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強化(チーム編成)という仕事

2020年シーズンのチーム編成も9割方は終了した。昨日から水戸ホーリーホックの新シーズンが始まった。
この時期のJクラブの強化担当者の仕事がどんな仕事をしているかを紹介してみたいと思う。まずこの時期というのを具体的に言うと、昨年の11月下旬から今年の1月初旬までの時期と特定しておこう。また強化の仕方、そこに関わる人数や、狙いにはクラブによって特色があるので、一概に、「こう」とは説明できない部分も多いが、そのあたりは、自分の地域のクラブを想像しながら、読んで頂けたら、幸いです。またかなり長い文章なので、時間があって、興味がある方だけ読んで頂けたらと思います。

更新、移籍、加入

サッカークラブのこの時期は、出会い、別れ、継続が、選手、またクラブの意思によって、「その場所」が決まっていく。
言うまでもなく、この時期はサッカークラブにとって、非常に重要な時期であり、その地域におけるファン、サポーター、クラブに関わる関係者の感情の振れ幅は大きくなる時期でもある。

強化担当者はクラブの未来、選手の未来、地域の未来、そこに関わる多くの人の未来を想像して、出会い、別れ、継続、を選択していく。

クラブ、地域、また選手、スタッフの未来を決断していくというのは、やりがいがあり、また非常に骨の折れる業務だ。
クラブの人事担当者にとって、交渉の成立、決裂は多くのエネルギーを要することとなる。Jリーグ56クラブの強化担当者はそれをこの時期はひたすら、繰り返している。56クラブだけではない。JFL、地域リーグ、都道府県リーグ、ひいては大学、小中高の学校、街クラブ、Jアカデミー。多くの人の想いと、意思が交錯し「その場所」が決まっていく。

多くの人の想いとは反対に、非情な決断をくださないといけない時もあるし、どうしても一緒にいてほしいが、離ればなれになるときもある。残ってくれそうで、残ってもらえない場合もあれば、そもそも非常にハードルが高く、やっぱり残ってもらえない時もある。逆に高いハードルを見事に乗り越え、来てくれる時。残ってくれる時もある。まさに様々だ。
それが、叶うシーズンもあれば、叶わないシーズンもある。

交渉の成立、決裂がおこるたびに、感情と理性の波が押し寄せてくる。成立、決裂による感情の波は、こちらの想定、見込みによって、感じ方は変わってくる。「そうだよね・・・」「たしかにそうだ・・・」「なるほど・・・」「マジか・・・」逆に「本当に!」「そうだよね!」「ありがとう!」「よっしゃ!」決断してもらうのには理由が必要だ。「なんとなく」はない。
そのために知恵を絞り、力の限り、こちらの想いを、プランを、時に熱く、時に論理立てて、伝えることになる。

契約満了はまたひとつ違うものだ・・・。近年の水戸ホーリーホックは満了が引退になる事は少なく、満了になることは、「この場所」での「終わり」を意味するが、「新たな場所」にたどり着くための、「始まり」となる。とはいえ、当たり前だが、大きな出来事だ。自分も選手時代には4度経験したが、なかなか慣れることはない。新たな土地で、新たな出会いが慰めになり、意味へと変わり、意欲となる。自分の場合はその繰り返しだった。

一人具体名を出してみる。冨田大介。彼には2018年の暮れに、契約満了を伝えた。年齢が同じで、現役時代には苦楽を何シーズンもともにした。水戸加入時には感情は良い意味で、お互い高まったが、終わる時には、どちらも深く落ちるのだ。相手がどれだけ嬉しかったか、相手がどれだけつらかったかは、想像するしかない。同じように、感じ、味わうことはできない。感情的には1年でも長くやって欲しかったし、実際にチームの中では、多くの役割をこなしてくれて、2018年の好成績があった。でも次のシーズンはない。自分の理性が総合的にそう判断した。 どれだけ彼が現役にこだわっていたかは、長年見てきたし、最後の1年は間近で見ていた。昨年の暮れ、編成に忙殺される時期ではあったが、隙間の時間を見つけ、彼の引退を労う場に、当事者として顔を出した。 
すでに、昨年の10月から水戸ホーリーホックで、新たな役職のもと、バリバリ働いてもらっている。自己認知がしっかりできている彼だからか、気持ちの整理はついているからなのか、悲壮感はほとんど感じられなかった。(自分が判断することではないですが・・・)でも実際・・・どんな気持ちなのかはわからない。彼に至っては、契約満了だけでなく、自分はこの手で、実際に引退を勧めたのだ。

