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中高生のためのサードスペース「よりみちハウス」が岡山県久米南町にオープン【後編】

2023年10月に岡山県久米南町のJR弓削駅前にオープンした「よりみちハウス」。設立から半年で利用者の子どもたちにとって「なくてはならない場所」になっています。「そこへ行けば誰かがいる」という子どもたちの安心感の柱になっているのは、日々子どもに寄り添った運営をするスタッフの皆さんの存在です。

水曜日と土曜日のオープン時、常勤スタッフとして子どもたちを迎えている二階堂尚子さんは、子どもたちから「みんなのお母さん!」と絶大な信頼を受けています。よりみちハウス紹介の後編は、子どもたちの様子や大人としての関わり方、そしてよりみちハウスの在り方について二階堂さんに話をうかがいました。

──みんなにとって、二階堂さんはどんな存在?

「お母さん!母性あふれるお母さん!」
「フリスペ※のお母さん!」 ※よりみちハウス命名の前のフリースペースの通称

子どもたちの素直で元気な声を聞き、照れ臭そうに笑っていた二階堂さん。2022年に久米南町の地域おこし協力隊に着任し、子育て支援事業に携わってきました。自身の3人の子育て経験を活かし、子どもとの関わりや親子関係などコミュニケーションのアドバイザーとしても活動しています。

みんなのお母ちゃん。なおちゃんこと、二階堂尚子さん。

「お母ちゃん、そうですね。よりみちハウスに来るお子さんにとって本当にそんな存在です。ここにはルールもあるので、皆が気持ちよく過ごせるように目を光らせているとこもありますから」

やさしくもあり厳しくもある人、よりみちハウスで二階堂さんはそんな存在感を放ち、子どもたちからお母ちゃんポジションとして慕われています。しかし単に見守るだけではなく、「背中をポンと押す役割」を持つべきとも考えており、子どもたちに訪れる節目節目で「行っておいで!」と送り出す態勢でいることも大事だといいます。

「中学生、高校生は環境や感情に動きのある世代です。ここには不登校の子どもたちもいて、よりみちハウスにずっと来てくれるのは、それはそれでうれしいことなんですが、子どもたちが躊躇なく第一歩を踏んでくれるようなきっかけを作れたらとも思っています。

イベントや講座を開くのもそのためですね。中高生の世代が気になっているようなことをイベント化して、最初の1歩が踏めたらいいなあと。『頑張っておいで』と背中を押すみたいなスタンスでいたい、そんな気持ちで日々過ごしています」

実際に、よりみちハウスは中高生だけではなく高校生活を終えた社会人も立ち寄ります。卒業パーティーの途中から参加したりょうぴーは社会人1年生で、なぜこの場所に来るようになったの?と尋ねると「未来商店街からの付き合いですから」とのこと。未来商店街で明楽さんとつながったことがきっかけで、よりみちハウスにも顔を出すようになったそうです。

2020年からはコロナ禍に突入して盛大なイベントができなくなり、未来商店街の活動は規模が小さくなりました。しかし、それらのイベントに関わったかつての高校生が大人になってからもこうして地域のフリースペースに顔を出すのは、NPO法人らんたんや地域おこし協力隊の活動が地域に根差している証です。

靴を脱いでくつろげるスペースも

──駄菓子の在庫ないの?

──うん、それでもう全部。来週、長船に仕入れに行くから

──おれ明日行くよ。岡山

──え!行ってくれるの。でも忙しいでしょう

──いや、いいよ

──頼んでいいの!じゃあお金託しちゃおう。きみの好み寄りばかりにならないでね。じゃあリサーチしてよ。何が欲しいかみんなにリサーチね

よりみちハウスにいつも置いてある駄菓子。ストックがないと知ったたかぴー(今春から社会人)が長船まで買い出しに行くと二階堂さんとやりとりをしていました。もちろん車で行くわけですが、こうした大規模なお遣いは高校生にはできません。高校生が大人の役割を買って出る、そんな成長を見守るのも二階堂さんたちスタッフの楽しみのようです。

「子どもは成長するので、いつまでもここに引き留めるわけにはいかないですよね。私たちスタッフはいつでも送り出せる気持ちでいて、その上で、勉強や仕事を頑張り過ぎて疲れたなって時にはいつでもここに帰っておいでと思っています」

