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Yahoo!小澤さんの起業家勉強会memo
1. ドキュメント概要
Yahoo!JAPAN CEO小澤さんが2016年末に実施していた起業家勉強会に参加した際のmemo整理です。起業に際しての思考法・物事へ取り組み方の観点で示唆に富む点が多かったため、自分向けの整理をすると共にnoteでも公開してみます。本doc公開にあたり小澤さんにも了承を得ました。(小澤さんありがとうございます。)
2. 自己紹介
株式会社shizaiの鈴木と申します。 新卒で電通に入社し、2017年にAzitにジョイン、2020年末にshizaiを創業しています。
3. サマリ
詳述は4以降としますがサマリとしては以下です。
小澤さんが考える起業家の成功要素は3つ。優先度が高い順に以下。
頑張る力
人を巻き込む力
頭の良さ
事業をつくる際に見定める点
市場選定は以下3点にこだわる。
拡大していく市場である。
少数の企業が市場を制圧している状態である。
ITの浸透度が低い市場である
絶対に勝てる理由 ( =「センターピン」)を発見する。見つかるまでは踏まない。
4. 内容
勉強会自体は1回2-3時間程度×4日程、というものでした。 本docでは勉強会に至るまでの選考プロセス、勉強会前半に行われた事業づくりに対する小澤さんの考え方、の2点に触れながら取りまとめています。
起業の要素分解
本勉強会は小澤さんがFacebookで勉強会参加者を募るところからスタートしたものでした。
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こののち参加希望者の選考プロセスについて、メールが届きます。 以下、小澤さんからのメールを原文のまま掲載します。
起業を含め自らのサービス、企画を成功させるためにいくつか必要な要素があります。
1 まず、人を巻き込む力です。これは組織を作る際にも、もちろん自分のサービスを使っていただくため購入いただくためにお客様に対して発揮しなければなりません。コミュニケーション力の高さ、プレゼンテーション力の高さ、茶目っ気、そして現実的には見た目(見た目がよいという意味ではないです。孫さんは禿げててよかったとよく言っています)も重要になります。
2 また、頭の良さはもちろん必要で、最低限人の話を聞いて理解し正しく反応することができる力はないといけませんし、できればとある事象に対して本質を見抜き、その本質をベースに再構築する力があったら最高です。
3 そして、最後に頑張る力です。これは本当に重要で、極端な話ここだけあればある程度の成功ができます。ただし、その場合例えば世の中にニーズが顕在化している商品の営業といったようにがんばりが成功に確実に結びついてるケースに限られますが。営業会社なんぞはこれに当てはまります。
最も成功の可能性が高まるのは、1〜3全てを持っていることです。
ただ重要性を無理やり順位をつけるとしたら3が最も重要で次が1でその次が2だと思っています。
さてここでみなさんに質問です。1から3について、自分はこのような力がある、というのをできるだけ説得力を伴う形で教えてください。もし説得力を伴うことが難しいなら、おもしろく教えてください。
とくに私の場合、「おもしろさ」は説得力に勝る場合がありますので。
1から3についての話がちょっと難しいな、という場合は、 ・自分が1万人の中で上位1%に入ることができる能力について ・なんか面白い話 を教えてください。 期限は特に設けませんが、この程度の内容ですから1週間はかからないと思います
実際に起業をしてみて実感もありますが、自分の頭の中で考えることの殆どはユーザーヒアリングやユーザーの行動観察、プロダクトを触っていただく過程で棄却されることの方が多く、結局3の「頑張る力」に依存しているように思います。2に頭の良さという観点も含まれているのでただ頑張るのではなく頭を使いながら頑張ることが重要だと思いますが、頭≦行動、を意識しながら日々の事業作りに向き合うべきと改めて思った次第です。尚、3の頑張る力があるかどうかを投資家目線でどう見極めるか?という問いに対して後日勉強会で以下のような説明がありました。
なんでもいいんだけど、例えば弁当屋の事業をやるとしよう。
A君とB君、二人の起業家志望の人がいたとして、どちらかにこの事業をやってもらいたいと思ったとき、投資家としての自分は以下のようなお題をなげてみる。
「これから1週間で、このお弁当100個売ってきてみて」
