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[TAT]Introduction
The Anomaly Trading(以下、TATと表記)は、為替市場におけるアノマリーを用いた独自のトレーディングメソッドです。
TAT誕生秘話
元々、筆者は四六時中チャートに張りつき、裁量判断で数秒から数分にかけての取引を何度も行う、いわゆるスキャルパーでした。地合いがよい時なんかはそれなりに利益をあげたこともありましたが、メンタルを崩して暴走してしまい、見るも無残な収支を叩き出して自己嫌悪、なんてこともしばしばでした。
そんな頻繁に感情のジェットコースターに陥る不安定なスタイルに疲れ果て、しばらくは王道中の王道であるバイアンドホールド戦略を採用した堅実なインデックス投資に切り替え、安穏とした日々を送っていました。
ところが、ある時『最も賢い億万長者:数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか』を読んだことをきっかけに、シモンズ率いるメダリオン・ファンドの驚異的なパフォーマンスを知り、クオンツトレーディングの可能性に魅せられるようになったのです。
とはいえ、一人の個人投資家ができる数的処理なんてたかがしれています。ましてや筆者は高卒で数学的素養はまるでありません。それでもどうにかシステマティックにアプローチできないかを模索していたところ、たどりついたのがアノマリーでした。
もっともよく知られたアノマリーといえば、ゴトー日仲値アノマリーでしょうか。これは「ゴトー日すなわち5の倍数の日は、仲値にかけて円安ドル高で推移しやすい」というものです。ゴトー日にドル不足になりやすい要因としては、輸入企業が海外との取引で決済日となることが多く、円を売って米ドルを買う動きがあるためとされています。
こうした為替市場でまことしやかにささやかれる数々のアノマリーを、バックテストシミュレーターであるForex Tester、さらには昨今発展が目覚ましい生成AIを駆使して、本当に優位性があるといえるのかどうかを徹底的に検証しました。
リーマン・ショック、アベノミクス、チャイナ・ショック、コロナ・ショックなど、激動のイベントを含んだ2004年から2022年を対象に検証を行い、最終的に得た結論は「たしかに特定のアノマリーには統計的な優位性がある」というものでした。
TATの特徴
TATの利点はいくつかあります。まずなんといってもチャートに張りつかないで済むことが挙げられます。
というのも、TATではテクニカル分析をまったくしません。あくまでアノマリーという統計的な優位性にベットするのであって、この先上がるか下がるかのテクニカル分析的な予測にベットするわけではないからです。
同様にファンダメンタルズ分析についても、歴史的なイベントがあれば多少の裁量判断は入ってくるものの、それもトレードするかしないかの二択でしかありませんし、普段はほとんど気にすることはありません。筆者がTATにかけている時間は、正味1日10分にも満たないことでしょう。現代風にいうならば、この"圧倒的なタイパ"がTATのウリの1つといえます。
それから再現性の高さも挙げられます。TATにおいては、前述した検証によって導き出された10のセットアップを淡々とこなすのみで、裁量が入る余地はほとんどありません。せいぜいロットサイズぐらいのものでしょうか。どれぐらいのリスクを許容できるかは人それぞれですから。セットアップそのものに裁量が入る余地は皆無です。
さらにそのセットアップの内容についても、聞けば中学生でも理解できるであろうものです。難しいのは優位性のあるセットアップを見出すこと、そしてそのセットアップを忠実にこなすことです。これはバフェットが説いた「1.損をしないこと 2.絶対にルール1を忘れないこと」の黄金ルールに通底するものがあります。
そして、セットアップの内容がそれだけシンプルでわかりやすいということは、そのまま優位性検証のやりやすさにも直結します。ある程度は検証ソフトの操作に慣れる必要はあるものの、慣れてしまえば誰でも理解できるものですし、生成AIを駆使すれば小難しいプログラミング言語を一から学ぶ必要もありません。
2024年から実運用を開始
2023年の年末に一通りの検証を終えたので、2024年からは資金400万ほどで実運用を開始しています。なお、2024年の運用結果は税引き前の複利ベースで以下の通りです。
1月:-191,633円(-72p / -4.48%)
2月:-134,383円(-31.1p / -3.29%)
3月:+93,268円(+54.5p / +2.36%)
4月:-644,957円(-326.3p / -15.93%)
5月:+119,297円(+80.5p / +3.51%)
6月:-31,078円(-16.6p / -0.88%)
7月:+672,721円(+444.2p / +19.27%)
8月:-820,506円(-432.6p / -19.71%)
