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東京都練馬区

東京都練馬区に生まれ育つということ。

───東京都練馬区のお生まれだそうで。

 はい、そうです。

───生まれ育った地について、どう思いますか。

つくづく中途半端な土地だと思います。でも愛おしさのあるまちです。
 田舎とも都心ともつかない。けど一応東京23区内ですよ、みたいなところなんです。だから田舎に行くとああ空気が大きなかたまりを成している、田舎だ!と思うし、都心に行くとああなんてせせこましいの、都会なんて!と思います。それぞれとは別ですね。
 大学のある八王子方面や初詣で千葉の成田に降り立ったときは、ああ郊外だなあって思ったんです。練馬区とは違った。練馬区は都市郊外でもありません。

───田舎、都心、そして都市郊外。どれともつかないんですか。

 都市郊外のまちに赴くときはまず出発点から徐々に住宅が減って、つぎに自然の豊かな地域や工場地帯を経由して、また急にわっと街らしくなると大抵そこが目的地な気がするんです。車窓からのぞく景色に起承転結がある。ただ、練馬区から都市部へ行く景色にそれはなくて、閑静な住宅街の景色がいつの間にかビル街になっているんですね。そして逆方面、たとえば練馬区から秩父の田舎に行こうとすると、これまたふと気が付くと木々に囲まれている。

───車窓のうつりかわりがグラデーションなんですね。田舎から都心へのなだらかなグラデーションのなかに練馬区があるような。

 たしかにそうですね。そのグラデーションが常であると、所在不明な広い土地が各駅の配置によって義務的にずどんずどんと区切られているように感じます。実際、直通電車ですぐに池袋や新宿まで出られるし、そこから全国津々浦々どこへだって行ける一方で、ホームの反対の電車にのればあっという間に高尾山や秩父です。それが練馬区なんです、グラデーションの中間に位置するまち。色の定まらないまち?変化するまち?

───田舎らしさと都心らしさを兼ねていますね。

 いつの時代も夢と片道切符だけポケットに詰め込んで上京する若者の歌があるじゃないですか。「東京」のイメージたる都心部には言わずもがななんでもあります。それから地方出身の友人が故郷について「田舎すぎて何も無いよ!」と自虐的に言うことがありますが、田舎には「田舎」があるんですよ。“ここには「何もない」が、ある。” みたいな、地方移住を煽るだけ煽って、その土地独自の魅力を探すことを放棄したようなコピーをたまに目にしますよね。田舎暮らし、スローライフ、豊かな自然、実際そんな甘いものではないという声はよく耳にしますけど、そういった「田舎らしさ」を求めての移住がたびたびブームになるように、田舎には「田舎」があります。ただ、人が求める「東京」と「田舎」の両方を一度に満たすことはできません。どうしたってその2つは対極の位置にありますから。グラデーションのなかで実質的に練馬区が両方の要素を兼ねていたとしても、表層的な憧れをもって来られてしまうと、それを満たすことは難しい気がします。

───となると、練馬区には何があるんでしょうか。

漫画「ギャルと恐竜」の作者トミムラコタ氏は練馬区在住で、私の出身高校・出身学科のOGでもある!
(画像はトミムラコタ氏Twitterより引用:https://twitter.com/cota0572/status/1285047663402967042?s=46&t=6Ssxhepn9jh-DUsA163jxQ)

 練馬区には多くの暮らしがあると思います。良いとか悪いとかじゃなく、多種多様な暮らしです。過疎化する田舎や区画化する都市の生活のニュースをみると、練馬区はわりかしみんなの暮らしが繋がっているんだと感じます。人々の生活が根付いていて、街に呼吸がある。ただ土地があって家があって人が住んでいるのではなくて、人間が人間らしい営みをもって循環しているのを感じられます。だから昔から漫画家やアニメーターが多く住んで、それは単純に家賃が安かったり仕事場があったりするのも理由でしょうけど、成功してお金を手にしても住み続ける人が多いのもわかる気がします。
 田舎らしさや都会らしさを求めて来ても何もないけれど、何も求めずに来ると全てが揃っている。練馬区はそんな街です。
 これを見てください。

https://ijyu-sien.com/tokyo/nerima/

───少子高齢化の進む現代日本で、こんなに年齢層のバランスがいいなんて。

 すごいことですよね。実際に知人にもいるのですが、就職を機に上京しても職場の近くだと家賃が高すぎるので、妥協して練馬区に落ち着くケースも多いようです。その後結婚して、結局住みやすいのでそのまま練馬区で所帯を構えたり。働く世代の人口が多いのにはそういった理由もあるかもしれません。あとは中学生まで基本的に医療費が無料です。子育て世代にも人気のまちです。それでいて、畑や公園も多いので都心ほど窮屈ではないのも良いです。これ以上は区の広報みたいな話になってしまうのでやめますが、冒頭で中途半端な土地と揶揄してこれ以上人口が増えるのを阻止したくなるほど、練馬区はいいとこですよ。

語り:わたし
インタビュー:わたし

(おわり)

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