植民地日本は危険なゴミ食品の廃棄場になっている


転載 世界で「リスクあり」と判断された食品が日本に流れ込んでいる…「危険な輸入食品」の現実

安心できない食品が日本へ(写真/GettyImages)写真4枚

 農産物をめぐる科学技術の進歩は、生産量を飛躍的に増大させ、価格を押し下げた。その一方で、「食の安全」の観点から安心して口にできない食品は、世界各国で規制され、排除されつつある。そんな中で、“誰も口にしたがらない危険な食品”を大量に輸入し、消費している日本は、輸出大国アメリカから、あろうことか「ラスト・リゾート(最後の楽園)」とさえ呼ばれている──。東京大学教授・農業経済学者の鈴木宣弘さんが危険な輸入食品について綴る。(短期連載第2回。第1回から読む

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 新型コロナや中国の爆買い、ウクライナ紛争に異常気象。未曽有の事態が重なって、ただでさえ食料自給率の低い日本は、あと何年も経たないうちに恐怖の「3食、芋だけ生活」が訪れ、最悪の場合7200万人が飢えて死ぬ──そんな“未来予測”を前回でレポートした。そもそもいま私たちが口にしている野菜や果物、肉や牛乳も決して安全とは言えない。

 7割近くの食品を海外からの輸入でまかなう日本人は、言い換えれば「海外に胃袋を占領されている」状態でもある。今回は、輸入食品に伴う「いまそこにある危機」についてお伝えする。

《小麦は人間が直接口にしますが、トウモロコシと大豆は家畜のエサです》

 これはアメリカ穀物協会の幹部が2008年、あるニュース番組でアメリカ人に向けて発言した内容だ。“家畜のエサ”であるトウモロコシと大豆を“食料”としてアメリカから大量に輸入している日本人のことを彼らがどう見ているか、よくわかる一幕である。

農業が心配なじゃがいもと小麦

 日米の食品輸入におけるいびつな力関係の発端は、1975年にさかのぼる。当時アメリカから輸入していたレモンから、膀胱がんの原因物質とされ日本では使用が禁止されていた『オルトフェニルフェノール』や『チアベンダゾール』などの防カビ剤が検出された。そのため日本はレモンを海洋投棄し、アメリカに対して使用禁止を求めた。

 しかしアメリカはこれに激怒し、当時の日本経済の支柱であった自動車の輸入を制限すると脅しをかけた。ひるんだ日本は「農薬としては禁止しているが、収穫後に散布したから『食品添加物』と見なす」と規制を緩和し、発がん性の禁止農薬を日本に持ち込むことを許してしまったのだ。

農薬が心配なじゃがいもと小麦(写真/GettyImages)写真4枚

 以来、日本は同様の「規制緩和」をほかの食品にも適用させている。特に筆者が懸念しているのは「じゃがいも」と「小麦」だ。

 アメリカ産のじゃがいもには『ジャガイモシストセンチュウ』という害虫が発生しており、輸入したじゃがいもとともに日本に広まれば国産のじゃがいもにも危険が及ぶ。そうした理由で、長らく日本はアメリカからの生鮮じゃがいもの輸入を禁止していた。

 実際、1990年代まではじゃがいもの国内自給率が90%程度あったため、輸入に頼らずとも国内でまかなえることも大きな理由だった。

 しかしその後自給率は低下の一途を辿り、66%まで落ち込んだ現在、ついに「アメリカ産じゃがいも」に手を出さざるを得ない状況になってしまう。そこで2020年に日本が取った方法は、かつて農薬つきのレモンを輸入したときと同様に、害虫を駆除するための強力な農薬である『ジフェノコナゾール』を「食品添加物」と見なす、というルール変更だった。ジフェノコナゾールは動物実験により発がん性や神経毒性が指摘されており、国内ではほとんど使われていない。