何が出来上がるの? 作業中の木工作品 

子どもたちの「こうしたい」「ああしたい」の声を引き出したい。大人はフックを垂らし、子どもたちの反応をじっと待つ

未来商店街にも携わった二階堂さんは、中高生の「やりたい!」のエネルギーをとても好ましく思っていました。しかし、コロナ禍に入り大規模なイベントができなくなってから、自ら声を上げる子どもたちの勢いが、表に出なくなってきたと感じています。

「私の体感的なものに過ぎないとは思うんですが、コロナ禍を過ごしたことで子どもたちの『何かしたい』という自立心や積極性が小さくなっているかなと。でもみんな、本当は何か持っています。

行事が少なくなり、何かしたいって言うという感覚すら持ちにくくなってしまったんでしょうね。自分で何かをしたいという表現、言葉にするってことをしにくくなったというか。コロナ禍でも未来商店街自体は規模を小さくして開催していたんですが、そこへの参加者も少なくなりました。

コミュニケーションを取らずにいることが普通になってしまったので、まずはつながりを増やしていかなければいけませんね。言葉にして表現する機会を設ける、よりみちハウスはそんなお手伝いができればと思いながら運営しています」

今回の卒業パーティーのほか、クリスマス会やゲーム会など、よりみちハウスでは様々なイベントを企画しています。子どもがやりたいことを中心に構成をしますが、意見を引き出すのはそう容易ではないようです。二階堂さんは子どもたちにフックを垂らしてヒントを与え、リアクションを待つそう。

「なかなか言わないから、何がしたいかわからないんですよ。よりみちハウスでコミュニケーションを取り関係性をつくることで、何に興味があるか聞き出せるんですよね。子どもたちの考えや希望を知ってから、こういうことしてみようかと具体的に促しています」

よりみちハウスを継続させていくには

岡山市と津山市の間に位置する久米南町。子どもたちは高校生になると生活圏を広げ町から離れていく傾向があるため、よりみちハウスのような中高生対象のフリースペースは「利用者が右肩上がり」という状態にはなりにくい傾向にあります。そのような中でよりみちハウスを続けていくには、「弓削駅前によりみちハウスがある!」ということを周知しなければいけません。二階堂さんたちは中学校や津山市・岡山市の高校に案内を出しています。

そしてよりみちハウス前の道路は小学校の通学路で、登下校の小学生の目につきやすい場所でもあります。二階堂さんは、小学生がいずれ中学生になったら来てみようかなと思うような空間づくりをしていきたいと語ります。学校の先生や家族とは違う、第三の大人としての手助けを目指し、子どもが立ち寄りやすい場所になれたらと考えているそう。

「ちょっとホッとできる場所になれたらいいですね。学校でも家でもない、自分だけのパーソナルスペースって意外と欲しいんじゃないかな。きょうだい関係とか、そういうしがらみみたいなものから少しだけ解放されるような場所にしていきたいです。

親には言えない、先生にも友達にも言えない、知らない人に話したいけど、全く知らない人に聞いて欲しいわけじゃないっていう、そんな複雑な気持ちでいることってありますよね。身近な人からは出てこない意見が、ここにいるスタッフや先輩たちから出てきたりするかもしれませんし。

ただ、ここを利用していても必要なくなる時が来るだろうし、それは喜んで送り出します。ここに集まる子は口コミに誘われてというのが多いんですよ。子どもたちのネットワークも活かして、新しく利用したい子が増えてうまく世代交代しながら継続できたらいいですね」

おしゃべり中のふたり。AちゃんとRちゃん

取材終盤には迎えの保護者も訪れ、よりみちハウスはますます賑やかに。二階堂さんと雑談をしている保護者さんの柔和な表情からも、この場所に安心感を抱いているとわかりました。よりみちハウスは、子どもはもちろん子育て中の大人にとっても安心できる場所として、久米南町に根付いています。スタッフの大きな展望である、「よりみちハウスに自治体の子育て機関をひとまとめに」という目標が実現するのも、そう遠い未来ではないかもしれません。

 取材・文:國富由紀


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