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半導体産業について考える。SOXLへの投資を見送った理由。

3倍レバレッジ商品で、日本でも手軽に投資できる商品として、SOXL、TECL、WEBLが人気となっていますが、今日は今年に入って暴落中の半導体3倍レバレッジ「SOXL」について、私なりの考えを書きたいと思います。

SOXLは年初に付けた64ドルを天井にして、現在6.93ドルまで落ちています。為替の影響を考慮しなければ、間もなく10分の1の価格で買えるところまで下がっており、一見してお買い得感があるように見えます。

そこで、私も5ドルを割り込んでくれば、短期で投資対象に組み入れようかと考え、その前に半導体の知識を身に付けなければと、ある本を購入しました。

高乗正行著の「ビジネス教養としての半導体」です。

この本を読んで、半導体産業のビジネスモデルを全く理解しないまま、半導体セクターに投資することのリスクに気が付き、結論として、SOXLへの投資は見送ることにしました。私自身が半導体の知識が全く無い中で、本を読みましたので、ポイントだけを絞った初心者向けの記事となりますので、最後まで読んで頂けたら幸いです。


まず、半導体産業は、
・垂直統合型モデル
・水平産業型モデル

の2つのビジネスモデルに分類されます。半導体セクターに投資するのであれば、ここは最低限理解しておいた方が良いでしょう。

かつての日本が半導体大国と呼ばれていたのは、1980年代にNECや富士通、東芝、三菱電機、日立製作所、ソニー、パナソニックといった大手企業が競合し、自社で半導体を開発、製造して、自社のテレビやオーディオといった電子機器に使用し、次々と高性能な製品を生み出してきたからです。このように特定用途に適した半導体を次々と開発、製造できる、つまり、機器専用の半導体を一から設計、製造する「垂直統合型モデル」は一昔前までは主流となっていた訳ですが、今では「水平産業型モデル」に移っています。現在でも従来の「垂直統合型モデル」で日本に残っている半導体メーカーはソニーだけです。

電子機器のデジタル化が進んだことで、あらゆるデジタル機器に向けた半導体を大量生産する必要が出てきたため、今は「水平産業型モデル」が主流となっています。「水平産業型モデル」では、
・ファブレス企業(半導体の開発、設計のみ)
・ファウンドリ企業(製造のみ、前工程)
・OSAT企業(組立と試験、後工程)

といった、各企業が連携して半導体を作り上げているわけです。ここも、半導体に投資するのであれば重要となる知識です。


ここからは、具体的な企業の名前をあげながら説明していきます。

皆さんが知っている「エヌビディア」や「クアルコム」はファブレス企業であり、半導体の開発や設計を行っています。ファブレス企業は半導体を製造する訳ではないため、自社に工場を持つ必要がありません。パソコンに向かって日々半導体の設計を行っているのが主力事業ですから、オフィスさえあれば良いということです。もちろん、自宅でテレワークも可能ですし、作業服を着ることもありません。

<ファブレス企業の代表例>
・エヌビディア(米国)
・クアルコム(米国)
・ブロードコム(米国)
・メディアテック(台湾)
・AMD(米国)
・ハイシリコン(中国)

そして、「ファブレス企業」で開発、設計された設計図が、ファウンドリ企業に送られ、ファウンドリ企業が設計図に基づいて半導体を製造します。ファウンドリ企業で有名なのが台湾の「TSMC」や韓国の「サムスン電子」です。

<ファブレス企業の代表例>
・TSMC(台湾)
・サムスン電子(韓国)
・グローバルファウンドシリーズ(米国)
・SMIC(中国)

このようにファブレス企業では米国が圧倒的に強く、逆にファウンドリ企業では台湾や韓国などのアジアに勢いがあります。最近では台湾や韓国、中国が半導体市場で業績を伸ばしているイメージが強いですが、これらはファウンドリ企業です。どのような半導体を開発するのかを決めるのはあくまでもファブレス企業であることに注意しなければなりません。つまり、ファウンドリ企業というのはファブレス企業の下請けとして半導体の製造を請け負っているのです。


現在、米国はバイデン政権下において、米国企業の下請けとなる「TSMC」や「サムスン電子」といったファウンドリ企業を米国アリゾナ州に招致しています。これは、半導体の開発、設計から製造までを全て米国内で完結させようというのが狙いです。
参照 太田泰彦著「2030半導体の地政学」

半導体は私たちの生活に欠かせないものであり、ひとたび供給不足が発生すると、自動車や電子機器業界が影響を受けるだけでなく、医療やインフラといった安全が脅かされる可能性があります。

例えば、停電の場合には電力の供給そのものは長くて数日で復旧しますが、停電により半導体製造装置の中に仕掛品が残ってしまうため、それらを一度すべて取り除き、また最初から製造を始めなければなりません。出荷できる状態まで数カ月を要することを考えると、災害や戦争のリスクを回避させるために自国の安全な場所に半導体製造工場を置きたいというバイデン大統領の狙いも頷けます。半導体製造の70%以上を請け負う台湾の「TSMC」が、仮に中国の侵略を受けた場合、一番に影響を受けるのは米国であることは言うまでもありません。

このように半導体産業というのは、常に地政学上のリスクと絡み合って成り立っております。半導体はストックできない上に急な需要増にも対応できない点を考えると、半導体製造工場を世界中に分散させて建設していく必要があるということです。

著者の視点だと、半導体がストックできない性質上、商品の供給や在庫管理をサポートする半導体商社である「アロー・エレクトロニクス(米国)」のような企業が今後は重要度を高めていると述べています。

また、人口12億を抱える「中国」は、半導体の新開発を積極的に進めやすい環境下にあり、更には、広大な領土もあるため、自国で製造できる強みがあるため、成長が拡大していくとも述べています。

更に加えて、日本のベンチャー企業でも「ファブレス企業」であれば、十分にチャンスがあるとも述べています。


半導体市場が今後も拡大していくことは言うまでもありません。しかし、あらゆる電子機器に使用される半導体は、「産業のコメ」とも呼ばれるように必要不可欠なものであるのと同時に、コモディティ化が起こる可能性もあります。

私が半導体産業に投資するのであれば、下請けとなる「ファウンドリ企業」ではなく、技術革新に向けた新たな半導体を開発する「ファブレス企業」です。そう考えると、「ファブレス企業」の殆どがNASDAQ100指数に組み込まれていることを考えれば、敢えてリスクを背負って3倍のレバレッジが掛かっている「SOXL」に投資する妙味が無いと考えました。

私が投資するレバレッジNASDAQ100は2倍のレバレッジ、SOXLは3倍のレバレッジが掛かっています。2倍と3倍の差は背負うリスクが全く違います。更には、SOXLは半導体に特化したETFで様々な地政学上のリスクを伴います。このような理由で、SOXLへの投資を検討した結果、見送る結論に至りました。

私の拙い文章に最後までお付き合い頂いた読者の方は、少なからず半導体産業に興味がある方々だと思います。もし、半導体セクターへの投資をお考えであれば、今回ご紹介しました「ビジネス教養としての半導体」を読んでみて下さい。半導体産業に関わる様々な企業が紹介されています。大切な資産を投資に充てるわけですから、半導体産業への知識は必要不可欠です。くれぐれもSNSやYouTubeの影響を鵜呑みにして、場の勢いで投資することが無いように注意して下さい。

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