ゴールデンスリッパーS(GⅠ)有力馬解説・展望

ゴールデンスリッパーステークス
(TAB Golden Slipper Stakes)

2024/3/23 16:40(日本時間14:40)
格付け:GⅠ
開催地:オーストラリア・ニューサウスウェールズ州
    ローズヒルガーデンズ競馬場
条件:2歳・右回り・芝1200m
斤量:56.5kg(牝馬2kg限)
総賞金:492万豪ドル(約4億8000万円)
1着賞金:280万豪ドル(約2億7360万円)

《馬番(ゲート番)・馬名・騎手(斤量)》
①(2)ストームボーイ(Storm Boy) R.ムーア(56.5)
②(1)ファリーリット(Fully Lit) S.クリッパートン(56.5)
③(3)シャングリラエクスプレス(Shangri La Express) R.ベイリス(56.5)
④(14)リューデロワイヤル(Rue De Royale) C.スコフィールド(56.5)
⑤(6)トラフィックワーデン(Traffic Warden) C.ウィリアムズ(56.5)
⑥(9)ストレートチャージ(Straight Charge) T.クラーク(56.5)
⑦(7)スイッツァランド(Switzerland) J.マクドナルド(56.5)
⑧(10)ボディーガード(Bodyguard) M.ザーラ(56.5)
⑨(13)ダブリンダウン(Dublin Down) H.ボウマン(56.5)
⑩(4)コールマン(Coleman) K.マケボイ(56.5)
⑪(8)ホームズエイコート(Holmes A Court) T.マーカンド(56.5)
⑫(11)プロスト(Prost) A.ヒエロニムス(56.5)
⑬(16)ハヤスギ(Hayasugi) J.カー(54.5)
⑭(5)レディーオブキャメロット(Lady of Camelot) B.シン(54.5)
⑮(17)マナール(Manaal) J.コレクト(54.5)
⑯(15)エニーザ(Eneeza) D.レーン(54.5)
補欠馬
⑰e(12)エスピオナージ(Espionage) T.ベリー(56.5)

《前売り単勝オッズ(TAB)》(※3/19現在)
①ストームボーイ 2.10
⑦スイッツァランド 4.50
⑥ストレートチャージ 11.00
⑭レディーオブキャメロット 11.00
⑰eエスピオナージ 15.00
⑬ハヤスギ 17.00
②ファリーリット 21.00
③シャングリラエクスプレス 21.00
⑤トラフィックワーデン 34.00
⑧ボディーガード 34.00
⑩コールマン 34.00
⑮マナール 34.00
⑪ホームズエイコート 51.00
⑫プロスト 51.00
⑨ダブリンダウン 71.00
⑯エニーザ 71.00
④リューデロワイヤル 201.00

《予想印》
【ヒモ混戦】
◎ストームボーイ
◯スイッツァランド
▲ハヤスギ
△レディーオブキャメロット
 シャングリラエクスプレス
 トラフィックワーデン
☆プロスト

《概要・有力馬解説》
オーストラリア競馬の大一番、2歳GⅠとして世界最高賞金額を誇るゴールデンスリッパーステークス。
GⅠ・サイアーズプロデュースステークス(ロイヤルランドウィック芝1400m)、GⅠ・シャンパンステークス(ロイヤルランドウィック芝1600m)と併せて「オーストラリア2歳三冠」を構成し、その中でも最重要レースとして位置付けられている。
馬産において短距離適性・早熟性を重視するオーストラリアにおいて、この2歳GⅠはメルボルンカップと同等か、それ以上に勝利を目指すべきレースだとさえ言えるだろう。

