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支援付き住宅の全国展開 NPO法人コミュニティワーク研究実践センターの状況

「コロナ緊急|家や仕事を失う人をひとりにしない支援を」から始まり、その後もコロナ緊急事業から生活困窮者全般への支援と発展していった「支援付き住宅の全国展開」。各地で担っていくパートナー団体の一つであり、北海道札幌市を中心に活動するNPO法人コミュニティワーク研究実践センターの湯澤さんにお話しを伺いしました。

ーそれではまずコミュニティワーク研究実践センターがどのような支援事業をしていらっしゃるか教えていただけますか?

湯澤:コミュニティワーク研究実践センターは札幌と札幌から北に50kmくらいのところにある空知管内で事業を実施しています。主に相談支援機関の委託を受けて生活困窮者の人に対して支援をしています。札幌では大きく三つの事業をやっていて、市民活動プラザ星園という廃校を利用したNPOを支援するための施設の管理運営、札幌市からシェルターの事業の委託を受けての施設運営をしています。ホームレスになってしまった方にシェルターを一時利用してもらい、その後普通のアパートに引っ越して自立して暮らせるようサポートしたり、一人暮らしが不安な方には生活支援付き住宅にご案内しています。また、子育て支援事業として、委託を受けて札幌市内のいくつかの児童会館の運営をしています。


ー現在何部屋の生活支援付き住宅を運営していますか?これまで何人の方が利用されたのでしょうか?


湯澤:現在は45部屋でこれには無料低額宿泊所も含まれます。生活支援付き住宅の運営を始めて7年半くらい経ちますが、これまでに6,70名ほどの方が利用されています。利用者の方は一度入られるとそのまま長く住まれるケースが多いので入れ替わりは殆どありません。


ー自立して引っ越して行かれる方よりずっと長く住まれるケースが多いことについて、例えば東京都内のパートナー団体から伺ったことでいうと、都内は家賃が高く住宅扶助のみではある程度の水準の部屋が借りられないという
こともありました。北海道はいかがですか?


湯澤:札幌市は大きい町なので3万6000円住宅時扶助が出ます。郊外の町だと3万円とか2万5000円ほどです。札幌は空き物件が多く住宅扶助の3万6000円で借りられるところがたくさんあるんです。どちらかというと田舎の方が札幌より家賃高いし値下がりもしないんです。例えば北広島という日本ハムの本拠地やニセコなどはすごく土地の価格が上がってますので、札幌市内でしたらそういった問題は基本的にありません。

ー生活支援付き住宅の話に戻りますが、今までどのような方が利用されてきたのでしょうか?また運営してみて感じたことや気づいたことなどあれば教えてください。


湯澤:あまり対象を絞ってないのですが、シェルターを利用していた方が次のステップに移りたいけど一人暮らしが不安でいらっしゃる方だったり、また空知管内にはシェルターがないためそのままシェルター利用を希望される方への受け皿にもなっています。障害を抱えていて単身で生活するのが難しい方や、過去に障害があると診断をされなかった方でも今まで苦労してきた背景に実は障害があって私たちと出会うことで医療機関に繋がり手帳を取って生活支援付き住宅へ入られる方などいらっしゃいます。
世代的に言うと幅広いのですが、高齢の方は全体の1割くらいでほとんどの利用者さんが65歳以下の方です。コミュニティワークは若者支援からスタートしてることもあって比較的若い方からの相談が元々多かったのですが、生活困窮者支援事業を始めてからは若い方だけでなく中高年の方も増えました。高齢の利用者もいらっしゃいますが他の地域よりも少ないと感じます。昔から札幌市のシェルター利用者は20代30代の方が多くその割合は半数にも上ります。


ー若い人の場合だとどういうようなことが原因で生活困窮やシェルター利用につながっていくのでしょうか?


湯澤:一番は家族関係だと思います。もちろん失業してしまって家賃滞納して家を失ったから相談に来られる方もいらっしゃるんですが、例えば親からのお金の搾取や暴力など家族関係を背景に家を飛び出してシェルター利用につながっている方などが多いです。


ーそういった方に対してどういうような支援を心がけているのでしょうか?


湯澤:基本的に彼らが我々と出会う時は人生の中で最高に幸せな状態の時ではなく人生で一番しんどい時なので、なによりまず彼らに安心してもらわないといけません。我々のことを信用してもらい信頼関係をうまく築いていかないと心を開いてくれないので、仮に問題の原因のが本人にあったとしてもそれをすぐに指摘せず、まずその人の見ている世界を同じ目線で一緒に見るように心がけています。その人の立場になって同じ気持ちになることが大事です。


ーパートナー団体としてクラウドファンディングを受け支援付き住宅件数を増やしたこの2年で何か印象に残ったことはありますか?


