愛ダービー2024 有力馬解説・展望

春のグランプリ・宝塚記念が終了し、日本競馬は地獄の夏競馬の時期を迎えた。
しばし日本は夏休みという雰囲気で、各地でデビューを迎える2歳馬たちの走りにも期待と注目が集まる時期だが、その一方でふと、こう思う瞬間もあるのではないだろうか──「GⅠを見たい」と。

そんなアナタに海外競馬。
夏は海外平地競馬のGⅠがいっぱい。
海外競馬はGⅠに飢えたアナタをきっと満足させます。

グリーンチャンネルも海外競馬中継を定期的に行う時期となり、今週末には「ALL IN LINE〜世界の競馬〜」において、2024愛ダービー中継が予定されている。

ヨーロッパの競馬大国、アイルランド
湿潤かつ広大な大地には良質な芝が育ち、起伏のある地形は馬たちを強靭に鍛え上げる。
生産国・調教国として世界の競馬をリードするアイルランドにおけるダービー──「アイリッシュダービー(The Irish Derby)」は、近年ウエストオーバー(Westover)オーギュストロダン(Auguste Rodin)といった、世界的なトップホースを相次いで輩出している。
今後の欧州中距離戦線を見ていく上でも、決して見逃すことのできない一戦となることだろう。

本稿では今年のアイリッシュダービーについて、舞台となるカラ競馬場のコースを見ながら、出走予定馬の中でも有力視される馬たちを見ていきたい。
前回のロイヤルアスコット解説ほど長くはならないので、さっくり気楽な気持ちで見て頂ければ嬉しく思う。


アイリッシュダービー(The Irish Derby)

2024/6/30 24:05(日本時間)発走
格付け:GⅠ
開催地:アイルランド・カラ競馬場
条件:3歳・芝1マイル4ハロン(約2400メートル)
総賞金:72万5000ユーロ(約1億2400万円)

2023年優勝馬:オーギュストロダン(Auguste Rodin)
(THE IRISH TIMESより)

コース解説

まずは、アイリッシュダービーの舞台となるカラ競馬場・芝2400メートルのコースを確認しよう。

カラ競馬場 コース図
(JRA-VAN Worldより)

なぁにこれぇ

と毎回書いてるような気がするが、そろそろ皆様もこの異形の欧州競馬場シリーズに順応してきたのではないだろうか。
ちなみに筆者は既に何とも思わなくなっているヨ。

右回りの競馬場で、創設は1868年──なのだが、3世紀の頃には既に戦車による競馬が行われていたという伝承が残されており、創設年以前も馬の競走の舞台となってきた由緒正しき競馬場だ。
アイルランド競馬の発祥地ともされ、現在アイルランドで行われている13のGⅠレースのうち、11がこのカラ競馬場で開催される
アイリッシュダービーも含め、5つのクラシックレースは全てカラ競馬場の開催。カラ競馬場はアイルランドの平地競馬の中心地である、と言えるだろう。

なお、カラ(Curragh)はゲール語(アイルランド現地の言葉)で「馬を走らせる場所」という意味があるという。
そのまんまだね。

向正面が3層に分かれていることが見て取れるが、上から順に「プレートコース」「ダービーコース」「内回りコース」と呼称されており、芝2400メートルではその名の通りダービーコースが使用される。
芝2400メートルのスタート地点はプレートコースとダービーコースの合流地点付近で、ワンターンコースとなっている。
最後の直線は約500メートルあるが、ゴールまでは延々と上り坂。激坂クソおにぎりアスコットほどではないにせよ、スタミナも問われるタフなコースである。

出走予定馬・前売りオッズ

《出走予定馬》
①(6)アンビエンテフレンドリー(Ambiente Friendly)
 騎手:R.ハヴリン 調教師:J.ファンショー
②(7)ユーフォリック(Euphoric)
 騎手:D.マクドノー 調教師:A.オブライエン
③(1)グロヴナースクエア(Grosvenor Square)
 騎手:W.ローダン 調教師:A.オブライエン
④(5)キーパーズハート(Keeper's Heart)
 騎手:C.キーン 調教師:G.ライオンズ
⑤(3)ロサンゼルス(Los Angels)
 騎手:R.ムーア 調教師:A.オブライエン
⑥(2)マツリ(Matsuri)
 騎手:J.ドイル 調教師:R.ヴェリアン
⑦(8)サンウェイ(Sunway)
 騎手:O.マーフィー 調教師:D.メヌイジエ
⑧(4)ジユーフラテス(The Euphrates)
 騎手:D.マクモナグル 調教師:A.オブライエン
※6/28現在

