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restore ではなく recover

いちはらさん:

おすすめいただいたとおりに、このあと「あとがき」から順番に読み進めようと思います。あとがきから本読むことってあんまりないから、新鮮。

イレギュラーと思いつつ,今回は「あとがき」から入っていただくことをご提案しました。

といいますのも。本書のあとがき,わたしは(当然)最後に読んだわけなのですが。「けっこうなページ数ありますね」と読みすすめながら,ふと気づいたのです。

あとがきの書き手が,本編の概要を余すところなく解説しながら,本編で登場するきわめて重要な用語 --「書物」と「図書館」-- を一切用いていないということに。

え……あのキーワード使わずにこの解説……? これもしや,すごい芸当なのでは……?

瞬間,ちょっと鳥肌がたちました。

と同時に,これはネタバレの心配いらずという点で「はじめに」として読んでも差し支えない,むしろ最初に読むことで本編の理解がさらに深まる可能性も……? と思い,市原さんに(おっかなびっくり)おすすめしてみた次第です。導入としての「あとがき」,うまく作用してくれるといいのですが。

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前回のお手紙の,「脳神経を解剖学的にみたとき,大脳新皮質は部位ごとの違いがあんまりない」というお話,めっちゃくちゃ興味深く,鼻息を荒げながら拝読しました。

神経活動で大事なのはシナプス(電線)じゃなくて、そこを流れている電気情報なんだもの。ひとんちのLANケーブルとうちのLANケーブルが違う規格で出来ているわけがない。

このあたりなんか,興奮のあまり,わたしの脳内で草薙素子さんが首の後ろからケーブルを ビィーー って引っ張りだしてきましたよね……。


それにしても。

「全体がスムースにやりとりをし続けるために,最適化・均質化された,『脳』という臓器」

……こうして改めて並べた文字を眺めるだけでウットリします。ヒトの脳は「分化」の先に「均質化」を選んだ……とか,ひとり妄想するだけで楽しいったらないです(と,ハフハフする一方で。見た目が他と違うらしい「神経核」って,中枢神経のなかでもやっぱり「トクベツ」なのかしら……とぼんやり思ったりもします)。

脳の研究は,視覚・聴覚・情動・言語……と機能別に行われていることが多い印象ですけど,きっとどこかで誰かが研究している「全体としての脳科学」についての語り,聞いてみたいですよねえ。

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「思考伝達のけもの道」をいちから踏み固め直すべく、蠢いている社会は、「事故直後のフィニアス・ゲージ」のように、がらっと性格が変わって見えてしまうかもしれない。

ある大きな自然災害にあった地域の公的機関に務める友人と,当時,安否確認も含めたメールのやりとりをしていたときに,彼女から届いた言葉を思い出しました。

「このエリアはね,完全に元のとおりにっていうのは無理だと思う。でも,そこに住んでいた・住んでいる人たちに心を寄せながら,その街の形を”取り戻していく”ことはできるかもしれない」


そして,ふと思ったのです。

ゲージ氏の人格の「回復」は,氏が天涯孤独の身であってもあり得たことなのでしょうか。あるいは周りの家族・友人がいなければ「元」には戻れなかった可能性もあるでしょうか。

そう考えていたら

「あなたがいたから,ほんとうのわたしになれた」

これまで脳の表面を上滑りしていくだけだった,聞き飽きた感すらあるフレーズに,ちょっと別の見え方があるような気がしてきた今日この頃です。


(2020.3.19 西野→市原)