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「健康立国・日本」推進への提言 〜心・体・社会の健康イノベーションで日本を再生する〜

【寄稿文】NSP理事長 藤原直哉(2016年・平成28年12月)

1. 日本再生のビックバンはどこにあるのか

今日の日本は巨大な構造変化のなかにある。少子高齢化と人口減少、地方の衰退、日本経済の競争力減退、社会の爛熟など中長期的に日本の衰退という状況であり、これまで各分野でさまざまな取り組みがなされてきたが、対処療法的な手法を集めるだけでは問題が解決しないことは今や明らかである。

日本は少なくとも旧石器時代から各地に人が住んでいて、この1万年以上にわたる日本の歴史は、我々の祖先たちが過去のあらゆる艱難辛苦を乗り越えて新しい時代を切り拓き、新しい日本を創造してきたことを示している。日本の根本は昔から変わっていないものの、東洋文明、西洋文明を積極的に取り入れた時期もあるし、国内の熟成を重視した時期もある。

いずれにしろ日本は過去のあらゆる歴史の困難をばねに新しい世の中を作ってきたわけで、まず根本的な発想の原点として今の日本は終わりが近づいているのではなくて、これまでの戦略に基づく国づくりが限界に達して、根本的にイノベーションを行って、今までとは全く違う国づくりをしなければならない時期を迎えたと考えるべきである。

世の中の終わりと始まりは決して単純なものではない。昔の時代が行き詰り、爛熟し、最後はブラックホールのようになってやがて蒸発する。同時にどこかでビッグバンが起きて新しい人たちの新しい試みが急速に広がり、新しいエネルギーが新しい形をとって新しい時代になる。基本的には国衰退と再生もこうしてブラックホールとビッグバンの同時並行的な動きによってもたらされる。

ということは、ここが一番大切なことなのだが、世の中を再生しようと思ったら古い時代の常識と価値観をもとに論理を積み上げて対処療法を行ってもブラックホールを抜け出すことは無理で、全く新しいところから新しい時代を創りたいというエネルギーを噴出させ、そのエネルギーの中からさまざまな試みを生み出し、その試行錯誤の結果として新しい時代が形になる、そのようにしていかなければならない。

すなわち古い時代の終わりと新しい時代の始まりは直接つながっていない。新しい時代は全く新しいところから巨大なエネルギーの放出とともに作っていかなければ生まれるものではない。

2. 日本再生の糸口となる戦略とは

では、今の日本はどのような戦略を立てれば人々のやる気が出てくるのだろうか。多くの日本人がそうだ、それをやろうと言っても自分も何か貢献したい、自分も何かやってみたいと思うことは何だろうか。

著者は今から12年ほど前、当時の構造改革政策が行き詰まったとき、NPO法人日本再生プログラム推進フォーラムを通じて観光立国、新しい農業、日本の大掃除の3つが新しい日本を拓く戦略だと提案した。実際にその後の推移は振り返れば今や観光立国は本物の地域起こしとして全国に根付き、また外国人観光客も多数訪れるという予想外の効果も生んで、日本の地域が生み出す競争力のひとつの源泉になっている。また新しい農業は農産物の輸出以外にも土と触れ合う生活の再生を都市にも農村にも広げ、ビジネスではない「農」まで含めれば、日本全国に「農」は大きく広がった。そして日本の大掃除は環境の重視、景観の復元、大きな看板の撤去などさまざまに広がり、日本をきれいにすることの価値観は広く定着した。

こうした3つの戦略の基礎にあるのは日本古来の民政自治の伝統であり、地域の人たちが自分たちの力で地域を立て直そうとするエネルギーを使ったものであり、この先の日本再生もこうした地域の人たちが自分たちの力で世の中を立て直すという形をとるべきである。

そうした日本の地域の人たちの努力が実って世の中が立ち直ったとき、地域はどんな姿になるのか。

それについて長野県に生まれた動物小説の大家、椋鳩十氏は昭和62年に次のような詩を書いている。

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実に心温まる詩ではないか。人々が小さい小さい幸せを追いかけて人生を生きていくことができる生活、衣食住、職場、そして社会インフラを作ること、これが日本の国づくり、地域づくりの古来変わらぬ原点ではないだろうか。

