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書き込み不可(能)

いちはらさん:

「コトコト」って,カレーよりもスープのイメージが強いことないですか。おっきなお鍋で,じっくりコトコト煮込n……うわ,これほぼ商品名ですね。気づかぬうちに刷り込まれていることにびっくりです。

商品名の重要性を再認識すると同時に,担当書籍のタイトルを考えるときの苦悩と緊張感がぴりっと脳を駆け抜けます。

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ご著書『どこからが病気なの?』の装丁の模様,なるほど群像劇……言われてみると,そう見えてくるから不思議です(illnessの“i” かな……まさか,ichiharaの“i”……?と妄想していたのは内緒です)。

クラフト・エヴィング商會といえば。数年前に,よう先輩にご紹介いただいた吉田篤弘さんの『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を思い出しました。

お話の筋書きはぼんやりとしか覚えていないのですが,読了後,春のピクニックにでかけたような,穏やかでほこほこした心持ちになったこと,そして作中で登場する「モンブランのクリームみたい」に美味しいと評されるポテトサラダサンドが印象に残っています。この寒い時期に読み返すのにちょうどいい1冊かもなぁ,と窓の外の冬空を眺めながら思いました。

しかし,ポテトサラダって,こう……罪な味しますよね……(ヒント:カロリー)。

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本の余白に何かを書き込んでしまう人、あるいはその書き込み(マルジナリア)のことを、毎回さまざまなモチーフで、さまざまな角度から繰り返し掘り続ける、仏師の彫刻みたいな連載。

「マルジナリア」という語に,初めて出会いました。

“margin area”をくっつけた造語(marginarea)だろうか。うーん,かっこいい……と思って調べたら,れっきとした単語(marginalia)なのですね! いやはや,お恥ずかしい。

思わずGoogleで他国の言語にちょこちょこ翻訳してみたところ,結構な割合で対応する語がありました。単語があるということは,余白に何かを書き込むという行為って普遍的なものなのでしょうかねえ。そういえば過去に何冊か手にした「読書術」についての本たちはどれも,書き込み/マーキング/付箋の貼付などを強く推奨していましたっけ。

といいつつ,「書き込みながらの読書」,わたしはできた試しがありません。思考を深めるにはとてもいい方法なんだろうなあと想像も理解もできるのですが……

ほ,ほら,書籍用紙は筆記具に対する適正がないから,裏抜けとか心配だし? 書いていても気持ちよくないし? ……と自分に言い訳をしては,わたしの中の「読書術」本にホコリがかぶっていくのを感じています。

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仕事柄,医師の方のデスク周辺までお邪魔して,お話を伺う機会があります(ご本人の本棚を拝見できる貴重な機会でもあります)。その際に「よく使った本」としてパッと出していただいたボロボロの書籍,その余白の「書き込み量」に圧倒されることも多々あります。

そんな本に出会うと,あぁ……ここまで使い倒していただくなんて,書籍冥利につきるなぁ……と感動します。でも,そうして感動しているわたしの横で,

この書き込み,あらかじめ本に書かれているべき内容だったのでは……? つまり,このマルジナリアは,この本の「落ち度の証」でもあるのでは……? 

「書き込める人に嫉妬するわたし」が,意地悪にそうささやくのでした。


*追伸:先日,某SNS上でマエダさんと「はじめまして」ができました。いちはらさんの「浮気」に感謝です。


(2020.1.23 西野→市原)