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お酒はぬるめの燗もいい


いちはらし

【祝!】『Dr. ヤンデルの病理トレイル

発刊誠におめでとうございます!

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そうだ,北海道の桜はゴールデンウィークの頃に咲くのでしたね。


「桜って卒業式の頃に咲くもんやから,コッチ(東北)にきてビックリしたよぉ。違和感あるわ〜」と花見がてら行われた大学の新歓コンパで関西出身者が言っていたことをふと思い出しました。

今年,東京の桜は3月中旬に満開をむかえ,わたしははじめて “花の下,かがやく卒業式の看板” を実際に目にしたわけですが,「なるほど あの子の言っていた違和感はこれか……」と25年の時を経て体感した次第です。

5月に咲く桜はニュースでしか拝見したことがないのですが,「開花期間が連休に重なるとか最高なのでは……?」という,もしかしたら的外れな憧れを抱えながら,いつか現地に伺える日をたのしみにしています。

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「温暖化」という単語から,寒い土地→あんま寒くない土地 くらいの変化を雑に思い浮かべてしまって,これはイカンとひとまずwikiを確認すると,

“地球の平均気温は1906年から2005年の100年間で0.74℃上昇しており”

れ,0.74℃…

いっしゅん事態を矮小化しかけたわたしの脳に,ずいぶん昔に見た,とあるコマーシャルの映像が流れます。


商品は炊飯器。

売りは「炊飯時の温度を従来品より4℃高めることに成功,そのため段違いに美味しいごはんが炊ける」こと。

CMは,この炊飯器について,3人のスーツのおじさま(気弱そう)が,まさかの岩下志麻氏(キメキメのスーツ姿)相手にプレゼンをする,という構図ではじまります。

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おじさま「こちら,従来品より4℃高温で炊飯が可能でして…」

岩下氏「……でも,たったの4℃ですよね?」

おじさま「ええと,たとえば体温は4℃あがりますと,たいへんなことになるわけでして…」

岩下氏「それは屁理屈ですよね(ンフッ」

おじさまズ「……ですよね……」

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ひ く な!(泣)

と,サラリーマンの悲哀を感じるとともに彼らを応援したくなる,いま思い出してもなんともよくできたCMです。

おもしろいなー,志麻姐さんオーラすごいなー,と思いつつ。当時のわたしはどこか「これ,よのなか志麻姐さんに賛同する人ばっかりだったら困っちゃうよねー」と謎の上から目線でいました。

そのはずなのに。

温暖化による0.74℃の気温上昇を「それだけ?」と片付けそうになった自分を,当時のわたしがにやにやと眺めている気がして,じわり体温が上がります。

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上記CMのエピソードを思い出しながら,お手紙にあった「忘却は白魔法」を読み返し,頭に浮かんだのはまた別の,あの有名なコマーシャルのことです。

先月,ツイッターのトレンドに

 ぽぽぽぽーん

が入りました。それを見た,その瞬間。

悲しみとか閉塞感とかその他もろもろの言語化できない負の感情を煎じ煮詰めたつめたい液体に脳が浸ってしまったような当時の感覚を,今まですっかり忘れていたことに気付きました。

あの時期は,ほんとうにいろんなものを見たり聞いたり(あるいは目を閉じ耳を塞いだり)しながら,どうにかこうにか日々をやり過ごしていたはずなのですけど,具体的な物事は,もうあまりうまく思い出せません。

そんななか,人々の心にしばらく強くとどまったのち,歳月とともに忘れ去られたとみせかけて燦然と舞い戻る「ぽぽぽぽーん」。

この「残り具合」のさじ加減を,このCMのクリエイター氏らが狙って作成したのだとしたら,彼らはもしや超一流の大賢者なのでは……と思ったりもしています。


もっとも身近な白魔法のひとつ「いたいのいたいの とんでいけ」についても話題にしたかったのですが,これはまた,つぎの機会に。


(2021.4.16 西野→市原)