見出し画像

ソープランド開業資金を融資した信金の支店長を売春防止法違反とした裁判例

「場所の提供」と「資金等の提供」の禁止

売春防止法11条2項は「売春を行う場所を提供すること」を業とすることを禁止しています。

(場所の提供)
売春を行う場所を提供することを業とした者は、7年以下の懲役及び30万円以下の罰金に処する。

出典:売春防止法11条2項

売春防止法13条1項は、情を知って、売春防止法11条2項の業に要する資金を提供することを禁止しています。

(資金等の提供)
情を知つて、第11条第2項の業に要する資金、土地又は建物を提供した者は、5年以下の懲役及び20万円以下の罰金に処する。

出典:売春防止法13条1項

ソープランド開業資金1000万円の貸付

被告人は、信用金庫の神戸駅前支店の支店長でした。

被告人は、昭和62年3月25日、神戸市福原地区の個室付浴場業者に対し、ソープランドの開業資金として1000万円を貸し付けました。

「情を知って」にあたり売春防止法違反で有罪

法律上、ソープランドでは売春を行わないことになっています。
しかし、本件ソープランドでは売春が行われていました。

そのため、被告人が、1000万円の貸付について、売春を行う場所を提供する業に要する資金に充てることを知っていたか、すなわち「情を知って」いたか否かが問題になりました。

売春防止法13条1項の「情を知って」とは、行為者に、資金等の提供を受ける者が売春を行う場所を提供することを業とすることおよび資金等をその業のために使用することについての認識があったことをいい、その認識はいずれも確定的な認識を有することまでは必要ではなく、未必的な認識で足ります(最高裁昭和61年10月1日決定・刑集40巻6号478頁)。

本件では、個室付浴場業者との会話内容等の具体的事実を踏まえ、被告人は、未必的にせよ売春防止法13条1項にいう「情を知って」いたと言わざるを得ないとして、売春防止法違反で有罪となっています(神戸地判平成6年5月12日・判タ858号277頁)。

被告人は控訴をしましたが、高裁は控訴を棄却しました(大阪高判平成7年7月7日・判時1563号147頁)。

エイズ騒動との関係

昭和62年1月17日に、神戸市在住の女性がエイズ患者と認定されました。これは、女性として、かつ、男女間の性的交渉により感染したとみられる日本で初めてのケースでした。

その後、同女性が不特定多数の男性と売春行為を行っていた旨の新聞記事が報じられ、福原地区のソープランドの売上は大きく減少しました。いわゆるエイズ騒動です。

本件貸付は昭和62年3月25日に行われており、エイズ騒動の渦中で実施された融資でした。エイズ騒動と捜査との間に何らかの関係があったのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?