ネコ型ロボットの登場を待っています

いちはらさん

フェリー,懐かしさを覚えるほど,乗られた経験がおありですか。わたしは大学時代に遠征のあるような部活には入っていなかったこともあり,乗船したことないのですよね……

フェリーといえば

苫小牧発・仙台行きフェリー

という一節が吉田拓郎氏の「落陽」にありますけども,幼い頃に,両親がたまにかけていたレコード(だったはず)に入っていた曲のなかでも,なぜか強烈に印象に残っているフレーズの1つです。


ぼくの心に独特の、指紋のような、心紋(しんもん)? とでも言うような、溝とでっぱりを作っていて


心紋って,ちょっとすごくいいですね。見聞きしたものが「溝とでっぱりに引っかかる」その感じ,とてもよくわかります。

そういう意味では,前回のお手紙にあった「縮小解釈」という言葉には,わたしの「心紋」がざわざわと逆撫でられている感覚をおぼえました。じいっと眺めていたら,じめじめした最近の気候とあいまって,なにやら頭痛までしてくる始末。

うーむ。こんなときは,調べるにかぎります。

(新規タブを開いて検索)

……あらま,「縮小解釈」という用語,あるんですって。

「幽霊の正体みたり…」というのとは少々違いますが,「縮小解釈」という語の存在と語義を知ったことで,それまでくっきりしていた「溝と出っ張り」の差分が,少しゆるくなったような。知識には心紋を研磨する作用もあるのかなぁ,なんてことを思うと同時に,

件のフェリーに乗ったなら,わたしの心紋にはどんな変化が起こるだろう

いつかくるその日を想いながら,タブをぽちりと閉じました。


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ゆっくりと起きた日曜日の朝,なんとなくつけたTVで流れていた「仮面ライダー」をそのまま視聴しました。今作は近未来の設定なのでしょうか,劇中では多くのアンドロイドが街を闊歩しています。

物語がすすむうち,未来型AIBOが登場。さすが未来型,対峙した人間の表情をスキャンし,当人が抱えている感情を算出,そこに最適な反応をかえす……という仕様に仕上がっていました。未来すごいな。

別の場面では「ともだち型AI」を実装したロボット「アイちゃん」(見た目は手のひらサイズの無骨な金属製の半球体)が現れ,登場人物の苦悩解決に一役買うシーンが描かれます。未来すごいな(2度目)。


ふと,「誰かを思いやる」ことについて考えます。

悩んでいたり,つらそうだったりした様子の人に,わたしができることと,たとえばこの作中のAIがやっていること。受け手にとって,果たしてどれだけ差があるのかしら。

ココロのある人の心無い一言と,AIから導き出される やさしい言葉。

そんな言葉遊びをしているうちに,気づけば画面のなかではライダーが戦っています。必殺技といえば「ライダーキック」なのは,今も未来も変わらないようです。


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ものすごくうろ覚えで恐縮なのですが……現時点で,AIは突っ込まれた膨大な情報をもとに,何かしらの結論を吐き出すけれど,「どうしてその結論に至ったのか」は,AI内部で行われている計算が複雑すぎて,説明されない,のですよね,たしか(だいぶ不正確な言い方ですねきっと,すみません)。

そして「全体像から全体像を予測」して、容赦なく黒板を叩く。バアアン! 稲妻のようなスピードと迫力。

この,スピードと迫力に圧倒され,すごいすごいぞと沸き立っているのが,現在のわたし達だとして。

「ちょっとさ,そこんとこ,わかるように説明してくれない?」

将来,そうしたヒトビトの要求に応じて,AIが「短くは語れない」自分の「電脳紋」について,AIが自ら教科書にしたためる,そんな未来もありうるでしょうか。

そのとき「編集者」という仕事は,「システムエンジニア」とか「プログラマ」に近いニュアンスをもつ職種になっていたりして。


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「……そういえば,AIが書いたっていう小説,まだ読んでないなあ」

少し前のニュースを思い出しながら,なかなか明けない梅雨空を見上げては,ふんわりSFチックな妄想をしています。


(2020.7.17 西野→市原)