9月:+701,341円(+419.9p / +20.98%)
10月:+206,742円(+87.1p / +5.11%)
11月:+131,510円(+51.6p / +3.09%)
12月:+690,974円(+230.1p / +15.77%)
収支合計:+793,926円(489.3p / +18.53%)
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また、2024年の各種データは以下の通りです。
トレード回数:511回
勝ちトレード数:242
負けトレード数:269
勝率:47.4%
最大連勝数:12
最大連敗数:13
想定期待値:+2155.0p
期待値乖離:-1665.7p
総利益:¥11,811,345(+5972.5p)
総損失:¥-11,018,357(-5483.2p)
プロフィットファクター:1.07
平均利益:¥51,081(+33p)
平均損失:¥-40,690(-12p)
リスクリワードレシオ:1.26
最大利益:¥519,138(+344p)
最大損失:¥-117,894(-49p)
2024年のTATパフォーマンスは、目に見える数字としては、いかにも地味でつまらないものに映るかもしれません。派手な数字が虚実入り乱れて飛び交うネット上ではなおさらそうでしょう。S&P500の2024年パフォーマンスが約23.3%とのことですから、市場平均から見てもアンダーパフォームです。
けれども、二度の深いドローダウンを乗り越えてのこの収支は、筆者としては目に見える数字の何倍、いや何十倍もの価値があると思っています。しかも定められたセットアップを淡々とこなすだけで、ほとんど時間は費やしていないわけですから、時間資本あたりの変換効率を鑑みると、そう悪くない数字だとも思っています。
フォワードテストによる優位性の確信、ポジション保有中の適切な振る舞い、ポジションサイズとリスク管理、TATのデビュー年である2024年は本当に学ぶべきことが多かった一年でした。トレーダーとして一皮剥けれたような気がします。
TAT2.0始動
これまでTATを実運用していく中で、何度かマイナーアップデートを繰り返してきました。
それはたとえば各通貨ペアにおけるポジションサイズ調整の明確な算出式を組み込んだりだとか、そういったおもにポジションサイズに関してのアップデートが中心で、2024年の年初がTAT1.0ならば年末はせいぜいTAT1.2程度のバージョアップ感でした。
そんなこんなで、これまでちょこちょことマイナーアップデートを繰り返してきたわけですが、2024年のフィードバックを受けて、ちょうど年が切り替わるタイミングでキリもいいことですし、2025年からは思い切ってメジャーアップデートをかけることを決心しました。
もう一度ロジックを根本から見直し、あらゆる角度から検証を行い、TAT2.0を完成させました。なお、2004年~2022年を対象期間としたTAT1.0とTAT2.0のパフォーマンス比較は以下のとおりです。
TAT1.0
セットアップパターン数:11
勝率:51.7%(10185戦5596勝4589敗14連勝15連敗)
総利益:123969.5pips
総損失:-82400.4pips
プロフィットファクター:1.5
平均利益:22pips
平均損失:-18pips
リスクリワードレシオ:1.23
最大利益:787.1pips
最大損失:-40pips
最大ドローダウン:-920.9pips
1トレードあたりの期待値:4.1pips
総利益:41569.1pips(年平均:2187.8pips)
TAT2.0
セットアップパターン数:10
勝率:55.5%(7806戦4329勝3477敗14連勝12連敗)
総利益:102956.7pips
総損失:-66399.9pips
プロフィットファクター:1.55
平均利益:23.8pips
平均損失:-19.1pips
リスクリワードレシオ:1.25
最大利益:787.1pips
最大損失:-47.5pips
最大ドローダウン:-561.4pips
1トレードあたりの期待値:4.68pips
総利益:36556.8pips(年平均:1924.0pips)
注目してもらいたいのは、フィルタリング強化による勝率と最大ドローダウンの大幅な改善です。結果として当該期間における総獲得pipsは落ちるものの、その分、安定性を増すことでメンタル負荷を軽減させた形です。
あまりにも2024年のドローダウンがきつかったのと、下振れした際の勝率47.3%が体感だとずっと負けているような感覚だったので、そのあたりを念頭においてアップデートをかけた次第です。このTAT2.0を武器に2025年以降は戦っています。
リアルな浮き沈みをプロセスエコノミーとして楽しんでもらえればとの意図から、当月末もしくは翌月初にその月の運用結果を公開していますので、もしご興味があればTATの行く末をともに見届けていただければ幸いです。