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あいもりに中庸を見出そうと試みる昼

いちはらさん

おぉ,30℃! 全国のお天気予報なんかで「札幌 最高気温:30℃」とあるのを目にすると「あらま,北の大地で」とちょっとびっくりするわけですが,今がまさにそんな感じです。

でも湿度が低くてさわやかな30℃だったりしますか。というか,北海道にはそうあってほしい……わたしの勝手な願望ですけども。

そういえば先日,福島市に住む母に所用で電話をかけたところ,開口一番 へろっへろの声で「 ぁ っ ぃ…… 」と発するではないですか。聞けば,その日は現地で最高気温34℃(全国 2位。1位は会津の36℃)を記録したそうです。熱中症には気をつけてほしい。

夏の暑さはそこそこえげつなく,冬の冷え込みは東北ならではの厳しさ……ということで「福島に住んでた人は(暑さ寒さに耐性がつくから)どこに行っても大丈夫」と,ちょっと誇らしげに語る地元民がたまにいますが,暑いのも寒いのもからきし苦手なわたしは,うっすら疑いの眼差しでこれを眺めています。

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ちょうど先日,組織学の洋書を手に取る機会がありました。1ページに最低2枚は入っている膨大な量の図,そのほとんどがHE染色によるものでしたが,あのビビッドな赤紫色は,たしかに芝桜のそれによく似ていますね。

市原さんからのお手紙を読んで,前述の本の「見出し」「アイコン」に使われていた色が気になり,再び開いてみると,これがなんと「赤紫」色。

基調色をあの「強いピンク」にすると,図の色味と相まって全体が「どっピンク」になりますから,読み手は目がチカチカしそうなものです。でもこの本では,見出しの類は濃淡を調整することで,図より落ち着いていて本に馴染む,でも情報構造はしっかり伝える……という色使いに成功していました。

なるほど,こういう方法が……とたいへん勉強になりました。でも同時に,「……これ深い緑色を使ったら,読者は”疲れる”かな,いや意外と“癒し”効果が?」などと思いながらカラーチャートを眺めていたら,お昼どきになりました。

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週に1度はお邪魔する,会社の近所にある立ち食い蕎麦屋(「そばですよ」に掲載されているお店なのですよ,いいでしょうー)でお蕎麦をたぐっているうち,頭の中でキーワードがふわふわ浮かび,泳ぎはじめるのを感じます。

「暑い/寒い」「赤紫/深緑」「疲労/快調」「プラス/マイナス」「N極/S極」

……バランス。

そう,何事もバランスが大事。程よきところ,中庸。

しかし「中庸」って,何を基準に測るものだろうか。

少し思考が立ち止まったところで,「基準」という単語に引っかかってきたのは,とある本の制作過程において,著者の方々と意見交換をしていたときの記憶です。

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詳細は忘れてしまいましたが,図中のデータの示し方について議論になりました。全体の方針が固まりかけたとき,ひとりの出席者が発言します。

「私は,科学者なので」

少し硬い声で,発言主は続けます。

「対照(コントロール)群が明示されていない,比べるべき基準が示されない図というのは,認められません」

臨床家でもあるその人の,科学者としての決意表明にも似たその発言に,場の参加者一同,少し居住まいを正したのです。

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そこまで思い出したわたしは,なんとなく背筋を伸ばしてから残りの蕎麦をズズっとすすり,お店のおねえさんに丼を返してお店を出ました。


会社までの帰り道。

そういえば,この蕎麦屋の「いたって普通の美味しさ」は,わたしにとっては「これぞ中庸」といえるものの一つかもしれないなあ。そして,あの先生は「中庸」を考える際,何か基準にしているものがあるだろうか。

今度,件の著者にお会いする機会があれば,ちょっと伺ってみたい。そう思ったところで,会社に到着しました。

社内は冷房がほどよく効いており,なかなかに快適であります。

(2020.6.11 西野→市原)