩基保護を必要としないチミジンのホスホロアミダイトの合成について紹介します。

チミジンのホスホロアミダイトの合成経路をScheme 1に示します。
目的のホスホロアミダイトを合成するためには5'位の水酸基をジメトキシトリチル化、3'位の水酸基をホスフィチル化する必要があります。ここで気を付けたいことは、3'位の水酸基と5'の水酸基では求核性が異なる点です。5'位の水酸基が一級であるのに対して、3'位の水酸基は2級です。つまり、5'位の水酸基のほうが求核性が高いため、反応の順番としてはScheme 1に示したように先にジメトキシトリチル化した後にホスフィチル化する必要があります。

Scheme 1. チミジンホスホロアミダイトの合成経路.
DMTrCl: ジメトキシトリチルクロリド, DIPEA: ジイソプロピルエチルアミン, DCM: ジクロロメタン

Step 1. ジメトキシトリチル化
実際にジメトキシトリチル化する際には、チミジンと1.1等量程度のジメトキシトリチルクロリドをピリジン中, 室温下で反応させます。ジメトキシトリチルクロリドは水とも反応するため、脱水条件化で反応させるのがベターです。(実際のところは、それほど脱水しなくても反応します)。反応は1時間程度で完結します。ちなみに、ジメトキシトリチル体は酸に弱いためTLC上で分解することがあります。そのため、TLCで反応を追跡する際には、展開溶媒にTEAを添加するか、反応溶媒をスポットする前にTEAをスポットしておくことがベターです。

反応が完結したことを確認すると、5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させます※1。5%炭酸水素ナトリウム水溶液を用いる理由は、反応停止の際にジメトキシトリチルクロリドから出た塩酸を中和するためです。また、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いる場合もありますが、ピリジンと混和した際に塩が析出することもあるため、カモシカは5%炭酸水素ナトリウム水溶液を好んで使用していました。

反応を停止させた後は、有機溶媒を用いて目的物質を有機層に抽出します。有機溶媒には酢酸エチルが用いられることが多いです。分液した後は、硫酸ナトリウムなどで脱水・濾過した後にエバポで溶媒を飛ばします※2。ちなみに、ジメトキシトリチル体は熱にも弱いため温浴の温度は30-40℃程度がベターです。

カラム精製をする際には1%のトリエチルアミン(TEA)を加えた溶出溶媒を用います。これにより、カラム内でジメトキシトリチル体が分解することを防ぐことができます※3。基本的には80-90%程度の収率で目的物質を回収できます。

※1: 5%炭酸水素ナトリウムを多めに添加したほうが後の抽出工程でエマルジョンしにくくなります。
※2: エバポした後にピリジンが残った場合はトルエンなどで共沸すると後のカラムが楽になります。
※3: 1%TEAでは塩基性が高くチミジンのN3のプロトンを引き抜いてしまい、テーリングすることがあります。それが気になる場合は、TEAの代わりにより塩基性の低いピリジンを0.5%加えることでテーリングが解消されます。ただ臭いです。

Step 2. ホスフィチル化
つづいて、ホスフィチル化について説明します。この反応は先のジメトキシトリチル化とは異なり、反応試薬である2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイトや目的物質が酸や水で容易に分解してしまうため厳密な脱水条件が求められます。また、2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイトから出てくる酸が目的物質を分解してしまうため、小過剰量のDIPEA(ジイソプロピルエチルアミン)を先に反応溶媒中に添加しておくことが重要です※4。

この反応は室温条件下で1時間程度で完結します。TLCで反応を追跡する際には、TEAを添加することが必須です。ちなみに、目的物質はリン元素を中心としてキラル活性となるため、R体-S体が生じ、TLC上では2点のスポットとして現れることが良くあります。目的物質は①分解しやすく、②R体-S体ができ、③テーリングしやすいためTLC上で反応を追跡するのが難しいです。(原料と目的物質、加水分解体のスポットが重なり反応が完結しているかを確認できないことがよくあります)。その場合は、反応溶媒を薄めてスポットすると反応を追跡しやすくなりますが、それでも反応を追跡できない場合は反応溶液をキャピラリ中で酸化剤と混和させリン酸に変換させたのちにTLCに供すると、原料のスポットを追跡しやすくなります。(変換させたアミダイトはリン酸の影響で極性が高くなるため、ジメトキシトリチル体よりも低Rf値のスポットとして出現します)

反応が完結したことを確認すると、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させます。反応を停止させた後は、酢酸エチルで素早く抽出し、硫酸ナトリウムなどで脱水し、濾過した後にエバポで溶媒を飛ばします。ホスホロアミダイトはメタノールなどでも分解するため、エバポ内がメタノールや酸、塩基に侵されていないかを確認することが意外と重要です。(カモシカはエバポ内をアセトンで置換してから目的物質を飛ばしていました)。その後は1%TEAを添加した溶出溶媒を用いてカラムをします。ここの手際の良さが収率に影響するため、素早く溶出することが重要です。作業者の習熟度にもよりますが、70-90%程度で目的物質を回収することができます、

※4: 2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイトをジメトキシトリチル体に対して1.2等量添加するのに対して、DIPEAは1.5等量添加します。

おわりに
今回はチミジンのホスホロアミダイトの合成についてながながと紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?慣れてからもなかなかトラブルが多い反応ですが、ホスホロアミダイトを得るためには避けて通れない道なのでめげずにがんばりましょう。。。笑
参考になれば、いいねよろしくお願いします。
ではまた。


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