 しかも日本は輸入解禁に伴い、じゃがいもにおけるジフェノコナゾールの残留基準値を20倍に緩和した。

 残留農薬が問題になっているのは小麦も同様だ。

 農林水産省が2017年に行った調査によれば、日本におけるアメリカ産の小麦の97%、カナダ産の100%から『グリホサート』と呼ばれる農薬が検出された。

 グリホサートは、発がん性の疑いが指摘されているほか、人間の体内に吸収されると、腸内細菌を殺し、さまざまな疾患を誘発することが懸念されている。

 一部ではこの懸念を否定する見解があるものの、アルゼンチンやオーストラリア、ブラジル、ベルギー、デンマーク、イギリス、オランダ、スペイン、スイスなどで規制が強化される方向にあり、アメリカにおいても今年から消費者向けの販売を停止することが決まっている。つまり世界はグリホサートにリスクがあるととらえているのだ。しかし農民連食品分析センターの調査(2019年)によれば、日本で売られている食パンのほとんどからグリホサートが検出されている。

 その半面で数少ない「国産」「十勝産」「有機」の表示があったパンからは検出されていないことも明らかになっており、海外産の小麦がいかに危険であるかがおわかりいただけるだろう。

 にもかかわらず日本はそれに逆行し、2017年に小麦はそれまでの6倍、そばは150倍にグリホサートの残留基準値を緩和した。

 残念ながら日本人の命の基準値はアメリカの意向で決められていると言わざるを得ない状況が続いているのだ。

日本で販売されている食パンの多くから、農薬「グリホサート」が検出されたという調査も(写真/PIXTA)写真4枚

世界一、遺伝子組み換え食品を食べている

 輸入食品の汚染は農薬だけに留まらない。

 アメリカ農務省次官補だったタープルトラ氏もまた2008年、ニュース番組で「日本人は1人当たり、世界で最も多く遺伝子組み換え食品を消費しています」と発言した。

 実際、日本には大豆やトウモロコシをはじめとした遺伝子組み換え食品が次々に入ってきている。さらに恐ろしいのは今後、遺伝子組み換え食品かそうでないかが非常に見分けづらくなることだ。

 今年4月から食品表示のルールが変更され、「遺伝子組み換えでない」と表示できるのは「分別生産流通管理をして、遺伝子組み換えの混入がないと認められるに限る」場合のみになる。一見、ルールが厳格化されて、より安全になったと思えるかもしれないが、現実的に考えればあらゆる生産地から一括して大量に輸入される穀物に、遺伝子組み換えのものが一切入っていないと断言することはほぼ不可能だ。つまり、この変更によって国内の食品のほとんどは「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなり、実質的に遺伝子組み換え作物を作っている海外企業の利益を増すことになる。

 実際、日本にこの「ルールの厳格化」を要求していたのはそうした海外の農業系企業であるとの証言もある。

 知らぬは“植民地”の日本人ばかりなのだ。

ホルモン剤・エストロゲン使用の食肉が流通

 世界からリスクがあると判断された食品が日本に流れ込んでいるのは食肉も同様だ。

 2020年11月、台湾でアメリカ産の豚肉の輸入に反対する大規模なデモが起き、与野党を巻き込む政治的な大論争を経て、輸入禁止にするかどうかを問う住民投票が実施された。その理由は牛や豚などの飼料に、添加物として使われる科学物質であり興奮剤・成長促進剤としての効果がある『ラクトパミン』という物質が使われていたことだった。

 ラクトパミンは人体への有害な影響が指摘されており、実際にラクトパミンを使用した豚の肉や内臓を食べて中毒症状が起きた例も報告されている。それ故にEUや中国、ロシアでは国内使用・輸入ともに禁止されている。

 台湾の住民投票は、アメリカ追従派の巻き返しなどにより輸入禁止は否決となったが、国を揺るがす大論争が起きたのは事実だ。

 一方、日本においては、国内での使用は禁止されているにもかかわらず、輸入に関してはサンプル検査により、残留基準を満たしているかチェックしたうえで認められている。しかしそもそも、その基準が本当に安全なのか、また輸入する肉すべてを検査するのではなく少量のサンプルのみで本当に安全性が担保できるのかは大きな疑問と懸念が残る。