湯澤:新たに増やした生活支援付き住宅の一部屋に30年近く実家で引きこもっていた60歳くらいの男性を受け入れたのですが、ある日を境に「見守り」という形のフードバンクの物資やお弁当の配食時に玄関にお出にならないのでスタッフ間で心配していました。プライバシーの観点から無理やりドアを開けるわけにもいかないのでしばらく様子を見ていましたが、結局後日心臓麻痺で部屋で亡くなっているのが見つかりました。ご家庭でトラブルになって生活支援付き住宅に入られた方だったので、もしかしたら身内の方にもご遺体を引き取ってもらえないかもしれないと心配しつつ道内に住んでらっしゃるその方のお父さんに連絡したのですが、ご高齢なのとちょうど12月だったので大雪の影響でこちらまで来ることができず、代わりに長野に暮らしてらっしゃる弟さんが北海道までご遺体と遺品を引き取りに来たんです。兄である利用者の方とは実はもう30年も会ってないと仰っていたのですがお部屋を見たときに「兄らしい部屋だ。もしずっと実家に居たらこのような生活はできなかっただろう。兄はここに来て最後に彼らしい生活を送ることができて良かったと思います。」と話してくださいました。孤立死という形で亡くなったのは非常に残念ですが、生活保護と住宅支援を受けることで本人が本当にしたかった生活を実現できていたと身内の方が言ってくれたのは嬉しかったですね。


ーコロナ禍も丸3年経とうとしていますが、コロナの影響でなにか変わったり気づいたことなどありますか?


湯澤:コミュニティワークでは学生寮のような造りの建物一棟を生活支援付き住宅として使っているのですが、コロナになる前は週3回みんなで夕食を食べる会をやっていたので利用者さん同士顔を合わせたり話をする機会があって、顔や名前、どの部屋に住んでいるのかお互いにわかり合えてたんです。しかし現在は感染予防の観点からお弁当を配食するだけの形になったため、隣に住んでる人が誰だかわからない。コロナ禍の影響で知り合う機会が作れず、顔が見えない関係になってしまったため生活の騒音問題などでトラブルになることがありました。
これと似たようなケースは全国的に起こりうることだと思います。入居者さん同士が自発的・積極的に関わり合っててくれるといいんですけれど勿論そういう方ばかりではないですよね。ただでさえ感染予防で何事にも細心の注意を払わないといけないので何かイベント的なものを企画するのも難しく、そういった機会が無い中でますます腰が上がらない方もいらっしゃると思います。なのでこの件を受けて、スタッフと少人数で感染対策をした上で集まるなど知り合う機会を作ったり、トラブルが起きてしまったら我々スタッフが間に入って話し合いの場を設けるなど少しずつ実践へ移しています。コロナが長期化することで新しく出てくる問題もありますし、なにより現時点でコロナが終わってないので、その中でどうしていけばよりよい支援ができるかちゃんと考えなければならないと日々思っています。


ーコロナに加えて円安や物価高も叫ばれていますが、利用者の方にどのような影響がありますか?


湯澤:物価高の影響は利用者さんの生活にも我々の事業にももろに直撃しています。例えば以前は78円くらいで買えたカップ麺が今は百数十円、下手したら200円近くに上がっています。石油などの燃料費はそこまで高騰していませんがやはり高くなっているのは電気とガスですね。北海道は寒いのでアパートタイプの生活支援付き住宅には大体備え付けの灯油ストーブやガスストーブがあるので原則暖房器具の持ち込みができず、利用者さんたちは備え付けのものだけで暖を取らないといけないので、ガスストーブが備え付けのお部屋はかなり光熱費が上がっているようです。
コロナが原因で生活が困窮してしまったり失業したり家を失う方はいたことはいたのですが、緊急事態宣言やまん防が発令されていた頃は国も給付金や緊急小口資金の貸付などの色んな支援をやっていたのでまだなんとかなっていた部分はありました。しかしそれよりも、そもそも給料や生活保護費が上がらない中で物価高により生活にかかるものの値段が軒並み上がるということでより直接的・長期的に生活が厳しくなっていくのだろうと思います。支援にかかる費用や施設の維持費・固定費も上がっているので我々にとってもこの物価高騰は大きな問題です。


ー最後に寄付者に向けて何かメッセージなどありましたらお願いします。

湯澤:今回、クラウドファンディングという民間からの支援をいただいたことによって、これまで行政や自治体の支援とは違って、支援できる人の範囲が広がりました。公的な事業委託での支援となると、例えばその地域や市民限定の支援事業となるなど、制限がかかってしまうこともありました。しかし、民間からの支援があれば、その制限がなくなり、行政からの支援ではカバーできなかった人たちのことも受け入れることができます。それが一時的なものではなく、1年経ってもこうして今続けられていることは、本当にありがたいことだと感じています。支援者の皆様にはとても感謝しています。本当にありがとうございます。


ー本日はお忙しい中、貴重なお話どうもありがとうございました。


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。