《前売りオッズ》
①アンビエンテフレンドリー 6/5(2.2倍)
⑤ロサンゼルス 13/8(2.625倍)
⑥マツリ 7/1(8.0倍)
③グロヴナースクエア 14/1(15.0倍)
⑦サンウェイ 20/1(21.0倍)
②ユーフォリック 33/1(34.0倍)
⑧ジユーフラテス 40/1(41.0倍)
④キーパーズハート 66/1(67.0倍)
※ブックメーカー「William Hill」のもの、6/28現在

有力馬解説・展望

アイリッシュダービーについて語る前に、まずは6月1日に英国のエプソムダウンズ競馬場で行われたザ・ダービーを振り返っていきたい。
アイリッシュダービーは時期的に英国のダービーからの転戦馬も多く、今年も英ダービーを経て出走する馬たちが人気を集めているからである。

ダービーの出走馬については以前の「英ダービー&仏ダービー2024 有力馬解説・展望」をご参考頂きたいが、結局1番人気はライアン・ムーア騎手が騎乗するエイダン・オブライエン厩舎の管理馬、シティーオブトロイ(City of Troy)だった。
スタート直後にヴォイッジ(Voyage)が落馬し、波乱の幕開けとなったレースは、前走から一転して差し戦法に切り替えたシティーオブトロイが2着に2馬身差をつけての優勝。
見事に2000ギニー9着からの巻き返しを果たし、その素質が本物であることを証明した。ついでにA.オブライエン師の「彼ほどの能力を持つ馬をダービーに送り込んだことは未だかつて無い」という発言が本物であったことも証明し、見事BCクラシック特攻機に乗り込むこととなった。

以下、英ダービーの上位5頭はご覧の通りである。

1着 シティーオブトロイ(City of Troy)
2着 アンビエンテフレンドリー(Ambiente Friendly)
3着 ロサンゼルス(Los Angeles)
4着 デイラマイル(Deira Mile)
5着 セイエダティーサダティー(Sayedaty Sadaty)

この内、2着馬と3着馬がアイリッシュダービーに出走してきており、そのまま1番人気と2番人気になっている。
なお、英ダービー馬シティーオブトロイは7月6日のGⅠ・エクリプスS(サンダウンパーク芝1990m)で古馬との初対決を迎え、予備登録もあったアイリッシュダービーは回避することが早々に決定した。

アンビエンテフレンドリー(Ambiente Friendly)
(SPORTING LIFEより)

アイリッシュダービーの1番人気はアンビエンテフレンドリー(Ambiente Friendly)
英ダービーでも4番人気に支持されており、そちらの記事でも取り上げているが、グレッドリーファミリーが所有するグレンイーグルス(Gleneagles)産駒である。
私はこの勝負服を見ると、やはり英二冠牝馬にして3ヶ国オークス制覇のユーザーフレンドリー(User Friendly)を思い出すのであるが、それはともかく。

アンビエンテフレンドリーはListed・ダービートライアルS(リングフィールド芝2320m)を優勝してクラシック戦線に名乗りを上げた。
そして、本番の英ダービーでも2着と好走した後、このアイリッシュダービーには10万ユーロ(約1700万円)の追加登録料を支払っての出走を決定した。

この追加登録により、アンビエンテフレンドリーはアイリッシュダービー前売り1番人気に一気に浮上。
また、ダービートライアルS(L)で2着に敗れたイリノイ(Illinois)がロイヤルアスコット開催のGⅡ・クイーンズヴァーズ(アスコット芝2800m)で優勝したことも、アンビエンテフレンドリーの評価を押し上げる要因となっていると言えるだろう。

莫大な追加登録料を支払っての出走ということで、決断した陣営からも強気のコメントが出ている。
が、一方で陣営からは「今シーズンはシティーオブトロイの出ないレースを使う」といった趣旨のコメントも出ており、このアイリッシュダービー出走が果たして100%ポジティブな理由での決断なのか──という点には疑問が残るようにも思える。

