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No.4 矢田幸博氏〜ヘルスケアの最新情報〜

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 今回はNTS編集部と筑波大学大学院をZoomで繋いでのインタビューです。矢田幸博先生は、1958年熊本生まれ、長崎育ちの63歳です。大学院修了後、ヘルスケア研究を志望して花王株式会社に入社。すぐさま研究畑で頭角を現します。世界で初めて皮膚の日焼け現象を解明したのです(紫外線による皮膚の黒化機構の解明)。この研究によって新美白成分を開発し、花王は業界トップの化粧品メーカーに様変わりしました。現在も花王栃木研究所 主席研究員と筑波大学大学院人間総合科学学術院 教授の両方に所属される、いわば商品開発研究と基礎研究の二刀流研究者です。「女性の救世主」ともいわれる研究のご様子をうかがいました。

「共同研究や店頭調査で日本全県を5回以上、渡航回数も120回以上になります」

 「花王に入社してすぐの3年目から岐阜大学医学部へ国内留学させてもらい、国内外の大学や研究機関との共同研究を50本以上経験しました。花王という自由な研究環境にとても感謝しています。研究チームは成果も着実に生み出すことができて、社長賞もたくさん戴きました。特に皮膚のカウンセリングを全国の有名デパートで行い、多くのご婦人と接することができたのは嬉しい経験です。私も含め男性という生物は一律ですが、女性は年齢とともに心身も大きく変化をしてゆきます。研究の不思議さはまだ尽くせていないほどです。」先生の開発研究は奥様にもご協力をいただき、特に美白成分の開発では奥様に多大な感謝の言葉を今でもいただくという、なんとも羨ましいご家族をお持ちです。

「お顔のマッサージは本当に有効なのか? 疑問はすぐさま実証すべし!」

 証拠はあるのか。証明できるのか、先生の問いの立て方は鋭く、また仮説を実証するためにすぐさま実験に取り掛かります。丸々1年間、花王製品を扱う百貨店の店頭に来ていただいたお客様のフェイシャルマッサージを続けたら、ホントに効果が出たそうです。それはなぜか? 顔の筋肉に加齢変化はないのか? MRIを利用して微細に調査したら、顔面の筋肉(表情筋)は加齢変化しないことを発見。病理解剖学の先生からも同様な証言を得て、しっかりとした確証をもとに、血流促進のための高濃度炭酸洗顔料や美容液を開発したそうです。

「疲れ顔は左にしか出ません。知ってましたか? 私の実験で分かったのです。出向先の医学部で夜勤明けの看護師さんに協力いただき、たくさんのデータを分析しました。」
 「疲れた顔してる」とはよく言うものの、実際にはどんなことなのか。顔の筋肉が疲労するのか? 脳波や脳血流まで調べて、「疲れ顔は右脳に原因がある」と証明できたそうです。お顔の左側は、疲れると右脳が働きを弱めてしまい、表情をつくれなくなるのだそうです。その他にも目の疲れはホット蒸気で癒やされることから、『めぐりズム、ホットアイマスク』を商品化されました。この間も続々と研究テーマは広がり、『シワ改善』くすみの原因究明』など、多くの成果を生み出してこられました。「なんとなく心身が不調」という不定愁訴の研究成果を当社NTSで発刊するにいたりました。

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「日本の若い研究者を憂いています。その先の道が見えないから」

「日本ではマスター、ドクターを目指しても就活にとても苦労します。研究と成果が連動しないために、基礎研究では時間や資金が足りずに海外流出してしまう〜」矢田先生ご自身は花王という企業に育ち、研究と成果をきっちり出せてこれたのは、「基礎研究と開発研究が連動していたからだ」と話されていました。
 純粋な研究心は、若い時代の豊かな感受性だけでなく、社会に出た後の経済や社会環境にも依存しますから、日本は技術立国の栄光を取り戻すためにも研究者への環境づくりに注力して欲しいですね。矢田先生の後進を眺める優しい目がとても印象的でした。全国、世界を飛び回り、デパート店頭でのカウンセリングなどをガンガンこなしながら、ほっと一息つくときは、お手製陶器のスピーカーで音楽を楽しむそうです(筒の両側に配置したスピーカーは独特の音響で心動スピーカーと呼ばれています)。その他にも実は、先生の手も長年美白成分のクリームを使っている(花王のキュレル)とのことで、とても美しかったのでした。

略歴:
筑波大学大学院人間総合科学学術院 教授
花王株式会社栃木研究所 主席研究員
久留米大学大学院心理学研究科 客員教授

専門は,生化学(細胞内情報伝達機構),皮膚生理学(皮膚組織の機能と有効性解析),統合生理学(中枢~末梢機能の統合生理解析)。
日本行動医学会,日本ストレス学会,日本健康支援学会,抗加齢医学会等に所属。
1984年 花王石鹸株式会社(現:花王株式会社)入社。皮膚生理機能に関する基礎研究に従事。留学を経て1992年岐阜大学医学部で学位習得(医学博士)。
1995年 スキンケア研究所(当時)に転属。この間,世界で初めて細胞情報伝達関連酵素の精製,紫外線による皮膚の黒化機構の解明やアトピー性皮膚炎の脂質代謝異常の発見およびそれらのケア剤の開発を行った。
2001年 ヒューマンヘルスケア研究所に転属。睡眠研究,香り研究,温熱生理研究,サニタリー研究に従事した。
2010年より現職。この間,国内での共同研究と合わせて中国やインドネシアなどの大学との共同研究活動も進める。
2011年 久留米大学客員教授。現在に至る。
2012年 筑波大学教授。現在に至る。グローバル教育院ヒューマンバイオロジー博士課程の教授も務め,教育・研究活動に邁進中。

 外部での教育・研究活動としては,東京女子医科大学医学部,富山大学医学部,佐賀大学理工学部,広島国際大学看護学部,タイ王立皮膚科学研究所、ウダヤナ大学医学部(インドネシア)等で研究員,非常勤講師を歴任。

<取材日2021/11/2>

主な書籍:
2021年6月 『不定愁訴の総合生理学と商品開発』(単著)
2013年2月 
『嗅覚と匂い・香りの産業利用最前線』(共著)
『化粧品に求められる使用感の共有化と感性価値の数値化・定量化』(共著)
『aromatopia』特集・冷え症の根本原因と対処法を探る(単著)
『感性特性評価事例集』(共著)
『水素を吸えば,脳が変わる』(監修)
『ヒトの感性に訴える製品開発とその評価』(共著)など著書多数。