そんなゴールデンスリッパーSだが、今年のオーストラリアの2歳馬の中には2歳三冠の達成を期待されている素質馬がいる。
オーストラリア最大のブックメーカー・TABの前売りオッズにおいても2.1倍で1番人気の支持を受けている、ストームボーイ(Storm Boy)だ。
父は米国三冠馬ジャスティファイ(Justify)。母ペリカン(Pelican)はデインヒル(Danehill)後継のファストネットロック(Fastnet Rock)を父に持つ。
2代母シーチェンジ(Seachange)は2006〜08年にかけて、2シーズン連続でニュージーランドの年度代表馬に選ばれた名牝という血統の本馬は、現在4戦4勝の無敗馬である。
生産はクールモア・オーストラリア。
当歳セールにおいてG.ウォーターハウス調教師のグループに落札され、G.ウォーターハウス&A.ボット厩舎の下でデビューしたストームボーイは、2戦目となった12/23のGⅢ B.J.マクラクランS(イーグルファーム芝1200m)を2馬身半差快勝し、重賞制覇を果たした。

本馬が一躍脚光を浴びることになったのは、今年1/13にゴールドコースト競馬場で行われたマジックミリオンズ2歳クラシック(芝1200m)からだ。
このレースはGⅠ格付けこそ得ていないものの、総賞金300万豪ドル(約2億9000万円)という高額賞金レースで、ストームボーイは2着馬に2馬身半つけての圧勝を果たし、ゴールデンスリッパーSの最有力馬と言われるようになった。

この結果を受けて、本馬の生産者でもあるクールモアが動いた。
マジックミリオンズ2歳クラシックの後、ストームボーイは超高額でクールモア・オーストラリアに売却されたのである。
正確な取引額は明らかにされていないが、先払いで約15億円と言われている。加えて、GⅠを勝利した場合は約15億円が上乗せされ、ゴールデンスリッパーSを優勝した場合は更に約20億円が追加される模様である。
最大50億円というのは史上稀に見る高額取引と言え、2歳三冠を達成した場合は更に跳ね上がるのではないかと噂されている。
まだGⅠも勝っていない2歳馬を対象として、イクイノックスのシンジケート総額と同程度の金額が動くというのはおよそ正気の沙汰とは思えないが、とにかくストームボーイに対する期待はそれほどまでに凄まじいということだ。

恐らくだが、ストームボーイはニュージーランドの年度代表馬を含むという素晴らしい牝系もあって、ジャスティファイのオーストラリアにおける後継種牡馬としての役割を求められているのだろう。
ジャスティファイは現在シャトル種牡馬としてアメリカとオーストラリアを行き来しており、年間で400頭もの牝馬に種付けを行い、芝・ダート問わず世界中で活躍馬を輩出している。
ガリレオ(Galilleo)亡き今、ジャスティファイには今後のクールモアグループを代表する種牡馬となっていくことが期待されるが、シャトル種牡馬の負担が通常の種牡馬に比べて大きいことは言うまでもない。
これだけ産駒が活躍しているジャスティファイは長く大事にしていきたいだろうから、いずれシャトル種牡馬としてのオーストラリアへの派遣はしなくなり、アメリカでの種付けのみになることが予想される。
そうなった時、ストームボーイがオーストラリアにいれば安心(?)という考えなのではないだろうか。
ストームボーイへの期待値とは即ち、種牡馬ジャスティファイへの期待も加味したものではなかろうかと、一素人としては愚考するわけである。

それはさておき、クールモアの所有馬となったストームボーイはオーストラリアにおける最強の騎手・J.マクドナルドを新たな鞍上として迎え、ゴールデンスリッパーS前の叩きとして3/2のGⅡ スカイラインS(ロイヤルランドウィック芝1200m)に出走。
これを全く危なげなく1馬身半差で快勝して公開調教に変え、本番にはA.オブライエン厩舎の主戦騎手(=ヨーロッパにおけるクールモアの主戦騎手)であるR.ムーアとの新コンビで臨むことになっている。
ゴールデンスリッパーSでクールモアが所有馬にR.ムーア騎手をテン乗りさせるというのは珍しくなく、昨年のゴールデンスリッパーS勝ち馬のシンゾー(Shinzo)もこのパターンである。
まさしく万全の体制で、約35億円のボーナスがかかるレースを取りに来ていると言える。

