豆腐メンタルが情緒をメチャクチャにされた文学作品のワンシーンを3つ挙げていく

 突然ですが、「文学」とつくものにアレルギー的な苦手意識があります。
学力コンプレックスももちろんありますが、豆腐メンタル故に鬱展開に耐えられない。これはとても深刻です。

 それでも読んだり積読してしまうのは、おそらくコンプレックス拗らせてるのと同時に

「情緒をメチャクチャにされたい」

という一種の破滅願望というか自傷行為に近い感情があります。破滅願望なのである程度元気がないと破滅できないのに、自傷行為なのでメンタルやられている時ほど情緒的な血を見たくなります。

 そこで今回はリア友や家族に話そうにもリアクションを取らせること自体が申し訳なくなるような、どこにも発表する機会のなかった「情緒をメチャクチャにされた小説のワンシーン」を3つほど書きたいと思います。
なぜ「ワンシーン」かというと、私自身、全体の物語の完成度がどうとか、文学的なテクニックがどうとか、時代背景がどうとか、そういうことが全く分からないので普段小説読むときに「メチャクチャ興奮する~」「メチャクチャおもしろ~い」くらいしか感じ取れてないからです。

第3位

太宰治「斜陽」

 何か、たまらない恥ずかしい思いに襲われた時に、あの奇妙な、あ、という幽かな叫び声が出るものなのだ。私の胸に、いま出し抜けにふうっと、六年前の私の離婚の時の事が色あざやかに思い浮んで来て、たまらなくなり、思わず、あ、と言ってしまったのだが、お母さまの場合は、どうなのだろう。(青空文庫より引用)

 物語の初めのほうに出てくるこのシーン、主人公のかず子が「最後の貴族」と呼んで心酔する母親とのやりとりですが、とにかく身に覚えがありすぎる。
皿を洗っている時、車を運転している時、なんかもう突然過去のやらかしを思い出して叫びだしたくなる時、ありませんか?私はあります。
このいや~な冷や汗の経験がある人はぜひ斜陽を読んで情緒をぐちゃぐちゃにしましょう。


第2位

太宰治「人間失格」

 考えてみると、堀木は、これまで自分との附合いに於いて何一つ失ってはいなかったのです。
 堀木の老母が、おしるこを二つお盆に載せて持って来ました。
「あ、これは」
 と堀木は、しんからの孝行息子のように、老母に向って恐縮し、言葉づかいも不自然なくらい丁寧に、
「すみません、おしるこですか。豪気だなあ。こんな心配は、要らなかったんですよ。用事で、すぐ外出しなけれゃいけないんですから。いいえ、でも、せっかくの御自慢のおしるこを、もったいない。いただきます。お前も一つ、どうだい。おふくろが、わざわざ作ってくれたんだ。ああ、こいつあ、うめえや。豪気だなあ」
 と、まんざら芝居でも無いみたいに、ひどく喜び、おいしそうに食べるのです。自分もそれを啜りましたが、お湯のにおいがして、そうして、お餅をたべたら、それはお餅でなく、自分にはわからないものでした。決して、その貧しさを軽蔑したのではありません。(自分は、その時それを、不味いとは思いませんでしたし、また、老母の心づくしも身にしみました。自分には、貧しさへの恐怖感はあっても、軽蔑感は、無いつもりでいます)あのおしること、それから、そのおしるこを喜ぶ堀木に依って、自分は、都会人のつましい本性、また、内と外をちゃんと区別していとなんでいる東京の人の家庭の実体を見せつけられ、内も外も変りなく、ただのべつ幕無しに人間の生活から逃げ廻ってばかりいる薄馬鹿の自分ひとりだけ完全に取残され、堀木にさえ見捨てられたような気配に、狼狽し、おしるこのはげた塗箸をあつかいながら、たまらなく侘びしい思いをしたという事を、記して置きたいだけなのです。 (青空文庫引用)

 悪友の、なんなら自分よりだらしがないとすら思っていた人間の、きちんとした良識じみたところを初めて見て、改めて自分が人間的になにか欠落しているという事実を突きつけられてショックを受けているシーン。
 
3つ挙げて2枠太宰なのでおそらく太宰の描く人物と急所が近い。メロスとセリヌンティウス並みのメンタル強者でもなければ致命傷になる。文学アレルギーのアレルゲンになりやすい「酒・薬・暴力・貧困・性描写」のフルコースにちっぽけな自尊心と盛大な自己嫌悪を添えて〜みたいなところがあるので「太宰をあえて避ける」のも一つの手かもしれません。


第1位

魯迅「阿Q正伝」

彼の手が筆と関係したのは今度が初めてで、どう持っていいか全くわからない。するとその人は一箇所を指ゆびさして花押かきはんの書き方を教えた。
「わたし、……わたしは……字を知りません」阿Qは筆をむんずと掴んで愧はずかしそうに、恐る恐る言った。
「ではお前のやりいいように丸でも一つ書くんだね」 (青空文庫引用)

最初から最後まで全部辛いのが阿Q正伝。中でもこのやり取りが辛い。
いかに擁護できないところがあっても、立場の弱い人間が、言葉や文字と言った教養がないばかりに騙されて無実の罪で裁かれてしまう流れはしんどい。政治的な描写は全然詳しくないので文学的なアレそれは解りませんが、中学生くらいの時に読んでえらいダメージを喰らった覚えがあります。
トラウマレベルは間違いなくトップクラス。


 現時点でのトップは以上の3つですが、これから色々読むと順番やランクが変わっていくかもしれません。現に太宰に関しては思ったよりショックが和らいでいるので、やっぱり読んだ数を積んでいくと感覚が変わってきている気もする。これから、過去に読んできた作品への印象が変わるのか、はたまたトラウマが増えるのか。とても楽しみです。

 一度味をしめると粗製濫造し始めるあからさまな調子の乗り方をしています。
twitterでは文字数制限が気になってなんとなく避けていた完璧な壁打ちができるの楽しすぎる。
身内にリアクションさせるのが申し訳ない話も文章にはできるので、ガス抜きの意味で書いていこうと思います。よろしければお付き合いください。

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