隣人、ネコ、鳥と何を契約したのだろう。

町が白い雪で覆われた時、そこに浮かび上がった町のカケラ、移動のトレースから、町の利用者間の契約が見えてくる。

以前、複雑系の本をあれこれと読んだ時期があった。ぼくは文系の人間なので厄介な数式の並んだ本は読めない。でも、どうしても複雑系の考え方が説明する世界の捉え方を理解したくて、文系脳で読める部分だけ切り取って読んだりした。しかし、複雑系の世界は読めば読むほど深淵に沈んでいくようであり、新しい世界観の光だけを放って、その実態は見えないままだった。

そんな時、ぼくには読み解くことのできない複雑な世界の営みを、ぼくの目で見える形に翻訳してくれたのが、マルチ・エージェント・シミュレーターだった。PCのモニター上に現れる、個々にルールを持ったたくさんのエージェントの作り出すマクロな模様を見て、世界の正体が見えたかの高揚感を覚えた。その時期には、真っ白い小学校のグラウンドに、100人ほどの個々の自由意志を持った子どもたちが足跡を付けていく様子を見ては、なるほどそういうことか、などと思いながら眺めたりした。

町となると、さらに多様な構成員からなる。
行き来する人々の目的はほとんど重なることはなく、それぞれがまるで異世界の住民であるかのように行動している。まして、町の住民として動植物を加えたらどうだろう。町は混沌のカオスの様相を呈するだろう。

そのカオスを見える化してくれるのが白い雪だ。
白い雪の上に描かれたトレースは、この町がカオスではないことを教えてくれる。町の住民同士はもちろん、あなたとネコだって町という空間を共通のルールの下で利用していたことに気づく。鳥もまた然りだ。この契約は、どうやら地球上に効力が広がっているようだ。雪上に描かれたトレースが説明する秩序ある時空間利用の考え方は、家々を壁で仕切って、その間に道を敷いた僕たちヒトだけに及ぶ発想ではないようなのだ。

遠い遠い昔になされた契約が町の景色を作り出していると知ると、町のカケラが違って見える。

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