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刹那の輝きを観るために
今日が楽しみ過ぎて、朝の4時半に目が覚めてしまった。
遠足や運動会の日は楽しみすぎて思わず早起きしてしまう、だなんて、そんな純粋で可愛らしい子どもではなかったので、私としてはとても珍しいことなのである。
シャワーを浴びていても、顔を洗っていても、歯を磨いていても、用を足していても、鼻唄が止まらない。
何にもおもしろいことなんて起きていないのに、ほおが緩んで、ニヤニヤして、そんな自分に笑っちゃったりした。
今日は待ちに待った、大好きな人たちに逢う日。
つまり、推しのコンサートに行くのである。
6月から、今日のこの日のためだけに頑張って生きてきたと言っても過言ではない。ダイエットも頑張った。
先月、BSで放送された前回のライブツアーの録画を横目に観ながら、身支度を始める。
化粧水を念入りに肌に染み込ませて、普段面倒でサボってしまいがちな過剰なスキンケアもしちゃう。面倒なことも、ぜんぶ楽しい。
メイクも念入りに。
手鏡を覗き込んでも毛穴が見えないくらい、念入りに施す。
カワイイ自分で逢いに行きたいからメイクするというよりは、万が一、いや、億が一、最前列なんて素晴らしい席が当たってしまって、いざ推しが近くに来てくれて、目が合うかもしれないというときに、きちんと自分の満足のいくメイクが出来ていないと、自分に自信が持てなくて目を逸らしてしまうからである。
せっかくのチャンス、無駄にしたくない。
このツアーが終わってしまえば、次いつライブしてくれるかなんてわからないのだから。
もっと言えば、こんな大きな会場でライブをしてくれるのも最後かもしれない。メンバーもまた欠けてしまうかもしれない。活動休止したり、解散する可能性だってゼロではないのだ。
アイドルって、刹那の輝き。本当に儚いものだから。
服は、彼らのグループイメージに合わせてコーディネートする。
ライブだし、別に何を着て行ったっていいのだけれど、ふとしたとき、例えば電車の窓に自分が写ったときとか、鏡に自分が写ったときとか、トイレの個室に入ったときとか。
そういう時に、これから私ライブに行くんだもんねって、るんるんするから。
最後に髪をセットする。
ドライヤーで艶だしして、ストレートアイロンで毛先をくるんと内側に巻く。
前髪も内巻きにして、ヘアスプレーで固める。
暑いし、きっと会場に着く前に、汗で巻きが取れてしまうかもしれない。だから、なるべく汗をかかないよう、慎重に行動するよう心がけようと思う。
録画していたライブ映像の再生が終わる頃に、ようやく身支度が整った。なんだかんだで2時間もかかった。
開演は18時からだったけど、12時にライブへ一緒に参戦するお友だちと集合して、昼食をとりながらおしゃべり。
食後のお茶をしながら、おしゃべり。
開演の2時間前に会場に到着して、おしゃべり。
好きな人たちの話題だから、話は尽きない。
推し活の1番楽しいところは、こうしてお友だちと好きな人たちの話ができることである。これは他の何にも代え難い。
お互いの交際相手の良いところについて話したりなんかしちゃったら、マウントの取り合いになって友情なんてすぐに崩れる。
その分、アイドルは平和だ。
みんなにとって、好きな人だから。
独り占めできないからこそ平和なのだ。
女の心を満たすには、女どうし横並びの状態で、平和に心から共感し合えることのように思う。そういう話題って意外とない。あるとすればなんだろう。パンダとか、かな。
17時55分。鼓動が高鳴る。
お友達の手を握り合って、もうすぐ始まるねって笑い合う。
逢えるまで、あと少し。
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