当然これはbizdev系の起業家である場合なんだけど、売る人はなんとしてでも売ってくる。なかなか売れない、行動が伴わない、そういった人もいる。具体的なお題をなげてみるとわかりやすいけどこれは適正の問題で、こと起業においては行動量の観点で頑張れるかどうかは非常に重要。
事業をつくる上で重要な検討点
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勉強会は、
小澤さんが事業をつくる際に重要と捉えている検討点について質疑を交え議論。
参加者が海外ToptierVCの投資先企業を分析し、日本ローカライズを仮説立て、小澤さんに壁打ちをしながら全体として事業の可能性を模索する議論。
の構成で行われました。(ユーザーヒアリング、MVP設計、といった部分までは行わず) 2点目の日本ローカライズ案まで記載すると長くなるので前者についてのみ要点を整理します。
事業づくりのhow/what
米国のトップティアVCが投資している投資先を日々閲覧。
日本版にローカライズを検討するだけでも有益。
市場選定は不可逆。一番重要。以下3点をおさえる。
拡大していく市場である。
少数の企業が市場を制圧している状態である。
ITの浸透度が低い市場である
この3点が揃う市場はITによって勝てる見込みが(それ以外と比較して)高い。
法制度の問題やレガシー産業を築いてきた声の大きな企業・人物の手によってITを駆使しても打開できない局面もあるので注意が必要
起業するのであればこれを満たす領域で「NO1になれる」可能性を貪欲に追うべき。
ユーザーの根源欲求の見極めが重要。いずれの事業ドメインであっても「人が何を求めるか」をシャープにし、「それをインターネットで解決する」という頭で考えて見るべき。
例)小売の根源欲求は安く買いたいor早く買いたい、のどちらか(あるいは両方)。amazonの優位性はここに当たる。
センターピンの重要性
センターピンを立てる。センターピンがたつまで踏み込まない。
センターピンとは、「絶対にその事業で他に負けない理由」を指す
何がこの市場、この事業のセンターピンなのかを思考し、仮説検証をし続けることが重要。
センターピンが立たないうちは踏み込まない。
センターピンは時に2本必要な場合もある
(マーケットプレイス型など)
テストの実行
テストを続けることが重要。
センターピンの正しさをPDCAをまわしながら分析していく。
その際みる指標は4つ。
商品力/プロダクト力
マーケティング
コンバージョン
リピート
4つ全部平均点は取る。中でも1つは突出して伸ばすべく絶えず試行錯誤
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改めて記載する話でもありませんが、市場選定は不可逆性が高く(全く別の市場にポジションを変えるということも実際はあるものの)、さまざまな角度から検討が必要になります。右脳的な市場選定や原体験ドリブンな起業の場合当てはまらないかもしれませんが、上述の検討点をおさえながら探っていくことは実践的かつ効果的だと思います。 またセンターピンの設定は設定難易度が個別事業領域によって異なりますが、重要なのは「センターピンが見つかるまで踏まない」の部分だと考えます。センターピンとPMFの概念は完全一致するものではありませんが、いずれにおいてもユーザーに利用され(続け)る理由を備えるまで踏み込むべきではないという点で一致しており、踏み込み所を見誤らないように自戒したいところです。 なお、本docには記載しきれませんでしたが参加者の皆さんの「海外事例→日本ローカライズ」のプレゼンも非常に興味深く、サービスマーケットプレイスの「Thumbtack」や介護スタートアップの「honor」(2021/10にシリーズEラウンド調達を完了したユニコーン)等サービスの日本ローカライズ仮説は大変示唆に富むものでした。
おわりに
2016年末のことなので当時と今では周辺環境の変化がありますが、どういったテーマで起業するか、あるいはどういったテーマに投資するか、といった議論は根本的なところで以前も今もそう変わらないように思います。自分の周囲でもどの市場・テーマで起業するか悩んでいる知人も多いです。当時小澤さんは「起業家を少しでも増やすために」、という目的で勉強会を実施されていたと伺っていますので、どなたかにとって本doc記載の内容が一助になれば幸いです。
おわりのおわりに
冒頭で触れましたが、shizaiという会社を運営しております。shizaiは本doc記載のプロセスを念頭に入れた立ち上げ方をしておりますが、まだまだセンターピンの磨き込みが必要なアーリーステージです。以下に採用情報等を掲載しますのでぜひご覧いただけますと幸いです。