人事の難しさ、奥深さ、やりがい、喜び、本当に様々だ。VONDS市原で3年。水戸ホーリーホックに来て4年。計7度となる。慣れてきたことと、何度経験しても、到底慣れれないことがある。一喜一憂、喜怒哀楽。様々な感情の波をかき分けて、この時期はとにかく前へ、進んでいかないといけない。

「この場所」を選んでくれた彼等がこの先、創り出す時間はクラブの未来であり、地域の未来である。全国各地でそれが、この時期には行われているのだ。来てくれた選手、スタッフ、残ってくれた選手、スタッフには、こちらの意志と想いを一生懸命、語り、伝え、「この場所」で戦う意味を刻み込んでいく。
そんな彼等が創り出す時間によって、「この場所」の人達の感情がまた動いていく。集まってくれた選手、スタッフは「この場所」の人達の感情を動かすことを想像して、それを励みに、やりがいに、力の限りを出してくれることを今は願う。

「 This is my town story 」
VONDS市原時代にパートナー企業の皆様にポスターを届けていた時だった。
クラブの存在をそうな風に表現してくれた方がいた。
今季の「この場所」の物語の登場人物のキャスティングは終盤を迎えている。
自分の街の物語に出てきた主人公はたとえ離れたとしても、その想いは続いていく。
先日の大然(前田)の活躍を見て、誇らしく思った「この場所」の人は多かったはず。
永地(白井)、隆貴(福満)、寛之(前)、淳史(黒川)、慎太郎(清水)、ムラ(村上)、宮、拓磨(浜崎)、周、レレウ、雄也(浅野)、ジョー、クマ(宮本)、洋介(中川)、モテ(茂木)、恵太(齋藤)、綾(石井)、
志知、航基(小川)、慎吾(近藤)、スタッフを含めれば、さらに多くの人が昨季でこのクラブを離れていった。自分の意思で、クラブの意思で。こちらの想いが相手に届かなかったこともあれば、その逆もある。
とはいえ、「ここの場所」を想う多くの人が、昨季の登場人物に強い想い入れがあるだろう。
離れていった人達は色々な言葉を残していってくれた。多くの選手、スタッフから、「感謝」の言葉や「成長」に関わる事が、語られていた。サッカー選手、また専門スタッフは、ほぼ例外なく、サッカーが好きという個人的(一次的)な感情から今に至っている。もちろん、この仕事の違いや、意味を見つけている人も何人かはいると思うが、多くは個人的(一次的)な感情からだ。そこに、意味や意義を与え、教えてくれるのは、「この場所」の人達の想いであり、それを自覚した時に、「感謝」や「成長」という彼等の言葉になるのではないか。
その年の物語の中で、理想的なエンディングを迎えるために、様々な役割が与えられ、もしくは見つけ、物語の完結に向けて、必要なピース(形)になっていく。「この場所」の人達が歓喜することを想像して、その中で、そのために、一人一人がどんな形(役割)になっていくか。時に削り取られたり、とがったり、丸くなったり、絶妙にはまったり、自分探しは毎年続いていく。
昨年も多くの選手、スタッフとたくさん、深く、熱く、何度も関わり、「この場所」に合う形が少しずつ見えてきた。離れてしまって、また残ってくれて、それを気付かせてくれた、選手、スタッフが多数いた。

2019年9月からゼネラルマネージャーの役職を与えてもらえた。
やりがいしかない。
人事の幅がもう少し拡がり、スポーツサイドだけでなく、ビジネスサイドも司ることとなった。この街の、サッカー界の、スポーツ産業の価値を高める仲間を選んでいけることに今はワクワクしている。

この産業の特殊性、また特異性を最近常々感じている。
「多くの人に集まってもらって、感情揺さぶって、凄い珍しい、職種だとつくづく思う」
「毎年順位つけられて、毎週勝ち負けを経験する企業っていうのも、なかなかない」
by 佐藤伸也(湘南ベルマーレフットサルGM)
〔大学の一応ひとつ先輩で密かに尊敬している〕

まさしく!!!

現役を引退して9年。
最近は色々な角度から「選手」「現役」「アスリート」を見れるようになってきた。
更新、移籍、加入。
この時期のサッカークラブの人事担当者は成立、決裂、満了の感情の波に晒されながら、それでも、この職種の特殊性、やりがいに魅了されて、「あなたの街の物語」の主人公を探し続ける。
そう言えば、2020年は「この国」の登場人物が決まり、100年に1度(?)の超大作がありますね。
誰が主人公になるのか?ヒーローは誰か?
エンディングは?
今からそれも楽しみである。

また考えが浮かんだ時に、不定期にはなりますが更新します。
長い文章に最後まで読んで頂き、ありがとうございました。



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