関西演劇祭2023全感想/ヨルノサンポ団『なんてったってヒーロー!』
ヨルノサンポ団『なんてったってヒーロー!』ゲネプロ。
様々な物語の集合が「大きな一つ」になる。まさに物語そのものを描く芝居に高揚しました。
写真は、関係ないけど私のモニターの待機画面。
これも細部を見れば3色のバラバラの光点のあつまりなんですよね。
ヨルノサンポ団『なんてったってヒーロー!』初日。
ヒーローは世界の危機と戦い、誰かを救う人と思ってきた私は、
この芝居を見て、
自分自身の危機と闘い乗り越える人も立派なヒーローなんだと気づきました。
自分の現実と戦うことが一番怖い。だから私達は、虚構の物語に遊びにでかけたりするのかもしれません。
この物語の主人公は、
ヒーローのコスプレをする人で、つまり実際には存在しない悪と戦っているのです。
そんな彼は、周囲の普通の人達がそれぞれ「自分の現実と闘っている姿」に影響され、
やがて自分自身の現実に立ち向かうヒーローの決意を手に入れてゆく。
ヒーローとなる彼の姿がまた、周りの人たちの闘いにも力を与えてゆく。
そんな「ヒーローの姿の乱反射」が眩しい。
彼らの物語は、いろんな色の、いろんな形の、それぞれの人生のヒーローたちの物語となって続いてゆくのでした。
様々な形、さまざまな立場の人たちの、バラバラな物語が、全体としてみると一つの作品になっていることを、
原色のモザイクに彩られた美術がしっかりと表しています。
力を貰える、そんな物語でした。
ヨルノサンポ団『なんてったってヒーロー!』2ステージ目。
シェルライダーとウサデビルの闘いが激しければ激しいほど、
2人が逃避している現実の厳しさ辛さが見えてくるのだ、
ということに気づきました。
「現実への帰還」というゴールに向かって競うライダーとデビル。
この2人だけでなく、そのまわりの人たちも、
「映画を作りたい自分を認める」というゴールを競う先輩と後輩、
「失った家族の悲しみを乗り越える」というゴールを競う父と息子、
そんな、それぞれのレースを競うカメとウサギなのです。
私もきっと、何かのレースのカメかもしれない。
私の前をはしるウサギは敵ではなく、
同じレースを戦う仲間なのかもしれない。
そんなことを思いました。
ヨルノサンポ団『なんてったってヒーロー!』3ステージ目。
シェルライダーとウサデビルの闘いに、
ますます熱を感じる3回目。
現実の苦しさと対決することを避け、
それぞれのゴッコ遊びに没入してしまう登場人物たち。
ヒーローごっこ、映画ごっこ、良い親子ごっこ。
いつしかそのゴッコ遊びの中で救われたり成長したりして、
彼らは本当のヒーローを目指し始める。
ゴッコ遊びや、
私達がやっている演劇や、
いろんなエンターテイメントや虚構には、
そんな、やがて本当に向かう助走のような役割も
あるのかもしれません。
複雑な群像劇なようでいて、
そんなシンプルな物語であることが、
3ステージ目、さらに熱のこもった演技とともに伝わってきました。
観客は通常1回しか見られないので、
上演ごとの熱の上昇について言うべきではないかもしれませんけれど、
生き物は成長してゆく、それは普遍的事実でもあります。
それはまさに、ゴッコあそびがいつしか本物へとなってゆく、
その道程のようでもありました。