『構造的解離』を読み始めました

 オノ・ヴァンデアハート他著の『構造的解離』を読み始めました。久しぶりの心理系著書。私の大好きなフランスの心理療法家にして精神科医のピエール・ジャネ先生の理論を元に、著者たちが使っている解離の理論・治療法を紹介する本、のようです。
 ジャネ(先生は略。以下同様)の時代には向精神薬がまだ存在せず、治療法らしい治療法もない中でジャネ自身は主に催眠療法をしていたわけですが(少なくとも初期は。ジャネ晩年の治療法は私が不勉強で知りません)、その理論をかなり忠実になぞりつつ、現代の治療家たる著者たちはどんな治療を展開するのか?! いやが上にも期待は高まります。

 が、訳がわかりづらい……。そしてまだ20ページかそこら読んだだけですが、重要な用語〈心理的緊張 psychological tension〉が〈心的効率 mental efficiency〉に置き換えられていて微妙にモヤモヤする……。
 〈緊張〉にはストレス的な意味があって誤解を招きやすいから置き換えました、という著者たちの意図には納得する。するけれど、でもギターの弦の張力を変える的な、集中力の焦点を定める力とかそんなニュアンスから〈tension〉は使われていたはずで、それが〈efficiency〉に置き換えられてしまうのはどうなんかな……と思ってしまう。日本語訳なら〈緊張〉を〈張力〉にすることで十分〈ストレス〉のニュアンスは消せると思うけれど(実際、むかしどなたかの訳で〈心的張力〉を見た気がする)、英語にはそんな言葉はないのかしら。そしてefficiencyの訳語としては、〈効率〉よりはせめてまだ〈能率〉のほうが近いように思うんだけど……うう。

 めちゃくちゃ楽しみに読み始めたのに、ぶつぶつボヤキ過ぎてちっとも集中できない。訳が悪いんでなくて私が悪いのか。ううう……。

 序文によると第二部・第三部があって、第二部はジャネの理論の紹介で、第三部は第一部よりさらに臨床寄りの話になるらしい。解離とフラッシュバックについては、ジャネの描いた図が秀逸で一目瞭然だと思うけれど、上巻である本書には掲載されてません(だから余計に文章がわかりづらい)。監訳者略歴を見ると上下巻刊行予定のようなので下巻にはその図も出る可能性が高いけれど、上巻の出版からすでに10年以上が過ぎている。DSM-5が出てからさえ早や数年が経つというのに、ふつうにDSM-Ⅳとかって出てくる。……ジャネの図どころか、下巻そのものが出るかどうかすら、もはや怪しい。
 もういっそ、下巻がまだできていないことを幸いに、1冊本の改訳版で初めから出し直してくれんかしら。個人的には、『アルツハイマー病研究、失敗の構造』を訳された梶山あゆみさんにお願いしてほしい。きっとわかりやすい本にしてくれる、はず! 読みやすい訳でスカッと1冊にまとめてくれたら、とてもありがたいのだけれどな……。
 ……って、まあ私は整体屋ですから、著者たちの具体的な治療技術を知ったところで、関係無い、と言えば無いのですが。あ、でも関係無いついでに書くと、ジャネの『人格の心理的発達』も新訳版で出してほしい。あれほんと、おもしろいと思うんですけどねー。あ、それとできれば『神経症』も。こっちは重要書籍ですよ。たぶん。



 『構造的解離 慢性外傷の理解と治療 上巻(基本概念編)』
 オノ・ヴァンデアハート エラート・R・S・ナイエンフュイス キャシー・スティール著
 野間俊一 岡野憲一郎監訳
 星和書店 2011年

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