11月23日
新幹線に乗っている。とても眠い。本を読んでいたけれど眠くなったので少し目を閉じてまた目を開けたところ。もうすぐ大宮。
帰りの新幹線のチケットを買おうとしたら夜遅くの便まで指定席はすべて満席だった。全席指定のかがやきを一本見送り、待っていたはくたかが間もなく到着するというアナウンスと共に、金沢を出発した時点で自由席はすべて満席ですという案内がなされ、2時間以上立ちっぱなしで帰るのだろうかとかなり憂鬱な気持ちになったけれど乗り込んだ車両の2列目窓側が空いており座ることが出来た。安堵しそうしてすぐにゆーきゃんさんが連れて行ってくれた地元の野菜などを置いているお店で買ったヴィーガンのお弁当を食べた。お昼ごはんはさよこさんが作ってくれて、わたしはもりもり食べたのになぜかお腹が空いていた。お弁当は叩き米と雑穀米のおにぎりがふたつとラタトゥイユ、サラダ、大豆ミートのから揚げ。ひんやりしていたけれど美味しかった。きのうのお昼はさよこさんと会場近くのお店でカレーを食べ、とても美味しかったけれどわたしはかなりお腹がいっぱいになってしまって、最近はあまり沢山食べられない、すっかり小食、などと言っていたのにライブ後の夜ごはんも今日のお昼もとてもよく食べたので少食なんて全然嘘じゃんとさよこさんに思われたに違いない。そうして何かタガが外れ駅のホームのキオスクで血迷って買ったポッキーを丸々一箱食べた。ポッキーという食べものをものすごく久しぶりに食べた。美味しいような気もしたし全然そうでもないような気もした。
ライブは本当に久しぶりだったし、前回のライブだってとても久しぶりだったし、最近はあまりギターを弾いて歌うこともしておらず、だけどライブが決まって慌てて練習をして、というような状態だったし心持ちも上がったり下がったりで集中力も途切れ途切れだったので正直本当にちゃんと歌えるのだろうかと不安だった。だけどふたを開けてみたらびっくりするくらい“ちゃんと”歌えた。真っ直ぐな気持ちで余計なことは考えず、さよこさんの絵と、窓の外の景色と、いるふの空間と、お客さんと、自分の歌だけに心を向けることが出来た。それはなんていうかもう勝手にそうなっていたのであって、コードや歌詞のひとつも間違えることなく、するすると歌が出てきて、それはすごく不思議なことのような気もしたけれどまったく当然のことのような気もした。
いるふはとても素敵なところだった。古い家屋とセンスの良い選書、海の見える小さな窓。壁にかけられたさよこさんの絵と、繰り返し流れるゆーきゃんさんの新しいアルバムがとてもよく似合っていた。さよこさんの描いた絵は青の絵の具一色で、だけどそれは本当にたくさんの青で、大きなロール紙に広がっていく様々な情景とそれを体いっぱい描き出すさよこさんの後ろ姿をとても美しいと思った。ゆーきゃんさんの歌は儚くて優しくてとてもとても強かった。優しいひとは強いひとだと思った。いるふの天野さんが何度も何度もとても良かったです、と言ってくれ、CDを渡したらとても喜んでくれた。わたしは絵本を一冊と詩集を一冊、小説を二冊買った。歌が歌えて良かったなぁと思った。
小さな小さな営みを、名前のない誰も知らない小さな小さなそれらをやっぱりわたしは守りたいのだと、尊いこの時間や空気や空間はどこかの誰かに蔑ろにされていいものでは絶対にないと、改めて強く思った。
さよこさんは少しでもノゾミさんの気分転換になれば、ということを何度も言ってくれた。またいつでも来て下さい、とも。きのう時間がなくて描いてもらえなかったので今日石にペイントをしてもらった。鳥を描いてもらおうとなんとなく家を出るときに決めていた。とても素敵なわたしだけのお守り。玄関に置くことにそれも決めている。
わたしは自分の思考と自分の身体が離れていると感じることがよくある。そういうとき、自分は自分の外にいる。それはとても居心地が悪くさらに悪いことには相手が一生懸命に話をしているようなときに起こりやすくだからとても決まりの悪いことでもある。自分をひどく不誠実で不真面目な人でなしだと思う。でも歌を歌っているときわたしはちゃんとわたしの中にあり、本当の本当にまっさらで誠実で正直だと感じる。それはかけがえのないことだ。誰になんと言われようと。
たぶん今年のライブはきのうで最後だろう。新しいプロジェクトがゆるやかに動き出したので、わたしは一生懸命曲を作りたい。そうして来年はそのプロジェクトでもライブができるといいなと思う。から、そのためにもたくさん曲を作る。
富山にいたのはだけどきのうと今日の夕方までの2日にも満たない時間だということにとても驚いてしまう。丸々3日はいたような気持ち。早く家に帰ってひとつの夢も見ずに朝までぐっすり眠りたい。さよこさんとゆーきゃんさんの家はとてもとても静かでときどき鳥の声と電車の音だけが聴こえて、そのことをとてもうらやましいと思った。
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