ライブ配信を「録画禁止」にする根拠と実質的な有効性について考える

問題の所在

コロナ禍の影響で、リアルで舞台や音楽ライブを開催する場合でも、同時にオンライン配信する手法がかなり浸透してきているようである。
オンライン配信チケットを購入しようとすると「録画は固くお断りします」といった注意書きを目にする機会が多い。このような「録画禁止」には、どのような根拠があるのか。また根拠があるとしても録画を禁止する目的に照らして実質的な有効性を担保できるのかについて疑問がある。
以下では、主催者自身が音楽演奏を撮影し、ライブ配信する場合を例として考えてみることにする。

(1)著作権を根拠とすることができるのか?

音楽ライブを撮影した配信映像自体が、著作権法上の著作物に該当することが多いと思われる。クラシック音楽などの著作権保護がない音楽を演奏した場合でも、撮影した映像自体は画角などを含めて創意工夫の余地があるため、通常は著作権保護の対象になると考えてよいだろう。
この場合に、主催者が配信映像の著作権を根拠に視聴者の録画を禁止することができるか。結論から言えば、難しいと思われる。
著作権法は、個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内の使用であれば、権利者の許諾を得ずに著作物を複製することを認めている(第30条第1項)。これは家庭内で楽しむ範囲であれば、権利者の利益に影響を及ぼす場合が少ないという政策的な判断によって設けられた規定である。

著作権法第30条第1項
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(以下略)

配信映像を録画することは、著作権法上の複製に該当するところ、個人的な使用にとどまる限り、著作権者の権利は制限されるため、著作権のみを根拠として録画行為を禁止することは難しい。

なお、著作権法改正により刑事罰が科されることで巷で話題になった、いわゆる「違法ダウンロード」は、違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードする行為が対象であるため、今回の事例のように権利者自身が配信したコンテンツ(=適法なコンテンツ)のダウンロードは対象外となる。

(2)契約として拘束力があるのか?

それでは、観客と主催者との間で、チケット購入時に、録画を禁止するという条項を契約約款に定めて観客との間で合意することはどうか。
契約内容は原則自由に決めることができるというのが法律上の原則である(民法第521条第2項)。

民法第521条第2項
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

ところが条文に「法令の制限内」とあるように、法律に反するような内容の契約をすることは認められない(例えば。人を殺す契約とか。)。
今回の「録画禁止」は、著作権法の権利制限と相反する内容であるため、契約内容として認められるかについて争いがあり、決定的な結論は出ていない(筆者は否定的な立場(②)である)。

①主催者側の立場(契約が著作権法の権利制限に優先するという考え方)
著作権法の権利制限規定(私的使用目的複製)に関わらず、当事者が契約で約束したのだから録画禁止に従う義務を観客が負うべきである。

②観客側の立場(著作権法の規定が優先するという考え方)
著作権法第30条の私的使用目的複製に関する権利制限規定は、保護と利用のバランスを考慮して、著作権が制限される範囲の一部を規定したものであるから、当事者間の契約でオーバーライドすることは立法趣旨に反することになるため許されず、そのような契約条項は無効となる。

(3)禁止する目的に照らして有効性を担保できるのか

仮に録画を禁止するという契約が有効だとしても、その契約条項に基づいて法的な責任を問えるかは別問題である。
録画禁止の契約に背いて観客が配信を録画した場合、観客は理論上、債務不履行責任を負う(契約違反というやつだ)。しかし、録画途中に探知した場合は主催者から録画をやめるよう求めることができるとしても、録画後に主催者ができることは限られると思われる。主催者に損害が生じていれば損害賠償責任を追及することができるが、録画行為のみで主催者に損害が発生することは想定し難いからである。

主催者が録画を禁止する理由は、ライブ配信後に有償のアーカイブ配信やDVD、CD等のパッケージ化を予定しており、いわゆる違法アップロードによる映像の拡散を未然に防止したいという意図が大きいと推測する。
しかし、違法アップロードは録画行為そのものではない。録画後にインターネット上にアップロードすることで完結する行為であるから、録画を禁止するのは尚早にすぎるだろう。録画行為だけを見つけるのはかなり難しく、実際には違法アップロード等の拡散行為に伴って録画行為も発覚する場合が多いと思われる。違法アップロードは著作権侵害となるため、録画禁止の契約を持ち出す必要性はない。著作権法に基づいて差止めや損害賠償の請求など、必要な措置を講じることができるからである。

地下アイドル等の配信で、出演者のプライバシーを根拠とするものも見受けられるが、筆者の私見では、身内向けのホームパーティーの配信であればともかく、誰でも視聴できるライブ配信を行っている時点で、根拠に乏しく全く理由にならないと思われる(百歩譲って観客のプライバシーを理由にするならまだわかる。公開しておいて演者のプライバシーってなんだ?アイドルをやめろ)。もっとも、プライバシーについて理解して書いているとも思えないし、草葉の陰でルイス・ブランダイスも泣いていることであろう。

(4)まとめ

*著作権を根拠に録画を禁止することは、筋が悪い(録画したものをアップロードした場合は著作権侵害となる)

*権利制限規定を上書きして録画を禁止する契約は無効とされる可能性がある

*仮に録画禁止の契約が有効でも、行われた行為が録画だけであれば、主催者がとることのできる手段は限られそう(出入り禁止等の制裁は可能かもしれないが)

*録画だけで被害は発生しないし、みつけにくい

*演者のプライバシーを理由に録画禁止とか書く運営は自分の仕事をよく振り返ったほうがいい。ルイス・ブランダイスが草葉の陰で泣く。