ナイフ2-300

関西演劇祭2019。

舞台の上で、何気ない言葉を主人公がつぶやく。それをきっかけにして、微かなピアノの音楽が流れ始め、暗闇に光が射し始める。共演者たちが上を向く。俳優、スタッフ、全てのセクションが一斉に動き、物語が大きな曲がり角を曲がってゆく。

「きっかけ」という言葉が、演劇の世界にあります。

ある特定のセリフや動きを「きっかけ」として、それに合わせて音楽がスタートしたり、照明が変わったり、共演者が別のセリフを言ったり移動したりする。そういうポイントを「きっかけ」と呼ぶのです。きっかけは、少ない芝居だと数個。多い芝居だと2千個も存在する場合もあります。稽古場や劇場での準備では、とても多くの時間が「きっかけ合わせ」に使われます。この「きっかけ」の共有によって、バラバラに進んでいた力が合わさり、大きな物語の力を生み出すことができるのです。

たぶん演劇についてのことだけではなくて、僕らの生活や、歴史や、あるいは世界全体には、そうした「きっかけ」のようなことが散りばめられているのだと思います。

回りくどい話をしました。

9月21日から始まる関西演劇祭は、たくさんの才能たちが一斉に動き出す「きっかけ」なんだろうなと、感じてるんです。演じる才能も、作る才能も、見る才能も、劇場たちも動き出して、時代という物語が動いてゆけばいいなと思うのです。

僕も、きっかけを形作るささやかなひとりとして、応援席に参ります。とても楽しみにしています。

写真は、僕が関西で劇団活動をしていたころの、舞台美術の写真。鉄彫刻家・橘宣行さんが作ってくれた、総鉄製の作品なのです。

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