英ダービー2着の実績があるとはいえ、重賞のタイトルを未だに手にしていない本馬としては、ここで最高の結果を出しておきたいところだ。

ロサンゼルス(Los Angeles)
(Coolmoreより)

前売り2番人気はロサンゼルス(Los Angeles)
アンビエンテフレンドリーの追加登録が判明するまでは、この馬がアイリッシュダービーの前売り1番人気に支持されていた。

今年のアイリッシュダービーは4頭出し、出走予定馬の半数を占めるエイダン・オブライエン厩舎の1番槍は間違いなくこの馬で、鞍上もオブライエン厩舎のファーストジョッキーであるライアン・ムーア騎手が務める。
21世紀で最も英国三冠に近づいた男ことキャメロット(Camelot)の産駒であるロサンゼルスについては、2番人気に支持されていた英ダービーの解説でも取り上げているが、昨年のGⅠ・クリテリウム・ド・サンクルー(サンクルー芝2000m)の勝ち馬だ。
今シーズンの復帰戦となったGⅢ・愛ダービートライアルS(レパーズタウン芝2000m)も勝ち、無敗での英ダービー参戦で、本番でも3着と好走した。

ここまで4戦3勝3着1回と抜群の安定感を見せているロサンゼルスだが、英ダービーでは2着のアンビエンテフレンドリーから3と1/4馬身離されていることと、A.オブライエン厩舎の馬でありながらR.ムーア騎手とは今回が初コンビとなるのが懸念点ではあるか。

3番人気のマツリ(Matsuri)は、その名の通りキタサンブラック産駒──と言いたいところなのだが、実際にはシーザスターズ(Sea The Stars)の産駒である。
なお、オーストラリアには同名のモーリス産駒がいる

マツリは上がり馬で、ここまで3戦2勝、2着1回。
前走はレスター競馬場の芝2000mで行われた条件戦で、今回もコンビを組むジェームズ・ドイル騎手を鞍上に8馬身差の圧勝をし、このアイリッシュダービーに駒を進めてきた。
着差のインパクトこそあったが、英ダービー組に比べれば、これまで戦ってきた相手のレベルという面で疑問符がつく。
今回は少頭数とはいえ、これまでのレースと比べると格段にメンバーレベルが上がるため、どこまで通用するのかという試金石的なレースになることだろう。

以上の3頭が、現時点ではオッズ10倍を切る人気となっている。
この他、サンウェイ(Sunway)は昨年のGⅠ・クリテリウム・ド・アンテルナシオナル(サンクルー芝1600m)を優勝しており、ユーフォリック(Euphoric)は愛ダービートライアルS(GⅢ)でロサンゼルス(Los Angeles)の2着。
人気を集めていないものの実績ある馬たちもおり、実質的にはアンビエンテフレンドリーVSロサンゼルスという構図の中、割って入ろうと虎視眈々である。

8頭中4頭、出走予定馬の半数がA.オブライエン厩舎ということで、逃げる馬も恐らくはオブライエン厩舎の馬になるだろう。ラビット(ペースメーカー)としての役割を担う馬もいるはずだからだ。
R.ムーア騎手のロサンゼルスは2〜3番手の先団に取りつき、マツリも先行策を打ちそうだ。アンビエンテフレンドリーは中団か後方の位置取りになると予想される。

ペースは速くならなさそうで、欧州競馬の典型的な形になるのではないだろうか。
ロサンゼルスとマツリは早めに抜け出しを図り、アンビエンテフレンドリーはその後ろから追撃をかける。
早めに踏んだロサンゼルスが押し切るか、決め手勝負でアンビエンテフレンドリーが差し切るか──というレースになるのではないかと筆者は予想している(恐らくはアンビエンテフレンドリーがロサンゼルスを捕まえて先頭でゴールするのではなかろうか)。
この頭数ならば紛れも少なく、実力通りの決着になるのではないかと私は踏んでいるのだが、ともすれば予想だにしない穴馬の激走があるのかもしれない……?

放送・配信情報

日本国内ではグリーンチャンネルの「ALL IN LINE〜世界の競馬〜」において、「2024愛ダービー中継」が行われる。

6月30日(日) 23:30~24:30(初回)

初回は無料放送となっており、グリーンチャンネルを契約していない方でも観ることができる上、日本語実況と解説もセットである。
6月最後の夜は、是非アイルランドのダービーをお楽しみ頂きたい。

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