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追想〈#12-14〉

#12

 中学校に入学したばかりの僕は、生徒名簿に飛鳥ちゃんの名前があることに気付く。小学校は別だったが、中学校では一緒になることができた。──なんたる幸運。別のクラスではあったものの、その幸運を噛み締めたいと思った。

 最初の学期で僕は総務委員を務めた。学級委員長みたいなものだ。誰も挙手する生徒がいなくて、それならば自分が、という思いで立候補したことを覚えている。はっきり言って、僕には向いてなかった。ただのカッコつけだった。

 部活は軟式テニス部に所属。いつも不機嫌そうに過ごしている苦手な先輩がいて、怯えながら活動していた。初めて手にしたラケットは、叔父から譲り受けた紫色のもので、ソイツが自分のラケットを買ってもらうまでの僕の相棒だった。

#13

 秋頃、僕の体に異変が生じる。左側の精巣がジンジンと痛み出して、右側のものより3倍くらいの大きさで腫れ上がっていた。センシティブなパーツなだけに、誰にも相談できずに3日間を耐え抜くことになったが、我慢の限界を迎えた。

 母に相談してすぐに夜間急病センターに連れて行ってもらい、医師の診察を受けた。診断は虫刺されによる腫れ。どうやって下着の中に虫が侵入するのかと疑問は浮かんだが、医師の見立ては絶対的なものだと当時は思っていた。

 しかし、処方された薬は全く効かず、激痛は続く。まもなくして赤十字病院の救急外来を受診すると、その場で手術が決まった。「精巣捻転」という状態だった。人生で初めての侵襲であり、心構えなんてできていない緊急手術。怖かった。

 入院生活は羞恥を覚えて赤面することが多かった。看護師のお姉さんに術後の患部を見せないといけないが、13歳の男子には負荷が大きすぎる。機転を効かせた看護師のお姉さんが別の病棟から男性看護師を呼んでくれて事なきを得た。

 この頃から僕は看護師になりたいと思うようになった。看護師は女性が圧倒的に多いが、自分みたいに男性看護師の存在に救われる人がいるはずだと信じていたからだ。看護師という職業が憧れになり、夢になった入院生活だった。

入院中にクラスメイトから届いた手紙
彼女は僕の「しいたけ嫌い」を知っていた

#14

 変わり映えのない生活が続いていく。勉強も部活も冴えなかったが、特にイヤなことは起こらなかった。これが嵐の前の静けさであることを知らず、ただ淡々と毎日が過ぎて行った。人生をやり直すならここがセーブポイントなのだろう。

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