一方、オーストラリア最強のJ.マクドナルド騎手は何に乗るのか──というと、ストームボーイと同じくクールモアが所有するスイッツァランド(Switzerland)である。
スイッツァランドというと、2022年のドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ)を制したスパイツタウン(Speightstown)産駒のことを思い出す人もいるかもしれないが、こちらは全く関係のない別馬となる。
デインヒル(Danehill)直系の父スニッツェル(Snitzel)、母父はブレイム(Blame)でクリスエス(Cris S.)系という血統の本馬も、3戦3勝で重賞を制した無敗馬だ。
前走は3/9に行われたGⅡ トッドマンS(ロイヤルランドウィック芝1200m)を1馬身差で完勝。ゴールデンスリッパーSでも2番人気の支持を得ており、クールモアはストームボーイにR.ムーア、スイッツァランドにJ.マクドナルドという無敵態勢を構築している。
ゴールデンスリッパーSの結果次第で、サイアーズプロデュースS以降のJ.マクドナルドの騎乗馬も決まると言われており、オーストラリアにおいても結局クールモアスタッドが正義というのを感じる。

また、牡馬だけでなく牝馬も強豪揃いであり、侮れない。
実績上位はハヤスギ(Hayasugi)
父はインヴィンシブルスピリット(Invinsible Spirit)産駒のロイヤルミーティング(Royal Meeting)、母父はコマンズ(Commands)でデインヒル(Danehill)系という血統。
名前からしてネタ馬と思われるかもしれないが、馬主は別に日本人とかではなく、大真面目につけられていると考えられる。
その上、この馬は普通にメチャクチャ強い。
デビュー戦と2戦目こそ敗れたものの、今年に入ってから覚醒した雰囲気があり、1/26のGⅢ ブルーダイヤモンドプレビュー(コーフィールド牝限芝1000m)と2/10のGⅡ ブルーダイヤモンドプレリュード(コーフィールド牝限芝1100m)を連勝。
2/24に行われた前走のGⅠ ブルーダイヤモンドS(コーフィールド芝1200m)では、牡馬を蹴散らしてのGⅠ初制覇を果たした。
スプリンターとしての速さと仕上がりの早さを備える本馬は、まさしくハヤスギと呼ばれるに相応しいだろう。
今年は左回りのコーフィールド競馬場しか走っておらず、右回りのローズヒルガーデンズ競馬場と輸送がどうかという懸念はあるが、ここでも通用するだけの能力は十分にあるのではなかろうか。

そして、前走ブルーダイヤモンドS(GⅠ)で2着だったのがレディーオブキャメロット(Lady of Camelot)
父ライトゥンタイクーン(Written Tycoon)はラストタイクーン(Last Tycoon)直系、母父はファストネットロック(Fastnet Rock)という血統の本馬は、ローズヒルガーデンズ競馬場で2/3に行われたGⅢ ウィッデンS(牝限芝1100m)を優勝している。
ハヤスギとは違い、既にローズヒルガーデンズ競馬場で走った経験があり、重賞制覇という結果を出している点はゴールデンスリッパーSにおいても強みとなるだろう。

長くなったので出走馬の紹介はこの辺りにしておくが、ここで紹介した4頭の他にも、一生に一度の栄光を目指して、強力な2歳スプリンターたちが顔を揃えている。
ゴールデンスリッパーSは勝てば一生安泰とさえ言えるほどの価値があり、全ての馬が全力投球してくる。
ストームボーイがその力を見せつけて多大な期待に見事応えるのか、スイッツァランド以下他馬の強襲があるのか──レース本番では、2歳の秋を迎えた若駒たちの熱き戦いが見られることだろう。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の競馬は、残念ながら日本国内からレース中継を視聴する術がない。
しかしながら、オーストラリアにおいてはこのゴールデンスリッパーSが競馬に携わる人々にとっての非常に大きな目標の1つであるというのは先程申し上げた通りであり、レース映像は後からRacing NSWの公式サイトの他、YouTubeなどでも観ることができる。
日本国内の高松宮記念(GⅠ)でそれどころではないかもしれないが、オーストラリアで行われる世界最高峰の2歳戦にも関心を持って頂ければ嬉しく思う。

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