P.A.WORKS 新作映画『駒田蒸留所へようこそ』試写レビュー
2023年11月10日公開の『駒田蒸留所へようこそ』を試写で拝見しました。
映画の公式サイトに”P.A. WORKS「お仕事シリーズ」最新作”とあるように、『花咲くいろは』の温泉旅館、『SHIROBAKO』のアニメ製作会社、『サクラクエスト』の町おこし事業など、働く女性をテーマにしたP.A. WORKSの映画です。今回のお題はウイスキー作り。
蒸留所の代表を務めていた父の死去で畳むしかなくなった工場を、娘が引き継いで再建を目指し、途絶えていた幻のウイスキー「独楽」を復活させようと奮闘する。
若社長の駒田琉生（こまだ るい）が働く蒸留所の記事を書くために編集部から遣わされた高橋光太郎は、仕事に情熱を感じない、やる気のない若者の見本のような人物。この映画を観ている自分自身が、インタビュー仕事もやるモノ書き業のせいもあって、この高橋光太郎のやる気のなさは信じられないレベル。取材先で企業名を間違える、薄ぼんやりした知識で誤った質問をする、「なにか聞きたいことは？」と先方から訊ねられると「ありません」と即答。自分の記事をWEBにUPする際も、NG箇所を修正する前の良くない原稿をUPしてしまう不手際さ。しかも取材相手が若い女性社長とはいえ、「あんた」「きみ」呼ばわりは流石にないわー。こういう人物造型だからこそ、後半の成長ぶりが頼もしく感じられるのも確かなのだが、今どきニュースサイトのライターに、こんな25歳がいるだろうか。
(C)2023 KOMA復活を願う会／DMM.com
…などと高橋くんのキャラにちょっと不満がありつつ、それでもこの映画は実によく出来ている。観ているうちにウイスキー作りの知識が付くだけでなく、自分たちのブランドを守っていきたい、自社の銘酒を蘇らせたいという、そこに働く人たちの心情などがしっかりと描かれている。エンドロールを見ると、何社もの蒸留所やウイスキー会社が協力としてクレジットされているのだが、制作スタッフが本作を作るためにどれほどの取材と勉強を重ねたかが画面から見て取れるのだ。
へー、ウイスキーのブレンドってそんな器具を使って、そういう風に行うんだ～、とかね。妙に感心します。
美術設定・プロップデザインは『サクラクエスト』『色づく世界の明日から』『パリピ孔明』など過去のP.A. WORKS作品群も担当した宮岡真弓。
画面の隅々にまで映る、ちょっとした小道具も見事な作りこみです。
他にも酒樽を置く貯蔵庫を始め、蒸留所周りの美術は実に素晴らしい。背景のリアルさが、物語に深みを与えている。美術監督は『映画 ベルセルク黄金時代篇』三部作を始め、『魔法使いの嫁』『ペンギンハイウェイ』『ヴィンランド・サガ』の竹田悠介が担当しているので、折り紙付きです。
(C)2023 KOMA復活を願う会／DMM.com
この映画は単に女若社長の奮闘という、ともすれば軽く扱われてしまいそうな題材の中に、バラバラになった家族の再生というドラマも織り込まれており、幻のウイスキーの復活に向けて、この裏テーマ的なドラマが上手いこと絡んでくる。そのあたりも見ものです。
監督：吉原正行
原作：KOMA復活を願う会
脚本：木澤行人 中本宗応
キャラクター原案：高田友美
キャラクターデザイン：川面恒介
総作画監督：川面恒介
美術監督：竹田悠介
色彩設計：田中美穂
3D監督：市川元成
撮影監督：並木智
編集：高橋歩
音楽：加藤達也
主題歌：「Dear my future」駒田琉生（早見沙織）
アニメーション制作：P.A. WORKS
配給：GAGA
(C)2023 KOMA復活を願う会／DMM.com