日記(2020/10/16) A子さんの恋人の話 #まじ日

A子さんの恋人最終巻の何がすごいって、完全に、この巻によって、”わかる”状態になるんですよね。私は、ずっと面白く読んでいたんだけど、とはいえ、この漫画の主題がなにかというところは掴みかねていたのが正直なところ。A君とA太郎で揺れるA子さんっていうのがメインストーリーではあるものの、そんなに単純な話でもなく、でも何がどう絡まってるのかもよくわからなかったのは、ここを見て!というスポットライトをあてるような作りになっていないからだと思う。で、それは、実際A子さん(および周りの友人ら)が、状態をよくわかっていないからだったんだなぁということに、最終巻で気付きました。友人、人間関係、仕事、才能、エトセトラ。まぁわかってなくても困ることはないし。実際の人生ってドラマチックなことばかりではなく、何かが燻っていたり、ぴったりハマらないけど悪くない状態が続いてたりするわけで、その状態に特別違和感はないんだけど、なんなんだろうなぁという思いを抱き続けることはよくある。A子さんの恋人の中では、それが起こっていて、読者的にも、知らないうちにある意味メタ的に、そのわからなさを追体験していたからこそ、最終巻で解けたときに、あーそういう漫画だったの!と理解ができたのだと思います。その理解が、読了後のスッキリ感につながったのか、という構造に、2回目読んだことで気付きました。具体的に何がどうで、結果がこうでって言語化して説明できないのだけど、とにかく”わかった”という気持ちになったし、同時に、これは傑作だわ…としみじみしてしまいました。A子さんがなぜそんなに好かれるのか、A太郎の何がいいのか(A君は好み)、それでいてなぜうまくいかなかったのか、ずっとピンとこなかったけど、本人たちが説明できなかったからなのかもしれず、読者である私がわからないのはある意味当たり前なのかもしれない。登場人物と同じタイミングでわかっていくという体験って案外ないような気がする。だいたいは教えてもらうか追い越すかだもんな。そういう意味でも稀有な漫画でした。私は相談のラジオをよく聴くのですが、もにゃもにゃした悩みは、まず解きほぐすのが定石であるはずなのに、A子さんの恋人はなかなか解きほぐされない(そもそも、A子さんが描き直してるデビュー作も全然解きほぐされていない)。ぼやっともやっとしたまま持ち続けて考え続けて、やっとたどり着いた結論と過去の行動への説明、と、まぁ、そういうこともあるよな、何でもかんでもスパッと整理できるものではないよな、なんてことも思いました。A子さん、私の代わりに考え続けてくれてありがとう。作者もめっちゃ考える人なのかな。ニューヨークで考え中だしな。あと、そうやって考えてたことが、海の比喩で綺麗に表現されてるのも、すごいなぁと思いました。いい読書体験だったなー。

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