牛乳にもホルモン剤の危険が迫る(写真/GettyImages)写真4枚

 いちばんの問題は、世界的な大論争を巻き起こしたラクトパミンの問題が日本ではほとんど報道されず、われわれが「食の安全」に無関心なまま黙々と有害物質の残留した牛や豚を食べていることだ。

 私たちが「ザル」であることをいいことに、ホルモン剤が投与された危険な「肥育ホルモン牛肉」も日本に入ってきている。

 ホルモン剤とは牛の成長を促進させる目的で使用される化学物質であり、代表的なものには女性ホルモンとして有名な『エストロゲン』がある。肥育時に投与することで成長を早めることができるとして用いられているが、乳がんの細胞を増やす原因になると指摘されており、ラクトパミンと同じく日本国内では使用が認められていない。

 当然、それは世界的な傾向でありEUはアメリカ産の牛肉を成長ホルモンが入っていることを理由に禁輸している。

 欧米では消費者も牛肉の安全性に敏感で、スーパーには「ホルモンフリー」と表示された牛肉が売られ、通常の牛肉よりも4割ほど割高になるにもかかわらず、需要が高まっているという。

 しかし、日本はアメリカの圧力に負け、輸入肉に関しては「検査をすれば売っていい」とほぼ“素通り”に近い状態でホルモン牛肉を認可しているのが現状だ。

 恐ろしいのは、アメリカ産の牛肉だけでなく、オーストラリアやニュージーランド、カナダ産の牛肉であってもホルモン剤からは逃れられないことだ。各国とも日本の検査が「ザル」であることを見抜き、「危ない牛は日本へ」を合言葉にするかのようにホルモン牛肉を次々に日本に輸出している。オーストラリアに至ってはEU向けの牛にはホルモンフリーの牛肉を輸出する一方で、日本向けにはホルモン入りの牛肉を出荷している状況だ。

 ホルモン剤の弊害は乳製品にも蔓延している。

 アメリカの化学メーカーが開発した『ボバインソマトトロピン』と呼ばれる、ホルスタインに注射すれば乳量が3割増えるというホルモン剤が、1998年に医学雑誌『ランセット』と『サイエンス』上で「乳がんは7倍、前立腺がんも4倍罹患リスクが上がる」という論文が発表された。アメリカではそれを受けてスターバックスやウォルマートなど大手飲食店やスーパーが「不使用」宣言をしている。

 日本においても牛へ直接投与することは禁じられているが、それを使用したアメリカ産の乳製品に関してはホルモン牛肉と同様に“素通り”して入ってきているのが現状だ。

消費者の行動が事態を変える

 除草剤、防カビ剤、ホルモン剤などの残留、遺伝子組み換えの不安……。食料自給率が40%を割るわが国において、いま口に入るものの6割以上がそうした「危険な食べ物」であり、私たちの体は「実験台にされている」と言っても過言ではない。

 頼りになるはずの検査は「ザル」であり、政治家たちは食料自給率よりも軍事費に予算を割こうとするいまの日本において、信じられるものは何もないのではないか。明日から、家族に何を食べさせればいいのだろうか。途方に暮れる読者も多いだろう。

 しかし、希望を捨ててはいけない。筆者は、消費者の行動こそが事態を変えていく最も大きな力になると断言する。実際、アメリカでボバインソマトトロピンが大問題になったときも、消費者がそれを使用している乳製品を排除するような運動を始めたために、スターバックスやウォルマートは「不使用」宣言をした。

 台湾でラクトパミンが大問題になったのも、市民による大規模デモが発端だった。

 つまり、「政治や行政が動かなかったとしても、われわれは負けない」と自分たちで示すことが重要なのだ。

 最終回はその具体的な方法や、本当に安全な食品を手に入れる方法について解説する。

(次回につづく)

【プロフィール】
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)さん/1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業後、農林水産省に15年勤務の後、農業経済学者として学界へ。九州大学大学院教授などを経て2006年より東京大学大学院農学生命科学研究科教授に。

※女性セブン2023年3月23日号

ソース

https://www.news-postseven.com/archives/20230314_1847801.html?DETAIL&utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=shared

以上