3. 健康立国宣言

そう考えた時、筆者は観光、農業、大掃除を受けて次の大きな再生戦略は「健康」にあるのではないかと考える。今の日本人が最も懸念し、同時にここを突破しないとどうにもならないのが日本の健康問題で、心、体、そして社会の健康を今までにないイノベーションで根本的に立て直し、大いに進化させること、それが日本再生のビックバンの本命ではないだろうか。

具体的に次のように考えている。

【目標】
健康イノベーションで国民の健康を大幅に増進させ、今後10年間に租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率を現在の3分の1にする(平成27年の国民負担率は過去最高の43.4%)。

国民負担率を10年で3分の1とはずいぶん大胆な目標に見えるが、本当に3分の1にしようと思えば我々のライフスタイルや政府と国民の関係、社会保障、社会インフラ、そして産業や職場まで根本的に変える必要があり、それこそ日本の足元からのイノベーションを健康を通じて行うことができる。

同時にこうした健康イノベーションを展開することで、健康で持続可能性の高い新時代の日本の国際競争力を高めることができる。今や健康で持続可能性の高いライフスタイルは世界が合意した未来への価値観であり、日本は健康イノベーションを通じてその先端に立てる可能性を持っている。

【健康イノベーション 3本の柱】
 健康イノベーションは次の3つの柱によって進められる。
 1. ストレスのない職場
 2. 病気にならない生活
 3. 安心できる社会インフラ

まずストレスのない職場。今の時代、多くの疾病や不調は職場のストレスが生んでいる。新時代にふさわしい経営革命と働き方革命を通じて、職場のストレスを抜本的に減らす。

それから病気にならない生活。いかに健康を増進し、病気にならないかの実践的方法を、あらゆる分野の知恵やイノベーション を駆使して確立し、国民全体でそれをシェア(共有)し、実践していく。お金をかけて健康を増進するのではなくて、みんなの知恵と行動力をシェアして健康を増進する。競争と欲望ではなく、シェアと感謝とリスペクトという若い人たちの価値観がフルに生かされるのがこの分野である。

そして安心できる社会インフラ。本格的な健康の増進には安心・安全の衣食住空間が必要であり、それをサポートする新しい社会インフラが必要である。資源、エネルギー、交通、通信、土地利用、都市計画、産業、教育研究、職場、住宅、生活など、あらゆる社会インフラを健康増進の目的に向けて、斬新なイノベーションを駆使して再構築していく。

これら3本柱を各地域を拠点に人を集めて全国同時にスタートさせ、知恵やノウハウを共有し、全国の健康イノベーションを底上げ、増進させていく、それが健康イノベーション の具体的な姿である。

4. 人類に対する誤解を払しょくしよう

ここで我々は新しい日本を健康イノベーションで創っていくにあたって人間そのものに対する誤解を払しょくする必要がある。人類は数千年前に農業を発明し、野生の動物を卒業している。人類は既に大自然から恵みをいただける社会に生きている。この30年ほどの市場原理主義の時代、我々は人も地域も国も競争に打ち勝たなければ生き残れず、弱肉強食ですべてが決まるような錯覚を植え付けられてきた。

しかし人類は農業社会が始まってから、大自然に抱かれることで天の恵みを豊富にいただき、天の恵の中で定住して暮らすことができるようになった。それは農業だけでなく、鉱工業でもサービス業でも同じで、大自然を搾取して、早い者勝ちでわがものにして生き残るのではなく、自然の草一本、石一つとってもそれぞれに役割と個性があり、同じように人にも地域にも国にもそれぞれ個性と固有の生き方があって、それを本性のとおり生かし切ることが幸せな世の中を創る基礎となっている。

そう考えるとこの健康イノベーション というのは、大自然の中で人と地域と国が本来の生き方に回帰することだと言ってもよく、近代の行き過ぎた物質主義と競争原理のために歪み切ってしまった人類を原点から立て直すことだと言ってもよい。

逆に言えば今という時代はそこまで原点を意識しなければ立て直しができないほど歪んでしまったと言ってもよく、歴史の中で人類の進化を進めるために、我々は健康という入り口から入って、本来の人類の姿を取り戻そうとしていると言ってもよい。

具体的な行動計画はこれからおいおい出てくると思うが、この大きな歴史の節目で今回の健康立国戦略を考えた時、これはぜひとも成功させて次世代へ継承しなければならないと思う。


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